4-17.打破するジェルドの剣
天空都市を守っていた障壁は砕け散り、一部の建物が崩壊していた。
破壊範囲はほぼ想定通り。ルミリアによる事前避難も完了している。
魔法で堅固に守られていたはずの都市を容易く削り取った隕石は、やがて元から存在しなかったかのように消えていった。
破壊力、効果範囲、速度に魔力消費の無さ。多少使い勝手は悪いが、やはりこの魔法は世に出してはならないものだ。
(……もう二度と使わない方がいいね)
そう誓い、ミーリャは地上へ降り立った。
「ミーリャさん、凄い魔法ですね!」
地上ではレジスタンスの仲間たちが待ち構えていた。
ミーリャとレジスタンス達は、地上で可能な限りの戦力を引き受け――つまり囮だ。
「ありがと。けど、ここからが私達の本番だよ」
遠くから、魔法騎士団が集結してくるのが見える。
ほどなくここは本格的な戦場になる。
レジスタンスは瓦礫や物資を積み上げ、魔法が使える者は簡易障壁を展開していた。
だが目的は勝利ではない。
時間稼ぎ――それだけだ。
余計な犠牲を魔法騎士団にも出させない為にも、防戦一方でなければならない。
「耐えよう!」
ミーリャの声に、仲間たちの視線が集まる。
「私達に攻撃が集中すればするほど、私達が勝つ可能性が出てくるの。だから……耐えよう。世界を変えるために」
その瞬間、積み上げたバリケードの一部が吹き飛んだ。
衝撃波と破片が舞い、ミーリャたちは即座に物陰に伏せる。
気付いた時には、すでに包囲されていた。
「反乱分子共、今すぐ投降しろ! そうすれば命だけは助けてやる! 拒否すれば――殺す。一人残らずだ!」
魔法騎士団に完全に取り囲まれていた。
背後にも回り込まれている。退路はない。
「逃げ道も無いって事ね……ま、逃げる気も無いけど!」
こうして、ミーリャたちの熾烈な防戦が始まった。
一方その頃。
ミーリャ達が防戦に入った頃。天空都市の更に上空から、二つの影が静かに侵入していた。
「相変わらず安定しないな、エルデの飛空魔法は」
「仕方ないだろジェルド。飛空魔法ってのは難しいんだ。まして、俺の魔法はミーリャ程上手くない」
浮遊するエルデにジェルドは掴まっていた。
ゆっくり不安定ながら、二人は城の裏手へと降りて行く。
普段ならこの裏手にも人が居たのだろうが、隕石落下の騒ぎかミーリャ達の陽動が効いているのか、人影一つ無い。
ジェルドが音一つ無く降り立ち、周囲の様子を伺い警戒する。
そして魔法を解いたエルデが隣に降り立った。
「……目標の冷血帝は何処にいると思う?」
「さあな……王座の間か私室かのどちらかを当たってみるか」
「場当たりでやるしかないか。ダーリオンはルミリア様に任せて大丈夫なんだな?」
「ああ、大丈夫だ。俺達の役目を果たそう」
エルデの言葉にジェルドは頷く。
そして、二人は駆け出した。
廊下の警戒は殆ど居なかった。
偶に遭遇する使用人らしき人はスルーし、魔法騎士は遭遇するなり昏倒させて進む。
順調に進んでいた二人。
しかし角を曲がった瞬間、エルデの視線の先に魔法の光が見えた。
「ジェルド、部屋に飛び込め!」
勢いのまま、ジェルドは部屋に飛び込み、エルデは対魔法盾アンラージで弾きながらジェルドに続く。
二人が飛び込んだ部屋は講義室のようだ。少し広い部屋が机と椅子で埋め尽くされている。
窓があるが、外は崖のようだ。
出入口は……入ってきたところ以外に無い。
「行き止まりか……」
部屋から出ようとしたところ、複数人の誰かに塞がれる。
魔法騎士団ではない。
見た目から良くわからない布のような素材で出来たゆったりとした制服を着ている。
「誰だお前ら? 魔法騎士……じゃないよな?」
ジェルドが剣を構える。
正体不明の集団は、予想以上に居た。
部屋の入り口は数十人で塞がれ、部屋に入れない者もまだまだ居るようだった。
いつの間にかこの人数が現れたこともそうだが、その身のこなしに二人の警戒心が上がる。
「俺達は国王様に用事があるんだが、通してくれないか?」
エルデの言葉に答えない。
代わりに、帰ってきたのは攻撃魔法だった。
エルデはジェルドの前に飛び出し、盾を振るい魔法を消し去る。
魔法が消えたことに驚くかと思ったが、驚くどころか更に多くの攻撃魔法が放たれてきた。
「ちょっ……!」
盾でカバーできる以上の魔法に、エルデは慌てる。
捌けたのは日頃の鍛錬の成果だろう。
攻撃は更に激しくなる。
攻撃魔法だけでなく、礫や投げナイフまで織り交ぜてきていた。
「情報記録。盾は魔法消去能力、ただし周囲に効果が及んでいる様子無し。物理的には通常と推測……」
後方でエルデ達の状況を観測している者が居た。
そして、魔法でどこかに伝えている。
この状況を打破したのは……ジェルドだった。
ジェルドは激しい攻撃の合間を潜り抜ける。
集団に迫り、一閃――目の前の敵を斬り伏せた。
「こんな所で足止めを食う訳にはいかないんでね。誰だか知らないが、退かないのなら……斬り捨てる」
その声は静かで、しかし容赦がなかった。




