47話 名前は慎重に
アーク・ノヴァの船内で、遼は何か一つの専門分野に秀でているというタイプではなかった。
大型宇宙船の免許は持っているので宇宙飛行士とも言えるが 小型機しか運転経験はない
機械の扱いも、それなりにできるが整備士ではない。
船外活動はやったことがある程度。
射撃も、格闘も一応こなす程度。
大学で教鞭を取っていたこともあるが
科学者のような専門知識があるわけではない
大学で書いた恒星間航行AIについての論文は世間的にはかなり評価されたようだが それを発展させたのは後輩達だ
しかしまあ手先は器用だ
幅広い経験から
何か問題が起きると、なぜか遼に声がかかる。
「遼、これ見てくれ。」
「遼、ちょっと手伝って。」
「遼、どう思う?」
気がつけば、十二人の中で一番忙しい。
本人からすると、
(俺、便利屋じゃないんだけどな……。)
と思っている。
しかし、そんな遼にも船内でお気に入りの場所があった。
食堂。
アーク・ノヴァには食堂のほかにも、談話室、会議室、中央ホールなど、乗員が集まれる場所がいくつも用意されている。
それでも、なぜか皆が最終的に集まってくるのは食堂だった。
食事をする。
コーヒーを飲む。
くだらない話をする。
悩み相談。
時には仕事の愚痴まで飛び出す。
クルー達にとって、食堂は家のリビングのような場所になっていた。
今日も遼は、食堂の前を通りかかっただけだった。
「遼!」
突然、ひかりの声が飛んでくる。
遼が足を止める。
「なんだ?」
食堂を覗くと、ひかり、隼人、玲奈、リサ、イザベル、ジョンまで集まっている。
しかも中央のテーブルには、大型のホログラムが表示されていた。
遼は嫌な予感がした。
「何をしてるんだ?」
ひかりが嬉しそうに説明する。
「次の探査計画!」
「プロキシマ・ケンタウリで、初めて惑星への着陸探査をするでしょ?」
「うん。」
遼も聞いていた。
恒星間航行の次なる大きな目標。
プロキシマ・ケンタウリ系の惑星調査。
無人探査だけではなく、実際に着陸船を降ろし、地表を調べる。
それはアーク・ノヴァにとって、これまで以上に重要な任務になる。
ひかりがホログラムを切り替える。
そこには巨大な着陸船の設計図が映っていた。
「これが五十メートル級の着陸船!」
「中には偵察機も積むの。」
さらに映像が切り替わる。
小型の飛行偵察機。
そして、地表を走る大型バギー。
さらに二本のキャタピラを持つ、小型の移動バイク。
「名前を決めようとしてるの。」
ひかりは楽しそうに言った。
「候補はこれ!」
ホログラムに名前が表示される。
**着陸船――ルーデウス号。**
**偵察機――シルフィエット。**
**陸上移動装甲バギー――エリス。**
**二輪キャタピラ車――ロキシー。**
遼は数秒間、黙っていた。
そして思った。
(……それ、まずくないか。)
「おい。」
「何?」
「その名前、本当に使うのか?」
ひかりが首をかしげる。
「いい名前でしょ?」
隼人も笑う。
「俺は結構好きだけど。」
玲奈も少し考える。
「でも……確かに、全部並べると妙ね。」
リサが眼鏡を直す。
「元ネタを知っている人には分かってしまうかもしれませんね。」
「知ってる?」
遼が聞き返す。
ひかりは胸を張る。
「もちろん!」
「私は大好き!」
ジョンは苦笑する。
「……君たち、本当に宇宙船の名前を決めてるのか?」
遼は頭を抱えた。
「プロキシマ・ケンタウリ初の有人惑星着陸探査だぞ。」
「もっとこう……歴史に残る名前とかないのか?」
ひかりは少し考えてから答える。
「歴史に残るじゃん。」
「すごく。」
遼はため息をついた。
「そういう意味じゃない……。」




