表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/80

閑話 夜の聖獣たち

 大聖堂の騒ぎが一段落したあと。


 聖域が帝都をやさしく包み、民が祈りと涙の余韻に沈んでいた、その夜。


 大聖堂の尖塔の影。静まり返った屋根の上で、二つの聖獣が向かい合っていた。


 ――銀白の巨狼フェンリル。

 ――光をまとった幼きグリフォン、ソル。


『ふわぁ~……疲れた!』


 ソルが翼をぱたぱたと動かし、その場にどさりと座り込む。


『サヤ、すごいよね。あんなド派手なこと思いつくなんて。あれ、絶対力業だったよね!』


『……力業ではない』


 フェンリルはそっぽを向きながら、静かに応じた。


『あれは計算ずく――女神の導きだ』


 その声音は落ち着いている。だが、わずかに鼻先が上がっているのを見れば、内心は隠しきれていなかった。


『ふーん? でもさー、サヤって結構思いつきで動くとこあるよ?』


『……知っている』


 短く返すその声に、どこか含みがある。


 ソルはくるりと宙を舞い、尾羽を揺らして笑った。


『でも見たでしょ? すっごくカッコよかったじゃん! 「聖域」だよ? あんなド派手にやっちゃうんだからさ! ぼく、目ぇまんまるになっちゃったもん!』


 フェンリルは一度、静かに息を吐く。


『……力を振るうだけなら容易い』


 低く、ゆっくりと続ける。


『だが、あの娘は違う』


 金の瞳が、夜の空を見上げた。


『あの娘は必ず“正しい場所”に辿り着く。誰かを守るために、ためらいもなく命を懸ける。その心があるからこそ、女神は応えておられるのだろう』


 ソルはぴたりと動きを止め、ぱちぱちと瞬きをしたあと――


 にやり、と笑った。


『でしょ?』


 ひらりと舞い上がり、そのままフェンリルの鼻先にちょこんと降り立つ。


『それにフェンリルだって、ほんとは気に入ってるんでしょ? 背中に乗せてるとき、ちょっと誇らしそうだったよ?』


 金色の瞳が、わずかに逸れる。


『……背に乗せるに足る者だからだ』


 短く、だが揺るぎなく。


 ソルはきらきらとした目で見上げた。


『かっこいー! あ、でもぼくのことも褒めて? ちゃんと光いっぱい蒔いたでしょ?』


 フェンリルは少しの間、黙り込む。


 やがて、低く喉を鳴らした。


『……役には立った』


『えーっ、それだけ!? 言い方が雑すぎる!』


 ぷんぷんと怒るように翼をばたつかせながらも、その声はどこか楽しげだった。


『いいもん! サヤに直接褒めてもらうから!』


 夜風が、やわらかく吹き抜ける。


 遠くでは、まだ祈りの歌がかすかに続いていた。


 賑やかな声と、静かな気配が交じり合いながら――


 聖域に包まれた帝都の夜は、ゆっくりと更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ