弁天堂美咲と幻獣《ミスティカルビースト》 05
西園寺さんが、保健室から戻って来たのは放課後でした。
教室に鞄を取りに来たところを話かけ、校舎の裏へと連れて行きました。
まゆりさんは用事があるようで、「一緒に行けなくて、ごめんなさい」と何度も謝られました。
「弁天堂さん。話って何ですか?」
「ごめんなさい。こんなところに連れて来て。でも、誰にも聞かれたくなかったから――」
「き、聞かれたくないことですか? それって――」
「ご、誤解しないでね! 別に、変な意味じゃないから!」
「はあ? 何のことでしょう?」
どうやら、余計に誤解させてしまったようで、西園寺さんは制服の胸元に手を当てていました。誰のせいとは言いませんが、言葉とはこんなにも誤解されるものなのでしょうか?
「それで、弁天堂さん。話って何のことでしょう?」
「ああ、ごめんなさい。――と言っても、何から話せば良いのか――」
「多分、小倉台さんのことでしょうか?」
「え!?」
思いもよらず、西園寺さんの方から話題をふってくれたことには感謝しますが、その落ち着いた物腰が何とも不気味でなりません。普通、友達が大怪我を負った次の日ならば、自分がその怪我に関わっているにせよ、関わっていないにせよ、もっと動揺してもおかしくないのですが、西園寺さんには一切の動揺が見られません。
むしろ、リラックスしているかのようでした。
「それで、弁天堂さん。どこまで知っているのですか?」
「どこまでって――、小倉台さんの怪我のことですか?」
「随分と勿体ぶった聞き方をしますね。もう、ある程度の検討はついているのでしょう? お察しの通り、小倉台さんの怪我は私が犯人です」
思いもよらない犯人宣言に、私は言葉を失ないました。しかし、そんなカミングアウトをしてもなお、西園寺さんは眉一つ動かさず、表情を変えません。
どこか余裕があるのか、あるいは絶対的な自信があるのかのように――。
「犯人って西園寺さん、どうやって小倉台さんに怪我を負わせたのですか?」
「知りたい? それは――これよ!」
校舎裏に突風が吹き荒れました。この季節には珍しい突然の突風の後、小倉台さんに怪我を負わせた本当の犯人が姿を現したました。
「人間、我ガ主ニ何ヨウカ?」
「あっあなたは――」
白い毛並みに、ライオンの尾。馬の顔に、立派な鬣を生やした、見たこともな怪物がそこに立っていました。
そして――、何よりも驚いたのは、頭に角が生えていたことでした。
それはもう、立派な角が二本――。
あれ?
ユニコーンは確か、角が一本ではなかったでしょうか。
それなら、私の目の前にいるこの怪物は、一体何なのでしょう?
「弁天堂さん。これが、小倉台さんに怪我を負わせた張本人です。それで、弁天堂さんは私をどうするつもりなのですか?」
「どうって?」
「物ワカリノ悪イ人間ダナ」
「つまり弁天堂さん。確かに、私が命令して小倉台さんに怪我を負わせましたが、それをどうやって立証するのですか? 日本の法律に、このような怪物の存在を肯定することができるのかしら?」
「それは――」
西園寺さんの問いかけに、私は反論することができませんでした。
かつて、土御門さえりさんが迷斎さんに解決を求めたように、怪物や魑魅魍魎の類いを、この社会では否定的であり、存在自体を認められていないからです。
つまり、今回の小倉台さんの件に関して、いくら私が訴えたところで警察が動くことがない。
西園寺さんの、余裕の正体はこのことだったようです。
「ソレデ、ドウスル? コイツモ殺スカ?」
「いいえ、やめておきなさい。弁天堂さん、これでわかったでしょう? 私のことはほっておいてください」
そう言って、西園寺さんと怪物は私の前から去って行きました。
去り際、西園寺さんに怪物について聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「角の生えた馬なら、ユニコーンじゃなくて?」
本当にあの怪物は、ユニコーンなのでしょうか?




