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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-25.変わりゆく時代

「魔法が人を支配する時代は終わった」


  空に都市が浮かんでいない、突き抜けるような青空の下。

 地上街の広場で、エルデは大勢の人々に囲まれながら宣言した。


 その言葉に、人々はそれぞれの未来を思い描く。

 長く抑えつけられてきた時代の終わり――その先にある希望ある世界を。


 エルデは演説を続けながら、ゼルファウスが倒れた後の短い期間に起きた、世の中の激しい変化を思い返していた。




  エルデがまず確認したのは、仲間たちの無事だった。

 そしてその直後、彼が急いだのは天空都市に残された人々の救助だった。


 理由は明白だった。


 原因は不明だが、天空都市を支えていた浮遊魔法が急速に弱まり始めていたのだ。

 巨大な都市は、ゆっくりと――しかし確実に落ち始めていた。


 崩れゆく城内で、傷の手当てをしていたジェルドと合流する。

 敵の追撃から器用に逃げ回り、気が付けばいつの間にか完全に振り切っていたという。


 ジェルドに肩を貸し、なんとか地上へ戻る。

 二人を出迎えたのはミーリャだった。


 地上も決して安全ではなかったが、こちらにもワタルの助けがあったらしい。


 ワタルに礼を言いたかったが、これまでと同じようにいつの間にか姿を消していた。

 こうなると、ワタルが見つかったことはない。


「ま、いいか。いつかまたワタルさんとは会えるでしょ」


  エルデはそう呟き、背後を振り返る。

 その視線の先には、天空都市があった。

 都市は徐々に浮力を失い、風に流されながらゆっくりと落ちていく。

 あるものは未開の郊外へ。

 あるものは海へと墜落していった。


 地上へ逃れた貴族や魔法騎士たちは、その光景を呆然と見上げていた。

 かつて自分たちが住んでいた、天上の都。

 それが、手の届かない彼方へと消えていく。


 ある者は涙を流し、

 ある者は膝をついた。


「時代が……変わるのか……」


  誰かが、かすれた声で呟いた。


 その言葉の重みを、誰もが感じ取っていた。

 彼らはいつまでも、その光景を見つめ続けている。




  地上街へ身を寄せる貴族たちへ、民衆の視線は冷たかった。


 憎悪。

 怒り。

 復讐。


 長年の支配の記憶は、簡単には消えない。

 そんな緊張の中、臨時で街を取りまとめていたダーリオンから一つの指令が発せられる。


「貴族や魔法騎士、旧統治に対するあらゆる暴力、迫害を禁止する」


  その言葉に、民衆の間から不満の空気が広がった。

 レジスタンスのリーダーであるダーリオンの命令。

 さらに革命の決定打となったエルデも、この命令に名を連ねている。

 これまでの貴族らの横暴と恩人たち……その二つを秤にかけて、ギリギリの所で踏み止まっていた。


「聞いて欲しい」


  そんな人々に、エルデは道を指し示した。


「魔法は杖だ。私達が歩けるようになるまでは、この杖を借りることもあるだろう」


  エルデが提案したのは、創造魔法を手本とする事だった。

 今までは全ての物が創造魔法で用意されてきた。

 これからは人の手で用意していかなければならない。しかしそのような物を作る技術はすぐに身に着ける事は出来ない。

 そこで創造魔法で作り出した物を手本にして、作り方を考えるというものだった。


 何度でも出せる手本により、物を作るレベルは急速に高まっていった。

 貴族たちは手本を作り出す事に何度も魔法を使うことになり、それなりに苦労している。

 それが、民の留飲を下げる結果となった。


「エルデをこの国の王に!」

「私達を導いてください!」


  冷血王を倒し、この国の行く末を案じているエルデの人気は非常に高まっている。

 その人気は、未だ不在の王として迎え入れる機運が高まった。

 しかし、エルデは苦笑いし、腰に履いている二振りの魔剣に手を置きながら答えた。


「王が必要な時代は、あの天空都市と一緒に降りてきたはずだ」


  空を指差す。


「これからは誰かに導かれるんじゃない。

 自分たちの足で歩く時代だよ」


  エルデは……自分は王になるべきではないと思っていた。

 もし魔法が使えるエルデが王となれば、これからの世界の流れに水を差すことになる。

 それに――

 彼がここへ来た理由は、王になるためではない。

 体制を変えるためだった。


「それに私なんかより、適任が居ます。お願いしますね、ダーリオン」

「また面倒なことを押し付けやがって」


  ダーリオンは渋い顔をしたが、本気で拒む気はないようだった。


「すまない。けど、あの人ともいい感じになってるし、丁度良いでしょ?」

「さて、何の事かな~」


  決め手となったのが、ダーリオンが牢から救出された時だったらしい。

 お相手はルミリア・アークライト。

 前々から気になっていたらしいが、救出に来たルミリアがピンチになったのをダーリオンが救ったのだった。


 ルミリアは貴族で魔法使い側ではあるが、これまで民衆を助けてきた人でもある。

 彼女の支援で助かった人は非常に多い。

 ダーリオンと一緒になる事も、きっと多くの人から祝福されるだろう。




  それから数か月が過ぎた。

 世界中へ革命の波が広がっていく。


 各地で反乱が起こり、多くの国で魔法統治が崩れた。

 しかし失敗した国もあり、魔法支配が続く地域も存在していた。


 それでも、世界全体で見れば魔法の影響力は確実に薄れていく。

 だが問題も多かった。


 まず食料不足。

 創造魔法に依存していた社会は、急激な変化に対応できなかった。

 それが原因で争いも起きていた。

 レジスタンス隊員を中心とした自警団が各地を駆け回っているが、人手は圧倒的に足りない。


 それでも――


 これまでと違うものがあった。

 人々の顔に、笑顔があった。


 今は苦しくても。

 明日は変わるかもしれない。

 そんな希望が、そこにはあった。


 エルデはその光景を眺めながら、故郷への道を歩く。

 変わりゆく時代の中へ、エルデは静かに歩き出した。

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