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48話 嫌な笑い方

食堂では、今日もエレナを中心に「アーク・ノヴァ☆スターズ」 の動画撮影が行われていた。

食堂の一角は簡易スタジオに早変わりしている。

小型カメラが三台。

照明。

そして、ひかりがどこから持ってきたのか分からないほど巨大なスピーカー。


「はい、みんな位置について!」


エレナが手を叩く。


「今日は新しい振り付けよ!」


「えー!」


ひかりが元気よく声を上げる。


「昨日より難しくない?」


「大丈夫よ。」


エレナは笑顔で答える。


「ひかりならできる!」


イザベルはすでに準備万端だった。


「私はいつでもOK!」


一方、玲奈は少し緊張した表情で立っている。


「本当にこの振り付けで撮るの?」


「大丈夫。」


リサも隣で小さくうなずく。


「みんなでやれば……。」


そこへ、食堂の入口を通りかかった遼が足を止めた。


「……またやってるのか。」


エレナが振り返る。


「あ、遼!」


「ちょうどいいところに来たわ。」


「何で?」


「撮影係。」


「俺が?」


遼が嫌そうな顔をする。


「カメラなら固定できるだろ。」


「今日は動きながら撮るの。」


「……。」


遼は諦めたようにカメラを受け取った。


「分かったよ。」


音楽が始まる。

エレナを中心に、五人が一斉に踊り始める。

ひかりは満面の笑顔。

イザベルはノリノリ。

玲奈は少しぎこちないが、以前に比べればずっと自然になった。

リサは恥ずかしそうにしながらも、一生懸命振り付けについていく。

そしてエレナ。

医師とは思えないほど堂々とした姿で、歌いながら踊っている。

遼はカメラ越しにその姿を見ていた。


(みんな、本当に楽しそうだな。)


エレナが最後のポーズを決める。


「カット!」


遼がカメラを止める。


「どう?」


エレナが駆け寄ってくる。


「かなりいいぞ。」


遼が映像を確認する。

その時、ひかりが横から画面を覗き込んだ。


「うわー!」


「私、めちゃくちゃ可愛い!」


玲奈も笑う。


「自分で言う?」


「だって本当だもん!」


食堂に笑い声が広がる。

その後、編集を終えた動画は動画共有プラットフォームに投稿された。

まさか、これほど反響があるとは、誰も予想していなかった。

数時間後、ひかりがタブレット端末を手に、食堂へ駆け込んでくる。


「大変!」


「どうしたの?」


エレナが振り返る。

ひかりは画面を皆に見せた。

そこには、動画共有プラットフォームのランキングが表示されていた。


「見て!」


「『アーク・ノヴァ☆スターズ』が、週刊注目動画にランクインしてる!」


「ええっ!?」


イザベルが声を上げる。

玲奈も画面を覗き込んだ。


「本当に?」


「本当よ!」


エレナは驚きながらも、嬉しそうに微笑んだ。


「私たちの動画が……?」


リサは目を丸くしている。


「宇宙船の中で撮った動画なのに、こんなに見てもらえるんですね。」


ひかりは大喜びで飛び跳ねた。


「すごい! 私たち、宇宙で一番有名なアイドルになれるかも!」


遼は苦笑しながら、ランキング画面を見つめた。


「ここ、ひかりの動きがちょっと早い。」


玲奈が笑う。


「いいじゃん!」


ひかりは気にする様子もない。

その時だった。

突然、食堂の大型モニターが暗くなった。


「え?」


全員が一斉に画面を見る。

映像が切り替わった。

そこに表示されたのは――。

**HORIUCHI SPACE**

巨大企業のロゴ。

そして、その中央に堀内正樹が現れた。


「アーク・ノヴァの皆さん、ごきげんよう。」


食堂の空気が一気に変わった。

遼は立ち上がる。


「堀内……。」


堀内は穏やかな笑顔を浮かべていた。


「まずは、神谷玲奈君。」


玲奈の表情が険しくなる。


「君の発言には困ったよ。」


「『堀内が殺人行為を行っている』という、あの発言だ。」


「君のおかげで、私は大変な目に遭った。」


堀内は苦笑する。


「一時は警察に拘束されたよ。」


「HORIUCHI SPACEの株価は暴落。」


「関連銀行も倒産寸前。」


「世界同時株安。」


「世界恐慌が起こる、一歩手前だった。」


隼人が呆れた顔をする。


「当然のことだろう……。」


堀内は肩をすくめる。


「正直、私も思ったよ。」


「もう、これは駄目だと。」


しかし、そこで堀内の表情が変わる。


「だが――。」


「状況は変わった。」


画面に、義体転送を受けた人々のデータが映し出される。


「私が義体転送を行った人々の中から。」


「メインコンピューターとの接続なしで、意思を持って動き始めた者が現れた。」


玲奈が息をのむ。


「……!」


遼も画面を見つめる。


「そちらの――」


堀内が笑う。


「天城ひかり君の父親も、その一人だ。」


ひかりは黙って画面を見つめていた。

堀内は続ける。


「これは、私が長年求めてきた答えに近い。」


「義体そのものに、意識が定着する。」


「つまり――。」


「私の技術は完成へ向かい始めた。」


遼が低い声で言う。


「そんな……。」


「それが分かったから、罪に問われなかったということか。」


「その通り。」


堀内は満足そうに笑う。


「だから私は、次の手を打った。」


画面が切り替わる。

そこには日本政府の宇宙開発関連施設と、HORIUCHI SPACEのロゴ。


「内閣宇宙開発安全保障局、アーク・ノヴァ計画への投資を決めた。」


玲奈が目を見開く。


「投資……?」


「そう。」


堀内は続ける。


「アーク・ノヴァには、これまで通り未知の宇宙を探索してもらう。」


「そして君たちが発見したものを、私たちが地球へ持ち帰る。」


「新しい惑星。」


「新しい資源。」


「新しい生命。」


「新しい技術。」


「その成果を、HORIUCHI SPACEが商品へ変える。」


堀内はにっこりと笑う。


「お互いに利益がある。」


「実に素晴らしい提携だろう?」


ジョンが怒りを抑えながら言う。


「結局、宇宙を金儲けの道具にするつもりか。」


堀内は悪びれない。


「金がなければ、探査も研究も続けられない。」


「君たちは探す。」


「私たちは、それを社会へ還元する。」


「ウィンウィンの関係だよ。」


遼は腕を組み、冷たい目で画面を見つめる。


「俺たちは、誰かのための商品を作るために宇宙へ来たんじゃない。」


堀内は笑う。


「もちろん、それは分かっている。」


「だから、君たちは今まで通り自由に探査を続けてくれたまえ。」


「少なくとも――。」


「今はね。」


その一言に、遼たちの表情が変わる。

堀内は最後に静かに言った。


「宇宙は広い。」


「まだ誰も知らないものが、いくらでも眠っている。」


「君たちが何を発見するのか、楽しみにしているよ。」


通信が切れた。

食堂に沈黙が落ちる。

ひかりがぽつりと言った。


「……なんか、嫌な笑い方だった。」


遼は画面が暗くなったモニターを見つめる。


「そうだな・・・・。」





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