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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-19.王の戦い

  かつて世界を救った勇者の末裔が治める、世界の中心国家ウェルザルト王国。

 その国王の名はゼルファウス・ウェルザルト。

 情に流されぬ決断、民を切り捨てる政策から、人々は彼を畏れと侮蔑を込めて『冷血王』と呼んだ。


「お前が……王ゼルファウス・ウェルザルトか」


  返答がなくとも、エルデには確信できた。

 玉座に座す男の放つ空気が、明らかに人のそれではない。

 冷たく、乾ききった眼差し――あれこそが冷血王の証だった。


 エルデはその場で跪き、深く首を垂れた。

 敵であろうと、王に対する礼節だけは捨てない。それが彼の矜持だった。


「陛下。民の声を知りながら揺るがぬその御在り様、まずは王としての揺るぎなさと受け止め、礼を尽くします」


  ゼルファウスは身じろぎ一つせず、視線だけを向けた。

 その無表情は、彫像のように感情の存在を拒んでいる。


「私はエルデ・ランスパートと申します。遥か辺境に生まれた私の身にも、あなたの御威光は常に届いておりました。そしてこの度、申し上げたき義があり、こうして無礼ながら御前に馳せ参じさせていただきました」


  冷血王の視線は変わらない。

 しかし、ゆっくりと口が開いた。


「よい。申してみよ」

「……陛下。あなたほどの御方ならば、すべてを見通し、すべてを知っておられるでしょう。ならば、この国が貴方の冷たさにこれ以上耐えられないことも、とうに理解しておられるはずです。民を苦しめる王であり続ける必要は、もうどこにもありません」


  エルデは顔を上げた。

 剣を握る手に、知らず力が籠る。

 冷徹な視線と視線を交わしながら、退路はないと自らに言い聞かせた。


「私は陛下を討つために膝を折ったのではありません。陛下が自ら退くという、最後の名誉を守るために折ったのです。どうか、王としての最後をご自身でお選びください」


  一瞬の静寂。

 遠くから響く戦闘音は、ミーリャたちか、それともジェルドか。

 城はすでに戦火の渦中にあった。


 ゼルファウスは鼻で笑った。


「エルデ……と言ったな。まずはこの状況までやって来たお前達の手腕を褒めておこう。特にあの隕石は見事だった」


  隕石……ミーリャのあの魔法の事だ。

 あの威力は、思いだすだけで背筋が寒くなる。


「幾多の書物を読み解き、発見・開発された魔法はすべて聞いている。その中には隕石を操るものもあるが、この時の障壁を打ち砕けるものではない……あれは何だ?」

「あれは、我が友の秘術です。申し訳ありませんが、あの術は御覧の通りの威力があり、誰の手にもあるべきではないと思っています」

「そうだな。あれは広めるべき術ではないかもしれない……が、出来ればどのような術か、知ってみたいものだな」


  意外にも、ゼルファウスの声は穏やかだった。

 魔法談義ならば、理知的な研究者のように話せる男なのだろう。

 それがなおさら不気味だった。


「さて……本題に戻ろう」


  空気が変わった。

 座の温度が、さらに数度下がったかのように感じられる。


「お前の言いたいことはわかる。だが、お前達は世界を回せるというのか? この世界には様々な国があり思惑も様々だ……それでもすべての国が争わずにいるのはどうしてだと思う?」

「……力と仰りたいのでしょうか?」

「そうだ。それを魔法は実現する。魔法があるかぎり、世界は大戦乱なく回るのだ」


  確かに、世界には無数の国家が存在し、思想も文化も異なる。

 反目や緊張は常にあったが、大陸規模の戦争には発展しなかった。

 魔法の抑止力――それが暴走を止めていた。


 ゼルファウスの論理は、冷徹で、しかし現実的だった。


「その魔法を……和平を維持する力を保つ勤めが我々にはある。であれば、魔法の使えぬ者には、その身を以って魔法を使える者を支えてもらうしかないだろう」

「だからといって……」


  エルデは立ち上がり、叫んだ。


「その者を虐げる必要は無いでしょう!」

「必要なのだよ」


  返答は、あまりにも即答だった。


「一部の例外は居る。だが大半の力無き者はその身を働かせず、ただただ身分不相応の要求し不平を謳うだけなのだ。我ら力ある者が指示することでやっと動き出す……凡愚なのだよ。あいつ等は」


  それを語る顔には何の感情も浮かんでいない。

 憎んで言っている訳ではない。恐らくそれを当たり前だと認識しているのだろう。


「故に強要し働かせるか……その身で我らの心を潤すしかないだろう」


  理屈でも思想でもない。

 それは、価値観の断絶だった。


 エルデは剣を強く握り、盾を構えた。

 説得は終わった。ここからは戦いしかない。


「わかりました……では、不本意ながら、力づくでその座を退いて頂くしかありませんね」

「良いだろう。力づくで出来るならしてみると良い」


  ゼルファウスは立ち上がり、短い錫杖を取り出した。

 能面のような表情の奥で、わずかに楽しげな光が宿る。


「≪ブラストボルト≫」


  ノーモーション、無詠唱で放たれるゼルファウスの攻撃魔法。

 王の指先から閃光が走り、瞬時に爆裂した。


 エルデは反射的に盾を振るい、霧散させる。

 紙一重だった。少しでも遅れればまともに食らっていただろう。


 身体に魔力を巡らせ、強化する。

 心臓の鼓動が、耳鳴りのように響く。


「報告のあった盾がそれか。魔法を消すとは面白いが、効果が及ぶのがその盾だけではな」


  次々に放たれる攻撃魔法に耐え切れず、爆炎に紛れながら横へ避けた。

 そして、天井に跳ねてから、ゼルファウス目掛けて一気に飛び込む。

 そして剣を振るった。


ガァン!!


 だが、剣は止められた。


「私が魔法しか出来ないと思ったか?」


  ゼルファウスは片手に錫杖、もう片手にいつの間にか剣を持って静かに立っている。

 その剣で、エルデの剣は受け止められていた。


 力比べをするが、魔法で強化されているはずのエルデの力でも押し込めない。

 距離を取り、息を整える。


「さあ、準備運動は出来たな? それでは戦おうか」


  剣に力が籠り、錫杖には魔力が奔流する。

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