12話 船体修繕
戦闘から一夜明けた。
アーク・ノヴァは敵要塞の残骸地帯を離れ、安全宙域で航行を停止していた。
ブリッジでは被害状況の確認が進み、各部署が復旧作業に追われている。
その頃――
左舷後方の整備デッキ。
宇宙服姿のハッサンは、船体に開いた大きな傷跡を見上げていた。
敵要塞の主砲がかすめた部分は、外装装甲が大きくえぐれ、内部フレームまで露出している。
幸い船体貫通していない。
しかし、このまま長距離航行を続けるには不安が残る。
「これは……。」
ハッサンは腕を組んだ。
「かなり派手にやられたな。」
その時、ヘルメットの通信機から声が響いた。
「ハッサン。」
アレックスだった。
「修理はどうなりそうだ?」
ハッサンは傷跡をもう一度見つめる。
ひび割れた複合装甲。
歪んだ支持フレーム。
交換しなければならない配線も少なくない。
(これはかなり時間も手間もかかるな……。)
(正直、めんどくさい仕事だ。)
心の中で小さくため息をつく。
だが通信では、いつもの調子で答えた。
「応急処置で大丈夫です。」
その瞬間だった。
「大丈夫なわけないだろ。」
すぐ後ろから声が聞こえた。
「うわっ!」
ハッサンは思わず飛び上がる。
振り返ると、そこには宇宙服姿のアレックスが立っていた。
「せ、船長!」
「いつの間に……。」
アレックスは腕を組み、傷跡を見上げる。
「通信だけじゃ信用できないと思ってな。」
「直接見に来た。」
ハッサンは苦笑した。
「ばれましたか。」
「応急処置じゃ、この先の航海は危険だ。」
アレックスは即座に言った。
「ここで完全に直す。」
「でも船長。」
「1ヶ月はかかりますよ。」
「構わん。」
アレックスは静かに答える。
「8年以上の航海になるんだ。」
「一ヵ月を惜しんで、後で後悔する方が高くつく。」
ハッサンは少し笑った。
「……ですよね。」
「了解。」
「ちゃんと直します。」
その日のうちに修理計画が立案された。
アーク・ノヴァは安全宙域で完全停止。
大型作業アームを展開。
船外作業用ドローン二十機を投入。
さらに乗員たちも宇宙服を着て船外へ出る。
真田と遥は損傷したフレームの交換。
イザベルは重力制御ユニットの再調整。
悠斗は損傷した通信ケーブルの敷設。
リサは船体外壁へ取り付ける微生物防護コーティングの準備。
隼人も戦闘機の修理を終えると、そのまま船外作業へ加わった。
「船長。」
ひかりが宇宙服姿で手を挙げる。
「私も行っていい?」
エレナが苦笑する。
「ちゃんと命綱を二重にするのよ。」
「はーい!」
こうして、人類初の恒星間探査船は、太陽系外縁部の静かな宇宙で、史上最大規模となる船体の宇宙修繕工事を開始した。
誰一人欠けることなく、この船で目的地へたどり着くために。




