22話 科学者として
未知の光との遭遇から一夜が明けた。
アーク・ノヴァの船内では、誰もがまだ興奮冷めやらぬ様子だった。
食堂でも、ブリッジでも、機関室でも。
話題は一つしかない。
「あの光、何だったんだろう。」
「生命体だったのかな。」
「自然現象には見えなかったよね。」
「ひかりのチャーハン、本当に食べたように見えた。」
誰もが自分の考えを口にする。
しかし、答えを知る者は一人もいなかった。
その中で、一人だけ特に落ち込んでいる人物がいた。
ジョン・マーフィーーである。
研究室の机には、観測データが山のように積まれていた。
ジョンは頭を抱えたまま、モニターを見つめ続けている。
「……こんなことがあるのか。」
リサがコーヒーを持ってきた。
「まだ調べてるの?」
ジョンは苦笑した。
「調べるしかないだろ。」
「目の前にいたんだ。」
「もしかしたら、人類史上初めて異星知的生命体と接触した瞬間だったかもしれない。」
「それなのに……。」
ジョンは一枚の写真を画面に映し出した。
真っ白だった。
光しか写っていない。
別の写真も。
動画も。
高速度カメラの映像も。
すべて白く飽和していた。
「撮影機器は全部、強すぎる光で白飛びしている。」
「輪郭すら分からない。」
「スペクトルデータも取得不能。」
「重力反応なし。」
「質量不明。」
「電荷も不明。」
「結局、何一つ科学的な証拠が残らなかった。」
ジョンは椅子にもたれ、大きくため息をついた。
「科学者として、これほど悔しいことはない。」
リサも静かにうなずく。
「あんな存在、二度と会えるか分からないものね。」
「そうだ。」
ジョンは天井を見上げた。
「もし本当に異星人だったなら……。」
「人類は歴史的な瞬間を目の前にして、何も記録できなかった。」
研究者として、それは敗北にも等しかった。
その時、遼が研究室へ顔を出した。
「ジョン。」
「まだ落ち込んでるのか。」
ジョンは苦笑する。
「もちろんだよ。」
遼はモニターいっぱいに映る真っ白な画像を見つめ、しばらく考えてから言った。
「でもさ。」
「何だかワクワクしたよな。」
ジョンが顔を上げる。
「まあ ・・・確かにな」
ジョンはしばらく黙っていた。
やがて小さく笑う。
「科学者としては納得できない。」
その言葉に、リサも微笑んだ。
答えは、まだない。




