13話 食堂でのひととき
アーク・ノヴァは、直径およそ二キロメートルの浮遊岩石にアンカーを固定し、船体を接岸させた状態で停止していた。
人工重力のない静かな宇宙。
巨大な岩石はゆっくりと自転し、その向こうには無数の星々が輝いている。
左舷では、作業用アームと船外作業用ドローンが絶え間なく動き続けていた。
傷ついた船体は少しずつ元の姿を取り戻していく。
その頃。
船外活動を終えた遥がエアロックへ戻ってきた。
「船外作業終了。」
ヘルメットを外すと、大きく息をつく。
「ふぅ……。」
額には汗がにじんでいた。
「お疲れ遥交代だよ」
隼人はそう言うと、ヘルメットをかぶり、エアロックへ向かった。
十分後。
船外作業を終えた遼は宇宙服を脱ぎ、食堂へ向かう。
今日の昼食はハンバーグだった。
こんがりと焼かれたハンバーグに、ポテトサラダ、スープ、ライス。
ノアが栄養バランスを計算した定番メニューだ。
トレーを受け取り、食堂を見渡す。
あちらのテーブルでは、アレックスとジョンが珍しく熱く議論していた。
「だから私は、あの戦争は避けられたと思っている。」
ジョンが真剣な表情で言う。
アレックスは腕を組んだ。
「理想論だ。」
「火星政府も地球連合も、あの時点では引き返せなかった。」
「互いに譲歩する余地はなかったんだ。」
「いや、それでも外交は――」
二人の議論はますます白熱していく。
その隣では、エレナとイザベルがまるで別世界だった。
「それでね、その化粧品がすごく良かったの。」
「えー、本当?」
「それ今度貸して。」
「あと、あのお店の商品がさ~!」
二人は楽しそうに女子トーク中だ。
遼は苦笑した。
(どっちの席も入りづらいな……。)
トレーを持ったまま立ち尽くしていると――
「遼!」
声がした。
振り向くと、玲奈が手を振っている。
「こっち。」
玲奈のテーブルにはひかりと悠斗がいた
「ありがとう。」
遼は少しほっとした表情で腰を下ろす。
「ねえ、遼。」
「アニメは何が好き?」
「え?」
あまりにも突然の質問だった。
遼は少し考え込む。
「俺は……**『機動戦艦やまと』**かな。」
「宇宙もの?」
玲奈は興味津々だ。
「ああ。」
「人類がまだ宇宙へ夢を抱いていた時代の作品が好きだった。」
「仲間と旅をして、困難を乗り越えていく話。」
「波動砲 発射~ 敵の艦隊も一瞬でやっつけちゃうんだから」
玲奈は笑顔になる。
「それ、今の私たちみたい。」
遼もつられて笑った。
「そうかもしれない。」
「現実の方が、ずっと壮大だけどね。」
悠斗が笑いながら手を挙げる。
「俺は**『銀河英雄999』**かな。」
「子どもの頃、何回も見たよ。」
「宇宙を旅して、いろんな星を巡る話ってワクワクしたな。」
「懐かしいわー」
玲奈が笑う。
「やっぱり宇宙なんだね。」
「私はね、『セーラー服ムーン』。」
「月に一代わって押し出すよ。」
食堂に笑い声が広がる。
「玲奈にもそんな時代があったんだ。」
「私だって普通の女の子だったんだから。」
遼も笑いながら聞いていた。
「はいはい!」
勢いよく手を挙げたのはひかりだった。
「私はね!私はね」
ひかりが勢いよく手を挙げた。
「私はね!」
「『葬送のアウラ』!」
「シュタルクさまがフェルンにぶっ飛ばされるシーンが大好き!」
「何回見ても笑っちゃう!」
目を輝かせながら熱弁する。
「懐かしいわぁ~。」
「子どもの頃、毎週楽しみにしてたんだよねぇ。」
その言葉を聞いて、遼は思わず苦笑した。
(……いや。)
(それ、今オンエア中でしょ。)
心の中だけでそっとツッコミを入れる。
隣の玲奈も同じことを思ったのか、口元を押さえて笑いをこらえている。
悠斗も肩を震わせながら、
激しい戦闘や修繕作業の合間に訪れた、ほんのひとときの穏やかな時間。
アーク・ノヴァの乗員たちは、それぞれの会話を楽しみながら、束の間の休息を過ごしていた。




