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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-15.決起

「エルデ」

「どうした、ジェルド?」


  そう言いながら、エルデは手に持った杯を一息に煽った。

 喉を焼くような酒精の刺激が、胸に溜まった緊張をわずかに溶かす。


「なんで宴会なんだ?」

「いつも言ってるだろ。こういう時は一緒に飲み食いするのが仲間になる近道だって」


  隠れ家の食堂では、エルデの指示の下、保管されていた食料が開放され、即席の宴が開かれていた。

 長机の上には質素な煮込みや乾燥肉、貴重な酒瓶が並び、どれも革命の資金として温存されていたはずのものだ。


 酒と食の渦の中で、エルデは席に座ることなく歩き回っていた。

 知らない顔に声をかけ、名前を聞き、肩を叩き、杯を交わす。

 その度に酒を飲み、料理を口に運び、また次の人物へ向かう。


 酔いは確実に回っていた。腹も苦しい。だが、それ以上に得たものは大きい。

 ここにいる者たちの名前と、彼らが自分を覚えてくれたという確かな実感。

 それこそが、指導者として最初に必要な「繋がり」だった。


「エルデ、大丈夫?」

「大丈夫だよ、ミーリャ。酒豪と飲み比べになったあの時に比べれば、なんてことない」


  宴はまだ続きそうだった。

 皆、ダーリオンの行方や支配層の動向を気にしている。しかし知る術はない。

 その不安を誤魔化すかのように、人々は杯を重ね、笑い声を上げていた。

 笑い声の裏側にある恐怖と焦燥を、エルデは痛いほど理解していた。


 その時、扉が開き、外気を纏った人物が入ってきた。


「ちょっと、この騒ぎはなんなの?」

「あ、ルミリアさん。お帰りなさい」


  ルミリアだった。

 外套を乱暴に椅子へ放り投げ、呆れたように室内を見渡す。


「このレジスタンスに僕が認めてもらうためだよ。何とかなりそうです」

「そう、それは良かったわ。此方も朗報よ」


  朗報。

 その一言に、エルデだけでなくジェルドとミーリャも身を乗り出した。


「ダーリオンを見つけた。安心して、まだ生きてる」


  その言葉に、場の空気が一瞬止まり、次の瞬間、安堵と興奮が混ざったざわめきが広がった。




  宴は急遽終了となった。

 場は会議室へと移され、主要メンバーだけが集められた。

 酒の熱気が消えた室内は、妙に冷たく感じられる。


「ダーリオンは天空都市、王城内の牢に捕らえられているわ」

「大丈夫なのですね?」

「今のところは」


  重傷を負ったダーリオンは、傷口だけ塞がれた状態で拘束されたという。

 今は生きているが、いつ体調が急変してもおかしくない。

 その事実が、全員の胸に重くのしかかった。


「あまり悠長に出来ないか……」


  顔を顰めるエルデにジェルドが提案する。


「少数で忍び込むことは出来ないか?」

「難しいと思う」


  答えたのはルミリアだった。


「地上から天空都市に入るにはポータルを使うしかないけど、流石にそこは魔法騎士団が常時見張ってる。天空都市自体が障壁で覆われているから、空から入り込むことも不可能よ」

「抜け道は?」

「無いわ」


  様々な提案がなされるが、どれも実行に無理がある。

 沈黙が落ちる。

 提案は尽き、行き詰まりの空気が漂い始めた、その時。


「あのさ……私、障壁をなんとか出来ると思う」


  ミーリャの言葉に視線が集まる。


「それはどんな方法?」

「私が見つけた魔法の一つなんだけど……ごめん。詳しい事は言えないの。かなり派手な攻撃魔法だけど、多分障壁を砕ける。ただ……天空都市も被害出ちゃうかもしれないけど」


 ルミリアが目を細める。


「障壁の強度は相当よ。私でも破壊できない」

「私もその魔法を使っている所を一回見たことがあるけど、あれなら大丈夫だと思う」


  エルデはかつて見た、その魔法を思いだしていた。

 一撃で丘を更地に変えたあの一撃なら、確かに障壁を突破できるだろう。

 

「……よし。その手を使うなら、もうダーリオン救出だけなんて言わない。これを魔法による支配体制に対する革命の狼煙としよう」


  自分でも驚くほど、声は揺れていなかった。

 部屋中の視線がエルデに集まる。


「僕……いや、私達はこれまで、魔法の有無だけで差別を押し付けられてきた。しかし、人の価値は見える力だけで測れるものじゃない。祖から受け継いだ大切なものは、全ての人が全ての人と共に広がる事だ。一部の人間がその他の人間を抑圧するのは間違っている!」


  皆が黙って注目している。

 それは否定ではなく、言葉を噛み締めるための静寂だった。


「全てを正す時が来た! 私に着いてくる者はいるか!」


  ジェルドとミーリャは即座に立ち上がる。

 しかし他のメンバーは動かない。恐怖、迷い、責任の重さ。

 革命は理想だけでは始められない。


「私達だけでは意味がない、皆で成し遂げないと意味が無いんだ!」


  机を叩き、勢いよく立ち上がる。


「頼む! 世界を変える力を私に貸してくれ!」


  最初は一人、次に二人。

 やがて、椅子が擦れる音が連鎖し、全員が立ち上がった。


 革命の狼煙が、今まさに上がろうとしていた。

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