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20話 未知との遭遇

アーク・ノヴァは恒星間空間を順調に航行していた。

周囲には、もう太陽系の天体はほとんど見えない。

太陽ははるか後方で、ひときわ明るい一つの恒星として輝いているだけだった。

ブリッジは静寂に包まれていた。


その時――


「船長!」


玲奈が思わず声を上げた。


「前方です!」


展望ブリッジの正面。

漆黒の宇宙が、一瞬にして昼間のような白い光に包まれた。


「うっ……!」


あまりのまぶしさに、遼は思わず目を細める。

ひかりは両手で顔を覆った。


「な、何これ!」


光は数秒間続き、やがてゆっくりと消えていく。

ブリッジには再び静寂が戻った。

ノアが即座に解析を始める。


「高エネルギー放射を検出できません。」


「ガンマ線、X線、紫外線の増加なし。」


「推定発生源、前方約20キロメートル。」


悠斗がモニターを見つめる。


「恒星のフレアじゃない……。」


「そもそも観測装置に反応しない。」


ジョンもデータを確認する。


「超新星爆発なら距離が近すぎる。」


「それに残光のパターンが違う。」


アレックスは腕を組む。


「ノア。」


「結論は?」


数秒の沈黙。


「現時点では特定できません。」


「観測データが不足しています。」


「未知の天文現象である可能性があります。」


ブリッジに緊張が走る。

未知。

その言葉こそ、この航海で最も重い言葉だった。

遼は窓の外を見つめながら、小さくつぶやく。


「なにが起こっている」


その誰も正体を知らない閃光は、静かな恒星間空間に確かに存在していた。

恒星間空間を照らした、あのまばゆい閃光。


その光は一瞬だけアーク・ノヴァの船体を包み込むと、まるで意思を持っているかのように船尾へ回り込み、そのまま吸い込まれるように消えていった。


「……消えた?」


玲奈が息をのむ。


「いや。」


アレックスは鋭い目で船内モニターを見つめた。


「消えたんじゃない。」


「入った。」


ブリッジの空気が一変する。

アレックスが立ち上がり、大声で命じた。


「ノア!」


「船内を全スキャン!」


「赤外線、重力、電磁波、ニュートリノ反応……使えるセンサーを全部使え!」


ノアが即座に応答する。


「了解。」


「全船内スキャン開始。」


数秒後。


「……異常。」


「第三区画から第七区画にかけて、未知のエネルギー反応を確認。」


「反応はゆっくり移動中。」


「形状は一定しません。」


「物理法則と一致しない挙動を確認。」


悠斗が画面を見つめる。


「まるで……。」


「壁を無視して移動してる。」


ノアも続ける。


「対象は隔壁を通過しています。」


「通常物質ではありません。」


アレックスは即座に判断した。


「総員へ。」


船内放送が鳴り響く。


「全乗員、護身用ハンドガンを携帯。」


「未知の侵入者を捜索する。」


「ただし――」


一拍置いて、アレックスは続けた。


「発砲は極力控えろ。」


「相手の正体が分からない以上、不用意な攻撃は禁止する。」


「捕捉を最優先とする。」


「了解!」


十二人が一斉に動き出した。

遼と隼人は生活区画を担当する。


「いたか?」


「いや。」


二人は慎重に廊下を進む。

その瞬間。

廊下の奥で、小さな光がふわりと浮かび上がった。


「いた!」


遼が叫ぶ。

白く輝く光球。

大きさはテニスボールほど。

輪郭はぼやけ、脈打つように明滅している。

隼人が飛び出した。


「止まれ!」


もちろん返事はない。

光は音もなく廊下を滑るように移動し、そのまま隔壁へ向かった。


「ぶつかる!」


しかし次の瞬間――

スッ……

光は金属製の壁を水の中へ潜るように通り抜け、姿を消した。


「なっ!?」


隼人は立ち尽くす。


「壁を……通った?」


「こちら玲奈!」


通信が入る。


「今、機関室で反応!」


「すぐ向かう!」


遼たちは全力で走る。

しかし機関室へ着く頃には、光はすでに別の区画へ移動していた。


「医務室!」


「いや、農業プラントだ!」


「格納庫へ向かった!」


次々と目撃情報だけが入る。

光は誰かを襲うわけでもなく、何かを壊すわけでもない。

ただ船内を自由自在に飛び回っている。

まるで十二人とかくれんぼでもしているかのようだった。

ひかりは思わず叫ぶ。


「もう!」


「速すぎるよ!」


その時、リサがぼそりと言った。


「……逃げてるようには見えない。」


全員が振り向く。


「え?」


リサは光が消えた方向を見つめていた。


「追いかけられて遊んでる……。」


「そんなふうに見える。」


誰も答えられなかった。

未知の存在。

未知の知性。

それとも、ただの自然現象なのか。

アーク・ノヴァ十二人と、謎の光との奇妙な追いかけっこは、まだ始まったばかりだった。

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