21話 未知との遭遇2
謎の光を追い始めてから、丸一日が過ぎていた。
アーク・ノヴァの十二人は、船内中を走り回っていた。
「また消えた!」
「今度は農業プラントだ!」
「いや、展望ブリッジ!」
「格納庫へ移動した!」
目撃したと思えば、次の瞬間には壁をすり抜けて別の区画へ現れる。
ドアを開ける必要もなければ、天井も床も関係ない
まるで船全体が、この光にとっては一つの空間でしかないようだった。
「ジョン、どうだ?」
アレックスが研究室へ入る。
ジョンはモニターを何枚も並べ、額に手を当てていた。
「駄目だ……。」
「質量は測定できない。」
「電荷も不明。」
「電磁波なのか、粒子なのか、それすら分からない。」
隣ではリサも白衣姿で必死にデータを解析していた。
「分光分析。」
「重力測定。」
「量子干渉計。」
「ニュートリノ検出器。」
「重力波センサー。」
「高速度カメラ……。」
リサは深いため息をつく。
「全部試したわ。」
「でも、何一つ決定的なデータが取れない。」
ジョンが苦笑した。
「観測しようとすると、まるで測定を避けるみたいに消えてしまう。」
「こんなの、科学じゃ説明できない。」
リサも肩をすくめる。
「完全にお手上げね。」
「人生で初めてよ。」
「『分かりません』って素直に認めるしかないなんて。」
ジョンは椅子にもたれかかった。
「未知との遭遇っていうのは、こういうことなんだろうな。」
その頃も、光は船内をふわふわと漂っていた。
時々、ひかりの頭の上をくるくる回り、驚かせる。
隼人が捕まえようと飛びつけば、壁をすり抜ける。
遥が回り込めば、天井へ逃げる
まるでいたずら好きの子どものようだった。
夕方。
ついにアレックスが深く息を吐い
船内放送のスイッチを入れる。
「全員聞いてくれ。」
乗員たちが足を止める。
「本日の捜索は終了する。」
「これ以上追いかけても成果は期待できない。」
少し間を置いてから、アレックスは笑った。
「みんな。」
「食堂に集合。」
「めしにしよう。」
その一言で、張り詰めていた空気が一気に和らいだ。
「賛成!」
ひかりが真っ先に手を挙げる。
「もうお腹ペコペコ!」
隼人も笑う。
「俺も今日は走り疲れた。」
「光より俺たちの方が先にバテたな。」
遙も苦笑する。
「捕まえられる気がしない。」
十二人はぞろぞろと食堂へ向かい始めた。
その後ろを――
誰にも気づかれないように、小さな白い光がふわりと浮かび、楽しそうに彼らの後をついていくのだった。丸一日続いた、不思議な光との追いかけっこ。
結局、誰一人として正体を突き止めることはできなかった。
ジョンとリサはあらゆる観測機器を使って解析を試みた。
しかし、得られた結論はたった一つ。
「分からない。」
科学者としては悔しい結果だったが、それ以上の答えは見つからなかった。
その夜。
食堂には香ばしい匂いが漂っていた。
今日の夕食はリサ特製中華。
チャーハン、麻婆豆腐、青椒肉絲、春巻き、卵スープ。
もちろん肉料理に使われているのは、農業プラントで育てた大豆から作られた人造肉だ。
「いただきまーす!」
誰よりも早く声を上げたのは、ひかりだった。
スプーンで山盛りのチャーハンをすくうと、そのまま口いっぱいに頬張る。
「ん~~!」
目を輝かせながら叫ぶ。
「おいしーー!」
食堂に笑い声が広がる。
リサも嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえると、作ったかいがあるわ。」
その時だった。
ふわり。
食堂の入口から、あの小さな白い光が静かに入ってきた。
誰も武器を取らない。
誰も逃げない。
十二人は静かにその光を見つめていた。
光は食堂の中央で止まり、ゆっくりと揺れている。
まるでみんなの様子を見ているようだった。
「ねぇ。」
ひかりが優しく声を掛ける。
「あなたも食べる?」
皆がひかりを見る。
ひかりは何の迷いもなく、チャーハンを一口分スプーンですくった。
「はい。」
小さな光へ差し出す。
「おいしいよ。」
数秒の静寂。
すると――
光がゆっくりとスプーンへ近づいた。
そして。
スッ――。
チャーハンへ触れた、その瞬間だった。
「あっ……。」
光が一瞬だけ柔らかく輝く。
まるで、本当に食べたかのように。
次の瞬間。
光は少しだけ小さくなった。
「え……?」
玲奈が思わず立ち上がる。
さらに光は小さく、小さく縮んでいく。
誰も動けない。
誰も声を出せない。
やがて。
ふっ……
小さな光は最後に一度だけ優しく瞬き、その場から静かに消えた。
完全に。
跡形もなく。
食堂には静寂だけが残る。
しばらくして、遼がぽつりとつぶやいた。
「……行ったな。」
ジョンは何度もセンサーを確認する。
「反応なし。」
リサも首を振った。
「完全に消えたわ。」
アレックスは静かに腕を組む。
「あれは何だったんだろうな。」
誰も答えられない。
敵だったのか。
味方だったのか。
生命だったのか。
現象だったのか。
最後まで、その正体を知ることはできなかった。
ただ一つ確かなのは――
あの小さな光は、最後にひかりから差し出された一口を受け取り、満足したように静かに旅立っていったことだけだった。
そしてアーク・ノヴァは再びエンジンを響かせ、人類がまだ誰も足を踏み入れたことのない、さらに深い恒星間空間へ向けて航行を続けるのだった。




