閑話 夜の聖獣たち
大聖堂の騒ぎが一段落したあと。
聖域が帝都をやさしく包み、民が祈りと涙の余韻に沈んでいた、その夜。
大聖堂の尖塔の影。静まり返った屋根の上で、二つの聖獣が向かい合っていた。
――銀白の巨狼フェンリル。
――光をまとった幼きグリフォン、ソル。
『ふわぁ~……疲れた!』
ソルが翼をぱたぱたと動かし、その場にどさりと座り込む。
『サヤ、すごいよね。あんなド派手なこと思いつくなんて。あれ、絶対力業だったよね!』
『……力業ではない』
フェンリルはそっぽを向きながら、静かに応じた。
『あれは計算ずく――女神の導きだ』
その声音は落ち着いている。だが、わずかに鼻先が上がっているのを見れば、内心は隠しきれていなかった。
『ふーん? でもさー、サヤって結構思いつきで動くとこあるよ?』
『……知っている』
短く返すその声に、どこか含みがある。
ソルはくるりと宙を舞い、尾羽を揺らして笑った。
『でも見たでしょ? すっごくカッコよかったじゃん! 「聖域」だよ? あんなド派手にやっちゃうんだからさ! ぼく、目ぇまんまるになっちゃったもん!』
フェンリルは一度、静かに息を吐く。
『……力を振るうだけなら容易い』
低く、ゆっくりと続ける。
『だが、あの娘は違う』
金の瞳が、夜の空を見上げた。
『あの娘は必ず“正しい場所”に辿り着く。誰かを守るために、ためらいもなく命を懸ける。その心があるからこそ、女神は応えておられるのだろう』
ソルはぴたりと動きを止め、ぱちぱちと瞬きをしたあと――
にやり、と笑った。
『でしょ?』
ひらりと舞い上がり、そのままフェンリルの鼻先にちょこんと降り立つ。
『それにフェンリルだって、ほんとは気に入ってるんでしょ? 背中に乗せてるとき、ちょっと誇らしそうだったよ?』
金色の瞳が、わずかに逸れる。
『……背に乗せるに足る者だからだ』
短く、だが揺るぎなく。
ソルはきらきらとした目で見上げた。
『かっこいー! あ、でもぼくのことも褒めて? ちゃんと光いっぱい蒔いたでしょ?』
フェンリルは少しの間、黙り込む。
やがて、低く喉を鳴らした。
『……役には立った』
『えーっ、それだけ!? 言い方が雑すぎる!』
ぷんぷんと怒るように翼をばたつかせながらも、その声はどこか楽しげだった。
『いいもん! サヤに直接褒めてもらうから!』
夜風が、やわらかく吹き抜ける。
遠くでは、まだ祈りの歌がかすかに続いていた。
賑やかな声と、静かな気配が交じり合いながら――
聖域に包まれた帝都の夜は、ゆっくりと更けていく。




