弁天堂美咲と幻獣《ミスティカルビースト》 04
迷斎さんからの忠告が頭から離れないまま、私はまゆりさんに昨日の教室での出来事と、迷斎さんから聞いた一角獣のことを話しました。
「確かに見たの?」
「うーん。見間違いかもしれないけれど、小倉台さんのこともあるから、一概にそうとは言えない――かな?」
「まあ、西園寺さんが、小倉台さんのことを恨んでいても、不思議ではないけれど……」
「恨む? 何かあったの?」
「小倉台さんって、色々と良くない噂を聞くでしょう。西園寺さんも、無理やりグループに入れられて、あれ買ってきてだのパシリにされているって聞いたことがあるわ」
私の通う私立の女子校は、名門とまではいかないまでも、そこそこのお嬢様学校で、偏差値もそれなりに高く、真面目な生徒が大半を占めています。
そんな中、小倉台さんは珍しく問題の多い生徒で、喫煙や補導など悪い噂の絶えない所謂、問題児です。
それでも、退学にならない理由は、父親が有名な会社の社長であり、学校に多額の寄付金を納めているからです。
そんな漫画のような話ですが、実際に小倉台はその事を利用して、数々の問題行為を重ねていました。
「それで、まゆりさん。西園寺さんのことは、何か知らない?」
「西園寺さんについてね――、あんまり良く知らないわ。それに、西園寺さんについては、美咲さんの方が詳しいのではなくて?」
「え? 私が?」
「だって西園寺さんて、美咲さんと同じ中学の出身でしょう?」
私と西園寺さんが同じ中学出身?
まゆりさんに言われましたが、それでもピンと来ません。
確かに、この学校には私と同じ中学出身者は何人かいますが、顔を会わせれば話もしますし、覚えています。しかし、西園寺さんに関しては、まったく覚えがありません。
それだけ、中学時代から交流がなかったのでしょう。私の薄情な一面を垣間見たようで、何とも情けない話です。
その後、チャイムが鳴ったので、まゆりさんは自分の席に戻りました。
ちなみに、西園寺さんは登校はしているのですが、体調が優れないようで、保健室に行ったきり教室には戻っていません。鞄も置いてあるので、早退する様子もなく、私はこの間に出来るだけの情報を掴もうと思っていました。
昼休み。
授業の間の休憩時間を利用して、私は同じ中学出身者に西園寺さんのことを聞いて回りました。しかし、返ってくる答えは「覚えてない」や「西園寺さんって誰?」などが大半でした。
情報収集の結果を、この昼休みを利用して、まゆりさんに報告することにしました。
「そうか。成果はなかったみたいね」
「ええ。みんな、西園寺さんことを覚えてないか、知らない見たい。何でみんな知らないんだろう?」
「その事なんだけれど、私も西園寺さんのことを調べてみたの」
「まゆりさん、ありがとう」
「いいのよ。美咲さんのためなら、私は何だってするの。もちろん、美咲さんの趣味に合わせるから、このまま押し倒してもよろしい?」
やはり、只ではないようで、下心があったようです。
「と、取り敢えず、話を聞かせて」
「もう、冗談よ」と言いながら、目が本気だったことにはふれず、まゆりさんが集めた情報を話てもらうことにしました。
「誰も、西園寺さんのことを知らなくて当然よ。だって、西園寺さんは中学の時、林田さんて名字だったみたいだから」
「林田さん? 名字が変わっているの?」
「そうよ。高校に入ると同時に、親が再婚したそうで、高校からは名字が西園寺さんに変わったんですって」
まったく知りませんでした。それに、林田さんと言えば、私の記憶する限りでは――。
「それと、西園寺さん――つまり林田さんは、中学の時は相当荒れていたようね。髪も金髪に染めて、学校にもろくに通っていなかったらしいわ。だから、誰も西園寺さんのことを覚えていないのよ」
まゆりさんが言う林田さん像と、私の記憶している林田さん像はピッタリ当てはまります。
かつて、誰も手がつけれないじゃじゃ馬から、『荒馬のリンダ』と呼ばれていた林田さん。今では、控え目で物静かな西園寺さんが同一人物だとは、誰も思わないでしょう。
高校入学と同時に、何があったのでしょうか?
とても不思議です。
「ありがとう、まゆりさん。私、やっぱり西園寺さんと話をしてみる」
「美咲さん?」
「だって、何かあったことは間違いないでしょう? それに、西園寺さんに何もなかったのなら、小倉台さんたちから守ってあげたいし」
西園寺さんの情報収集をしている課程で、過去のことよりも、最近の西園寺さんについての話をたくさん耳にしました。
まゆりさんが言っていたように、小倉台さんたちにいじめられていたようで。
そんないじめから、西園寺さんを救ってあげたいのです。




