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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-24.一撃

  広場という立地もあるが、大量の瓦礫が落下した割には建物への被害は少ない。

 見える範囲だけではあるが、倒れている人の姿も見当たらない。

 奇跡的と言える状況だった。


 砕けた地面と瓦礫によって粉塵が立ちこめ、辺りの見通しはまったく利かない。

 人々は怪我人の救助と事態の把握のため、大声を上げていた。


 騒然とした雰囲気の中――粉塵に紛れ、誰にも気付かれずに対峙する二人がいた。


 エルデは二振りの魔剣を構え、全身の負傷と疲労を身体強化魔法で無理やり補っている。

 流れる血と汗で視界が滲むが、全神経を集中させ、目の前の相手の隙を探っていた。

 一瞬でも隙を見せればやられる。

 そして一度の隙を見逃せば、もう勝機は訪れないだろう。


 ゼルファウスは王笏と剣を手に、悠然と待ち構えていた。

 しかしその外見とは裏腹に、彼にも余裕はない。


 エルデから受けた傷に回復魔法をかけようとしたが、魔斬剣ミストルヴァンの魔法消去の影響か、回復が著しく遅れている。

 さらに落下の際にはエルデを庇う形となり、受けたダメージも大きかった。

 動かない関節や筋肉を、魔力によって無理やり動かしている状態だった。


 二人の間に、張り詰めた空気が流れる。

 周囲の喧騒は、二人にはまったく届いていなかった。


 お互いに、迂闊に仕掛けることはできない。

 呼吸のタイミングすら隙に思え、浅く息を呑む。


 まるで時間が止まったかのような錯覚。

 その時――


「……え!?」


  粉塵をかき分け、一人の女性が二人の間へ入り込んできた。

 張り詰めた空気の圧力に当てられ、抱えていた荷物を落とし、その場に尻もちをつく。


「おおおぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁ!」


  二人が同時に動いた。

 互いに限界を超えた脚力で地面を蹴り、申し合わせたかのように激突する。

 魔力も含めたすべての力が、その一撃へと注ぎ込まれた。


 一撃を放ち、互いにすれ違う。


ギィィィィィィン!!!


 金属の響きが、わずかに遅れて広場へと響き渡る。

 駆け抜けたまま構えを崩さず、ほんの一瞬の静寂が流れた。


 先に口を開いたのはゼルファウスだった。


「お前は、この世界の王にでもなるつもりだったか?」


  背を向けたまま、エルデは答える。


「俺は魔法や魔法統治そのものが悪いとは思っていない。

 いずれ変わるとしても、今はまだこの統治が必要だと思っている。

 だから……俺が王になる必要はない。しばらく見守った後は、地元の街へ帰るよ」

「そうか……」


  ゼルファウスは小さく呟いた。


「まあ、どうでもいい。お前の勝ちだ。好きにするがいい……」


  王笏と剣が手から落ちる。

 そしてゼルファウスは膝をつき、そのまま倒れ伏した。


「俺の……勝利だ!」


  止まっていた音が、世界に戻ってくる。

 エルデも周囲へ目を向けた。

 粉塵は少しずつ晴れ、人々が走り回る姿がちらほらと見える。


「さて……どうしようか?」


  迷ったのは、ゼルファウスの処遇だった。

 これまでの時代の象徴とはいえ、エルデには彼を殺すつもりはない。

 できれば、これからの世界を助ける側に回ってほしいとも思っていた。


 だが世間がそれを許すとは思えない。

 そして何より――彼自身が素直にそれを受け入れるとも思えなかった。


 ふとゼルファウスを見る。

 いつの間にか彼は起き上がり、エルデを見ていた。


「なあゼルファウス……俺に負けたと思っているなら――」

「俺はこれまで……この世界を、人の世を、つまらないと思っていた」


  ゼルファウスは静かに言う。


「だが、お前たちレジスタンスとの戦いは……まあ、悪くなかった。

 だが、それもこれで終わりだ」

「ゼルファウス……」


  ゼルファウスは、ごく自然な動きで頭へ手を当てる。

 魔法の発動体である指輪をはめた手を。


「さらばだ、エルデ。現代の勇者よ。

 少し……楽しかったぞ。

 この退屈な世界に、最後に現れた……最高の敵だった」


  魔法が発動する。


パァン――


 乾いた破裂音が響いた。

 倒れていく姿を見ても、エルデは動くことができなかった。


「馬鹿やろうが……」




  ウェルザルト王国、冷血王ゼルファウス・ウェルザルト倒れる。

 その衝撃的な報は、瞬く間に国中へ、そして国外へと広がっていった。


 それをきっかけに、各地で国への反乱が巻き起こる。

 失敗した国もあったが、多くの地では反乱が成功し、魔法統治は次第に姿を消していった。

 そして同時に、魔法統治者の住まう天空都市は浮力を失い、未開の地や海底へと沈んでいった。


 今では、地上の街の上空に都市が浮かぶことはない。

 人々は、遮られることのない日の光を浴びながら――


 未来へ向かって、歩き始めた。

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