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45話 それぞれの別れ


遼は地球との通信記録を確認していた。

そこで、地球に残してきた妻――美咲のことを知らされた。


「美咲は……5年前に亡くなった。」


分かっていた。

あのブラックホールの中で、美咲と最後に会った時から、そんな予感はしていた。

それでも――。

遼はしばらく何も言えなかった。


「……悲しいな。」


静かにそう呟いた。

アレックスも、そんな遼の横顔を見ていた。

彼もまた、大切な人を失ったのだろう。

言葉にはしなかった。

だが、その表情を見れば分かった。

ほかのクルーたちも同じだった。

10年という長い年月の間に、家族や友人、大切な人との別れを経験した者もいる。

それでも誰も、その悲しみを表には出そうとしなかった。


「俺たちは宇宙探査船のクルーだからな。」


隼人が笑う。


「いつまでも暗い顔してられないだろ。」


ひかりも明るく笑った。


「そうそう! せっかく宇宙にいるんだから!」


みんなも笑った。

その笑顔の奥に、それぞれの悲しみを抱えながら。

やがて、HORIUCHI SPACEの船員たちは、この宙域で資源採掘を行った後、地球へ戻ることになった。

ひかりの父親も、その船に乗る。

別れの時が来た。


「パパ……。」


「ひかり。」


二人はしばらく見つめ合った。


「また会える?」


父親は笑った。


「ああ。きっと会える。」


「約束だよ。」


「ああ、約束だ。」


ひかりは父親の手を握った。

そして、HORIUCHI SPACEの船へ向かう父親を見送った。

宇宙空間に浮かぶ二隻の船。

やがてHORIUCHI SPACEの船が、ゆっくりと離れていく。

ひかりは小さく手を振り続けた。


「またね、パパ。」


その声は、宇宙の静寂に消えていった。

アーク・ノヴァも、再び進路を取る。


遼は前方の宇宙を見つめた。

失ったものは、もう戻らない。

それでも――。

残された者たちは、前へ進まなければならない。

アーク・ノヴァは、未知なる宇宙へ向かって再び加速を始めた。


地球との定期量子通信が、今日から再開されることになった。

アーク・ノヴァの船内には、少しだけ明るい空気が戻っていた。

中でも、一番落ち着きがなかったのが隼人だった。

「今日、香織さんと話せるんだよな?」


「十日ぶりだぞ?」


「色々あったからな話すことがいっぱいだ……。」


何度も髪を整えたり、通信端末の前を行ったり来たりしている。

ひかりはその様子を見て呆れていた。


「隼人、落ち着きなさいよ。」


「うるさい。」


隼人はそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。

そして――。

通信開始時刻。

大型スクリーンに地球統合宇宙管制センターが映し出される。


「こちらアーク・ノヴァ。」


通信が接続された。

画面に、一人の女性が映る。


「隼人君!」


「久しぶり!」


隼人の顔がぱっと明るくなる。


「香織さん!」


「本当に久しぶりですね!」


しかし――。

その瞬間。

隼人の笑顔が止まった。

画面の向こうにいたのは、十年前に見た香織ではなかった。

かつてはアイドルのような整った容姿で、すらりとしていた女性。

しかし今の香織は――。

かなりふくよかになっていた。

髪型も変わっている。

雰囲気もすっかり落ち着いたものになっていた。


「……。」


隼人の顔が、ゆっくりこわばっていく。

香織はそんなことには気づかず、笑顔で話し始めた。


「私ね、八年前に結婚したの。」


「今は子どもが二人いるんだ。」


「毎日忙しいけど、すごく幸せよ。」


「そう……ですか。」


隼人は必死に笑顔を作る。


「おめでとうございます。」


声は明るい。

しかし、顔は明らかに引きつっていた。


「ありがとう!」


香織は昔と変わらない明るい笑顔で話を続ける。


「地球ではアーク・ノヴァの帰還が大ニュースになってるのよ。」


「本当に、みんな心配してたんだから。」


しばらく会話が続いた。

そして通信終了。


「それでは、また次回。」


「……はい。」


画面が暗くなる。

その瞬間――。

隼人の肩が、がっくりと落ちた。


「…………。」


しばらく無言。

その背後から、ひかりが近づいてくる。

そして何も言わず――。


**ポン。**

隼人の肩を叩く。

**ポン、ポン。**

隼人は振り返る。

ひかりは何も言わない。

ただ、何とも言えない表情で隼人を見ている。

隼人は深いため息をついた。


「……十年って、長いな。」


ひかりは静かにうなずいた。


「うん。」


「長いよ。」


その一言だけが、妙に胸に響いた。



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