第1部2 二人の先駆者、あるいはユダ⑤
ヨシュアの促す声とともに、ミリアムは逃げ場のない「鑑定台(まな板)」へと押し上げられた。ユダが君臨する頂と対峙するように据えられたその場所からは、数千の憎悪と期待がどろりと混じり合った視線の海が、眼下に見渡せた。
この一歩を踏み外し、答えを間違えれば、待っているのは「死」という名の底知れぬ深淵。二度と、カシウスやサロメの待つ日常の温もりへは帰れない。
ミリアムは震える肩を抱きしめる代わりに、隣で自分を守り続けるナタンへと向き直った。
「……こんなことになって、ごめんね。あなたを巻き込んでしまうなんて、私は本当に……出来損ないの姉様ね」
死の予感に濡れた、微かな声。それでも彼女は、少年の瞳をじっと見つめ、祈るように言葉を継いだ。
「でも、ナタン。お願い……最期の瞬間まで、この手だけは、決して離さないで」
ナタンは何も答えなかった。ただ、骨が軋むほどの強さで、彼女の手を握り返した。掌から伝わる、痛いほどの熱。言葉よりも雄弁な、少年の「生」の拍動。それだけが、今の彼女に許された唯一の聖域だった。
ヨシュアが歩み寄り、ミリアムの掌に一個の石を置いた。
それは、先ほど彼が弄んでいたものと同じ、冷たく、無機質で、何の変哲もない河原の礫だ。
丘の上を、乾いた風が吹き抜ける。
(ねえ、父様……。あなたなら、この理不尽な天秤の上で、何を差し出したかしら?)
心の深淵に問いかけても、没薬の香りを纏ったあの声は、今は聞こえてこない。
しかし、恐怖が極限に達し、頭の中が透き通った冬の空のように澄み渡ったその瞬間――ミリアムは、自分自身の内側から、静かに、しかし抗いようのない確信が湧き上がるのを感じた。
『神を疑ってはならない。神を試してはならない』
(ああ、そうか……。そうだわ。これは、とても簡単な話だったんだわ)
鑑定士として、物理的な正解を探そうとしていた自分の目が、どれほど「物質」に囚われていたか。
ミリアムは、ナタンの掌にその石をそっと置かせた。そして、ナタンの手を握る反対の手で、慈しむように、壊れ物を扱うように、その石の表面を撫でた。
一秒、五秒……十秒。
石は、石のままだ。太陽に照らされても輝きを放たず、黄金に変わる予兆すら見せない。
期待を裏切られた群衆の間から、次第にざわめきと、鋭い嘲笑が漏れ出す。
「それ見ろ! 何も起きないじゃないか!」
「ただの石ころだ! 不信心な小娘に、神が微笑むはずがない!」
「引きずり下ろせ! 聖者を侮辱した罪を、その身で贖わせろ!」
罵声の礫が飛ぶ中、ナタンは歯を食いしばり、必死にミリアムの前に立ちはだかって彼女を庇った。
ミリアムはゆっくりと顔を上げた。罵声と怒号が飛び交う中、彼女の瞳だけは凪いだ水面のように澄み渡っている。
「――私は、この石を変えられなかったのではありません」
凛とした声が、風に乗って丘の隅々まで染み渡る。彼女はナタンの手の上の石を、慈しむように一瞥した。
「私は、『変えなかった』のです」
*
背筋の凍るような静寂が、波紋のように群衆を飲み込んでいく。ミリアムは一歩、また一歩と、ユダが鎮座する御簾の前へと歩を進めた。砂利を踏む小さな音が、静まり返った丘にやけに高く響く。
「なぜなら、今は変える必要がないからです。奇跡とは神の御心そのもの。このような戯れの場で、見世物のように切り売りするものではありません」
彼女はそこで言葉を切り、御簾の奥に潜む「何か」を射抜くように見据えた。
「ユダ様。あなたは先ほど、私がマナを植物だと言った時、なぜ高らかに『これこそが奇跡だ』と言い返さなかったのですか?」
御簾が、主の動揺を映すようにわずかに揺れた。ユダの気配が、完全に凍りつく。ミリアムは空を仰ぎ、砂塵に霞む太陽を指し示した。
「例え、それが空から降るただの植物であったとしても、絶妙な神の配慮によってこの地に運ばれ、今日、飢えた人々の命を繋いだのなら……」
彼女は再び視線を落とし、足元に積もった白い地衣類を、まるで宝石を見るような目で見つめた。
「――それが奇跡でなくて、一体何だというのですか!」
その叫びは、物理的な音量を超えて、人々の魂の震えに直接共鳴した。ミリアムは、呆然と立ち尽くす群衆一人一人の目を見渡すように、言葉を紡ぎ直す。
「泥を金に変えることだけが奇跡ではない。その物によって、救われる心があること」
彼女はナタンの手を、もう一度力強く握り返した。
「絶望の淵にいた者が、明日を信じられるようになること。それこそが、奇跡の本質に他ならないはずです」
石を金に変える手品よりも、ずっと重く、真理を孕んだ一撃が、丘全体を打ち据えた。
ミリアムの震える声が止んだ後、丘を支配したのは、あまりに深く、耳が痛くなるほどの静寂だった。
人々の瞳から、先ほどまでの濁った殺意が潮のごとく引いていく。代わりに宿ったのは、自らの魂の深淵を見つめ直すような、戸惑いと内省の光。
やがて、群衆の端にいた一人の老人が、枯れ木のような手を合わせ、静かに拍手を始めた。
乾いたその音は呼び水となり、瞬く間に伝播していく。二人、三人、そして数百、数千。
それはマナが降った時の狂乱を遥かに上回る、地鳴りのような、しかしどこまでも清冽な喝采となって「忘却の丘」を包み込んでいった。
「――完璧だ。これ以上の『鑑定』を、僕は知らない」
ヨシュアが、最上の悲劇を観終えた観客のように、うっとりと目を細めて呟いた。その陶酔を切り裂くように、御簾の奥からユダの、肺の奥を掻き毟るような声が漏れる。
「……ふざけるな。勝負だと? 噴飯物だ! あの娘は、何一つ変えてはいない。石を石のまま、卑俗な詭弁で塗り潰しただけではないか……!」
「いいや、ユダ。ミリアムは確かに変えたさ。君の退屈な手品などより、ずっと鮮やかに、永遠にね」
ヨシュアは黄金の瞳を三日月のように歪ませ、ミリアムの掌に鎮座する、何の変哲もない「ただの石」を細い指で指し示した。
「彼女はこの石を、この世の何よりも重い『神の教え』に変質させた。――さあ、ユダ。これよりも尊く、これよりも人の魂を震わせるものが、この泥まみれの世界に他にあるのかい? 君が差し出したその卑しい黄金と、どちらが美しいか……この羊たちの顔を見れば、答えは明白じゃないか」
*
ユダは、言葉を失った。
御簾の隙間から見える彼の手が、屈辱に震え、黄金の塊を握りつぶさんばかりに白く強張っている。
民衆はもはや、手元の黄金など見てはいなかった。自分たちの惨めな飢えや、拾い集めたコケに過ぎないマナを、「神の配慮」という名の誇りに変えてみせたミリアムの言葉に、魂ごと酔いしれていたのだ。
ミリアムは、自分をこの現世に繋ぎ止めていた唯一の絆――ナタンの熱い手を、壊れ物を確かめるように強く握り直した。
(……終わったのね)
そう思った瞬間、張り詰めていた魂の糸が、音を立てて千切れた。
極限の緊張と、ヨシュアに魂の深淵を暴かれたことによる劇烈な摩耗。ミリアムの膝から、すべての力が抜け落ちる。
「姉様……っ!」
崩れ落ちそうになる彼女の体を、ナタンが必死にその腕で抱きしめ、支え抜いた。耳元に届くナタンの激しい鼓動、彼の腕の震え、そして混じり気のないその温もり。
それだけが、今のミリアムにとって、ここが底知れぬ悪夢の淵ではなく、痛みと愛のある「現実」であることを伝えてくれる唯一の証だった。
周囲の群衆は、ミリアムが語った「奇跡の本質」の余韻に深く浸り、先ほどの殺気は嘘のように霧散していた。
人々は互いに頷き合い、慈しみ合うような眼差しを交わしながら、地面に落ちたマナを再び拾い上げる。
しかし今度は、獣のように貪るためではない。
それは、神の配慮によって運ばれてきたささやかな恵み。
人々は静かな感謝の祈りとともに、それを聖なるパンであるかのように、一人一人が慈しみながら口へと運んでいた。
*
御簾の奥から、溢れ出る怒気が、黒い霧となって溢れ出していた。
信仰を、奇跡を、そして自らが築き上げてきた鉄壁の聖域を――名もなき鑑定士の娘に「本質」という名の刃で切り裂かれたのだ。ユダの手にある黄金の塊は、もはや価値ある貴金属ではない。それは自身の欺瞞を白日の下に晒す、無機質な礫へと成り下がっていた。
しかし、ヨシュアはその煮え繰り返るような殺気さえも、極上の芳香を愉しむように、軽やかな足取りで御簾へと歩み寄る。
「そんなに不機嫌にならないでくれ、ユダ。言っただろう? 僕は君が幸せそうで嬉しいんだ。こんなものは、ただの余興。君が泥を啜って築き上げたこの絶大な権威が、たかが娘の一言で揺らぐはずもない……。それに、僕は誰よりも知っている。君は、何も無いところから『金』を生み出すのが何よりもお得意だってことをね」
ヨシュアは口元に深い皮肉を刻むと、懐から一枚の銀貨を取り出した。
それは、ミリアムと彼が初めて出会った夜、安ワインの底に沈んでいた「偽金」だった。粗悪な金属を薄い銀で覆い、皇帝の横顔を歪に模った、偽造の極致。
ヨシュアは、周囲の群衆からは決して見えない絶妙な角度を計算し、親指でその銀貨を弾き飛ばした。
鈍い光を撥ねた銀貨は、吸い込まれるように従者の一人の手元へと収まる。
――カチリ。
硬質な音を立ててそれを掴み取った従者は、手中の硬貨を一瞥し、わずかに口の端を歪めた。だが、何も言わぬまま御簾の奥へと手を伸ばし、ユダへ恭しく差し出した。
「――『カエサルのものは、カエサルへ』……だろ?」
ヨシュアの声は囁くように低かったが、ユダの鼓膜には審判の鐘のごとく鋭く、重く響いた。
御簾の向こう側で、氷原が軋むような、長く重苦しい沈黙が流れる。
「……良いだろう。この硬貨は、私が責任を持って――『皇帝陛下』のもと、あるべき場所へとお返ししておこう」
喉を掻き切るような、絞り出すユダの声。
「神輿を上げろ」
地を這うような低き命令により、従者たちが再び御簾を担ぎ上げる。
現れた時の圧倒的な威圧感は霧散し、敗残の将のような、陰惨な空気を纏って――ユダの一行は、群衆を割るようにして、忘却の砂の向こうへと姿を消していった。
静寂の戻った丘で、ヨシュアは去り行くその背を、飽くことのない子供のような、しかしすべてを壊し終えた神のような瞳で見送っていた。
* * *
ユダの神輿が、うねる群衆の波の向こうへ、溶け去るように消えていく。その残像を見届けたヨシュアは、まるで観客の去った劇場の残響を愛しむように、ゆっくりとミリアムへ歩み寄った。
「見事だったよ、ミリアム。……ねえ、教えておくれ。あのユダはどうして、今日この乾いた丘で『マナ』が降ると、あれほど傲慢に確信できたんだと思う?」
ヨシュアの声は、春の陽だまりのように穏やかで、慈愛に満ちていた。しかしミリアムは、その甘い響きの裏側に潜む、獲物を解剖するような冷徹な観察眼を感じ取っていた。彼女はナタンの肩を借り、荒い呼吸を整えながら、鑑定士としての論理の糸を懸命に手繰り寄せた。
「……昨日の、夜だわ。彼はガリラヤ湖で、風の脈動を測っていた。あのマナ・ライケン(地衣類)は、特定の条件下で地上から剥がれ、風を待つだけの状態になる。彼は湖面の水温と、明け方の砂漠の気温差を……上昇気流が発生する刹那を、緻密に計算していた。彼は、気象という巨大な因果を掌握していたのよ」
「素晴らしいね、ミリアム。君の、完全勝利だ」
ヨシュアは、極上の宝石を見つめるように黄金の瞳を細めた。しかし、その賞賛は鋭利な棘となって、ミリアムの胸の奥深くに突き刺さった。
(……完全勝利? 本当に、そうなの?)
脳裏には、いまだ解明できない「未鑑定の残像」が焼き付いて離れない。
昨夜のガリラヤ湖。銀色の魚の背を大地に変え、悠然と水上を歩んでいた男。
死者を蘇らせ、因果を歪めるヨシュア。そして、自然現象を「奇跡」という名の物語へと昇華させたユダ。
彼らは、自分たちのような常人とは違う、もう一段階上の理に住む存在なのではないか。
そして何より、ミリアムの心を芯から凍らせたのは、ヨシュアの瞳そのものだった。
彼は、洗礼者ヨカナンに狂信的な信仰を捧げるユダと、背中合わせの同一存在だ。もし今日、自分が彼の望む「正解」を出せなかったら。もし、自分の鑑定士としての瞳が、彼の興味を繋ぎ止めるに値しない無価値な硝子玉に成り下がっていたら――。
彼は一切の躊躇なく、この狂った群衆の憎悪の中に自分を投げ捨て、見殺しにしただろう。
ヨシュアの黄金の瞳の奥にある、絶対的な冷徹。
それは愛や友情といった、温かな人間の感情を一切介在させない、真理への執着という名の暗黒だった。
(私は……本当に、この人を信頼していいの? この手を取って、地獄の先まで歩んでいいというの……?)
ミリアムが抱いたその根源的な疑念を嘲笑うかのように、空には鉛色の重い雲が立ち込め始めていた。熱を失った風が、忘却の丘に死の匂いを運んでくる。
*
隣で、ナタンが彫像のように硬い表情でそのやり取りを見つめていた。
少年の中にあったはずの幼さは、この「忘却の丘」での狂乱を経て、鋭く、研ぎ澄まされた刃のような決意へと変貌している。「ヨシュア様……偉大なるヨカナンの高弟。知恵の実を食らい、神の理を知る預言者。あなたの深淵を、僕のような無学な身で推し量ることは叶いません。……ですが、願いを聞き届けてください」
彼は震える呼吸を一度深く吸い込み、意を決したように、ヨシュアの黄金の瞳を正面から射抜いた。
「僕から、僕たちから……姉様を奪わないでほしい」
ミリアムは息を呑んだ。ナタンの喉から絞り出されたのは、懇願という名の、血を吐くような宣戦布告だった。
対するヨシュアは、天上の神から慈悲を託された代行者のような、どこまでも深く、濁りのない笑みを浮かべた。
「ナタン。ベツアレムの誇り高き、勇敢な少年よ。僕は知っている。君がその気高き姉のために、どれほど無私の献身を捧げているか。その胸に、どれほど熱く、限りない愛を宿しているか……」
ヨシュアの言葉は、まるで魂の深層を這い回る蛇のように滑らかだった。彼は一度言葉を切り、嘲笑とも憐憫ともつかぬ薄い笑みを浮かべる。
「君は先ほど僕を『預言者』と呼んだね。それは致命的な誤りだ。神のお言葉を直接預かることが出来るのは、この地上で、我が師ヨカナン様ただお一人なのだから」
一拍の沈黙。場を支配する空気は、絶対的な断絶を孕んで凍りついていく。
「……だが、僕は『予言者』ではある。千の瞳を持ち、知恵の果実の苦さを知る僕には、未来の断片が視えるんだ。ならば、勇敢な君に一つ、特別な予言を授けよう」
その瞳が、収束する未来の一点を見据えた。冷酷な審判が下される。
「もし君がこれより先、姉に無上の愛を注ぎ続け、今日のように己の命を顧みず彼女を守り続けるというのなら――君は、必ず命を落とす。非業の死を遂げるだろう」
*
その言葉を浴びた瞬間、ミリアムは心臓を氷の楔で貫かれたような衝撃に襲われた。視界が歪み、呼吸が止まる。予言の言葉が、逃れようのない真実として彼女の魂にのしかかった。
ヨシュアはそこで一転して、見る者の魂を凍土に変えるような、凄絶なまでの笑みを刻んだ。
「……それでも君は、彼女を守り抜くと、この僕に誓えるかい?」
(私のために、ナタンが……死ぬ? そんなこと、あってはならない!)
ミリアムは叫ぼうとした。愛する弟を、その呪わしい運命から引き剥がそうと、声を振り絞ろうとした。だが、ナタンの返答はその叫びよりも速く、露ほどの迷いもなく放たれた。
「それで姉様を、ベツアレムの誇りを守れるのであれば――僕のこの身など、何度でも業火に投げ出しましょう」
少年の瞳には、もはや死への恐怖など欠片もなかった。あるのは、愛する者を守り抜くという、狂気にも似た崇高な殉教の決意だけだ。
ヨシュアはその答えを、血の味を楽しむように聞き届け、満足げに喉を鳴らした。
「ならば、僕らはいずれ友人だ。ナタン、僕と君は……きっと、魂の奥底で響き合える」
そしてヨシュアは、呆然と立ち尽くすミリアムへと向き直った。
「僕の愛しい鑑定士。……これは、今日という日の素晴らしい舞台に対する、僕からのお礼だよ」
ヨシュアが歩み寄り、冷たく白い両手で、ミリアムの強張った頬を優しく包み込んだ。
死者の指先のように、生気のない冷徹な感触。逃げ出すことさえ許されぬまま、彼はミリアムの頬に、羽毛が触れるような、あまりに柔らかな接吻を贈った。
その瞬間。
周囲の群衆には届かぬ微かな吐息で、彼はミリアムの耳元に囁いた。
(――忘却の地にてモーセは去った。……ベツアレムの至宝、『忘却の聖櫃』の鍵が、今、開かれる)
ヨシュアがゆっくりと顔を離すと、そこには再び、真意の読めぬ聖者のような微笑が戻っていた。
「ねえ、ミリアム、ナタン。僕はね、自分自身の終焉も知っているんだ。今から少し先の未来。……誰かが僕と、今日のような接吻を交わすだろう。けれどそれは、愛の証などではない。……決して逃れられぬ『死の目印』だ」
その不吉な予言に呼応するように、鉛色の空から大粒の雨が降り出した。
雨音は瞬く間に激しさを増し、ヨシュアの声は、雨のカーテンに混じってどこまでも透き通り、残酷に響き渡る。
「やがて僕は、十字架という名の因果を背負い、あの呪われた丘を登らなくてはならない。……僕は、その審判の日が来るのを、ずっと、ずっと待ちわびているんだよ」
その予言は、あまりにも静かで、あまりにも救いのない「確信」に満ちていた。
救い主としての神々しい光と、裏切りを待つ受難者としての深い影。
彼が「千一番目の瞳」としてミリアムを選び、執拗に傍に置こうとするのは、単なる興味などではない。彼自身の、その凄惨で孤独な未来の幕引きを、正しく「鑑定」させるため――。
雨は止む気配を見せず、ヨシュアの透き通るような黄金の髪を濡らし続け、丘の熱狂を冷たく洗い流していった。
第1部2 二人の先駆者、あるいはユダ 了
表紙イラストをpixivに掲載しています。
朗読版はyoutubeにあります。
https://www.youtube.com/playlist?list=PL8BNa9czmG5HRY9yC-7O8NnwODXAXGjZe
【60万字完結済】水・金 21時更新。一旦、前編30万字分を公開予定。以降の公開継続は、皆様の反響次第で検討します。
※初回3話公開。最初の1週間は毎日更新の予定。
※本作はAIを執筆補助に使用していますが、プロットおよびキャラクター設定はすべて作者によるものです。




