50話 惑星αへの降下
「ルーデウス号、惑星α大気圏への進入を開始します。」
操縦席に座る遼の前で、航法モニターが次々と切り替わっていく。
その時だった。
「こんにちは。」
突然、若い男の声が船内に響いた。
「ルーデウス号搭載AI、**テット**と申します。」
「これから皆様の降下と着陸をサポートいたします。よろしくお願い致します。」
遼が思わず顔を上げる。
「よろしく テット。」
『はい。』
テットの声は、明るく爽やかな青年のようだった。
『ちなみに、この船はアーク・ノヴァの救命艇としての役割も兼ねています。』
隼人が興味深そうに尋ねる。
「救命艇?」
『はい。』
『ルーデウス号の船体には、極めて強度の高い特殊複合素材が使用されています。』
『核攻撃を受けた場合でも、直撃を避けられれば生存空間を維持できるほどの耐久性があります。』
リサが驚く。
「核攻撃って……。」
『想定される最悪の災害に備えています。』
「……すごい船だな。」
遼は改めて操縦席からルーデウス号の船体構造を確認した。
着陸船というより、小型の要塞に近い。
しかし――。
次の瞬間。
「うわっ!」
船体が大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴ――!
激しい振動が船内を襲う。
「きゃあっ!」
リサが座席へしがみつく。
「な、何これ……!」
玲奈もシートベルトを強く握りしめる。
普段は冷静な彼女の顔にも、明らかな緊張が浮かんでいた。
一方、隼人は操縦補助モニターを確認しながら落ち着いている。
「大丈夫。」
「この程度なら、まだ問題ない。」
遼が隼人を見る。
「さすが小型機のパイロットだな。」
「こういうのには慣れてる。」
隼人が答える。
「でも――。」
その表情が変わった。
「ちょっと揺れが大きいな。」
窓の外を見る。
惑星αの大気圏へ突入したルーデウス号。
周囲の空気が猛烈な速度で船体へ衝突し、窓の外は赤く染まっていた。
やがて赤色は橙色へ。
そして黄色へと変わる。
まるで船体そのものが炎に包まれているようだった。
「燃えてる!」
リサが叫ぶ。
「船が燃えてなくなっちゃうんじゃないの!?」
テットが落ち着いた声で答える。
『問題ありません。』
『現在の船体温度、許容範囲内です。』
『外装耐熱シールド、正常。』
ゴゴゴゴゴ――!
それでも振動は続く。
遼は前方を見据える。
「大気があるんだな。」
テットが答える。
『はい。』
『密度は地球よりかなり低いですが、明確な大気層を確認しています。』
「生命が存在できる可能性も……。」
リサの声に、かすかな希望が混じる。
その時、船体の振動が少しずつ弱くなっていった。
『大気圏通過まで、あと十秒。』
『九……八……七……。』
「来るぞ。」
隼人がつぶやく。
『三……二……一。』
ゴォォォ――!
一瞬、さらに強い衝撃が走る。
そして――。
静かになった。
「……。」
リサが恐る恐る目を開ける。
「終わった……?」
テットが答える。
『大気圏通過完了。』
遼が深く息を吐いた。
「よし。」
しかし、まだ終わりではない。
『現在速度、降下限界を超えています。』
『減速シーケンスへ移行。』
船体後部の推進機関が点火する。
ゴォンッ!
強烈な逆噴射。
身体が吹っ飛びそうな感覚。
「うっ……!」
玲奈が歯を食いしばる。
隼人も耐える。
「まだ減速する!」
逆噴射が続く。
徐々に速度が落ちていく。
やがて――。
『通常飛行モードへ移行します。』
エンジン出力が下がった。
船内に静けさが戻る。
「……ようやくか。」
遼が小さく笑う。
リサは大きく息を吐いた。
「怖かった……。」
玲奈も苦笑する。
「私も。」
隼人は窓の外を見た。
「見てみろ。」
四人が一斉に窓を見る。
そこに広がっていた景色は――。
茶色。
どこまでも続く、茶色の大地だった。
緑はない。
大きな海も見えない。
視界のほとんどを、岩石と荒れた地形が占めている。
切り立った岩場。
巨大な谷。
赤茶けた平原。
「……地球とは、全然違う。」
リサが呟く。
テットが地形データを表示する。
『現在、高度一二〇〇メートル。』
『着陸可能地点を検索します。』
遼が前方を見つめる。
「できるだけ平らな場所を探してくれ。」
『了解。』
いくつもの候補地点がモニターに表示される。
「ここは?」
玲奈が指差す。
『傾斜一二度。着陸には不適。』
「じゃあ、あそこ。」
隼人が指す。
『岩石密度が高すぎます。』
「もっと先。」
遼が操縦桿を握る。
やがて――。
荒れた大地の中に、比較的平らな広い場所が見えてきた。
『着陸候補地点を確認。』
『傾斜二・一度。障害物、少数。』
遼が頷く。
「ここだ。」
「ルーデウス号、着陸する。」
巨大な着陸船がゆっくりと高度を下げる。
未知の惑星の探索が始まる




