第3話 ドラゴン退治
気づけばエーリスとトウマは狭い部屋に居た。
足元に輝いていた転移魔法陣が、役目を終えたとその光を消失させていく。
「わ、トウマくん、灯り、灯り! ……あ」
バタバタと自分のポケットを探っている間に、世界は真っ暗闇に包まれた。
「無理だな。持ってはいるが、影がないと使えない」
「使えねー」
「人に頼る無能よりはマシだ」
「…………どうする? ここって魔法陣があるんだからギルドだよね?」
転移魔法陣は、互いに同じ形の魔法陣を繋ぐ事でしか移動出来ない。
ギルドの魔法陣で移動出来たって事は、ここはギルドが所有する場所だという証になる。
「ダークネス。お前が呼べ」
トウマの提案に、エーリスは訝しんで彼を見る……まぁ、暗くてなにも見えないけど。
「なんで? トウマくんが呼びなよ。男なんだから肺活量は私よりもあるでしょ」
「男はそんな恥ずかしい事はしない」
「うわー、マジで使えねー。この厨二病」
「自分の趣味全開で作ったVキャラで転移してきたお前よりはマシだな。そもそもヴァンパイアなんだから夜目は効くんじゃないのか? なんちゃってヴァンパイア」
「ムカ! それは絶対に言っちゃいけない事じゃん! トウマくん、デリカシーを地球に置いてきたんじゃない。そもそも君だってダークエルフじゃん。ダークが付くし、影を操るんだから夜目くらいは効かせてよ!」
「そっくり返す、ダークネス」
「ぐぬぬ……いい、トウマくん。私が本気を出したら、トウマくんなんて一行でころころ出来るんだからね」
「ならさっさと本気を出して一行で人を呼んでくれよ」
「もう良いよ! すぅぅ、誰か! 本社から来た職員ですけどーーーー! 誰も居ないんですかーーー!」
トウマの鼓膜をぶち破ってやる勢いでエーリスは叫んだ。
…………。
「ハァ、ハァ、返事はない。屍のようだ」
「馬鹿言ってないで行くぞ。光が消える前に出入り口は確認している」
なら最初からそう言えよ。
としかエーリスは思わなかったが、今回は黙っておく事にした。
トウマは難なくドアを開けたようで、いきなり光が飛び込んでくる。
眩しさに目を細めながら、エーリスもトウマに続いて部屋を出た。
外、というか隣の部屋だけど、そこには案の定誰もいなかった。
「ふむ、報告通りに全員避難した後って事か」
トウマがそんな事を言いながら部屋を横切って行く。
「え? いつそんな報告聞いたの? 私が来る前?」
「いや、渡された紙にそう書かれていた。ちゃんと読め、ダークネス」
そっか、あの紙ね。
と、納得しかけて、エーリスは重大な事に気づく。
「おいコラ。て事は、トウマくん誰も居ないの知ってたって事でしょ。なに人に叫ばせてるのよ。無駄に体力を使ったじゃない」
「知らん。それに言ったろ。そんな恥ずかしい事は出来ないってな」
コイツは!
と無言で睨むがトウマは振り返りもせずに、外に向かっていく。
暫く半眼のままだったが、全然振り向く気配がない事に、エーリスは苦々しく視線をトウマの背中から外した。
本当に僻地、というかど田舎なんだろう。ギルドなんて言えないようなレベルで、受付カウンターは一つだけだ。
けど、クエストボードの内容は王都よりも壮絶だった。ほぼモンスターの討伐で、王都では見る事のない高ランクのモンスターばかりが並んでいる。
「なんか壮絶にヤバいところなんですけど。ホントにここに人が住んでるんですか?」
「局長が僻地だと言ってたろ。ここは人がちゃんと住む場所にモンスターが来ないようにするための間引き場所だ」
「なるほど。前線基地みたいなもんですか」
納得して、エーリスは外に出た。で、絶句した。
「…………なんだろう。さっきの説明と全然違うイメージの風景が広がってるんだけど」
道とかも整備されてない、建物すらまともにない場所だって考えたのに、綺麗に舗装された石畳と綺麗な宿屋が建っている。しかもその真ん前には、並んで明らかにそれぞれ男向けと、女向けの風俗店ですってのが建っていた。
「そりゃ、モンスターを討伐するのに冒険者にはある程度留まって貰わないとだからな」
トウマはなにか探すようにキョロキョロと視線を彷徨わせながら、エーリスの問いに答えてくれる。
なんやかんやで、いいヤツではある。
「でも、ホントに宿屋と風俗店しかないけど?」
「冒険者の資本は命だからな。それを粗末にする馬鹿はこの場所じゃ生き残れないってのを、底辺職の奴らにもわかるようにしてくれてるんだろ」
(ふむ、ここは準備する場所じゃなくて、戦場の休憩所でしかないってところかな……多分)
「で、なに探してるのよ、トウマくん」
エーリスも周囲を見るが、特に変わったところはない。
「なにって、おかしいと思わないのかダークネス。ギルドの中も、この場所も綺麗すぎる。ドラゴンの襲撃があったって話なのにな」
「え? 襲撃にあったの? クラウはドラゴンが出たってしか言ってなかったけど? それも紙に書いてあった感じ?」
「……いや、そうだったな。そんな事は局長も紙にも書かれてなかった」
トウマはなぜかつまらそうに顔を顰める。
その反応がいまいちよくわからないが、どうせ厨二病を病んでるだけだろう。アレは都合の良い妄想をニョキニョキと育てる物だから。
なんて事を考えながら、エーリスは何気なく空を見た。
「…………ねぇ、トウマくん。高ければ高いほど小さい物ってなーんだ?」
「ふざけてる場合じゃないと思うんだがな。飛行機だろう」
「残念。ドラゴンでした」
そのエーリスの言葉に、トウマも視線を上に向けた。
そこには広大な空を悠然と飛び回るドラゴンがいた。
暫く二人でアホみたいに空を見上げてしまう。
「ねぇ、あのドラゴン、明らかにデカくない? なんか雲の上を飛んでるはずなのに、私の手のひらよりも大きいんですけど?」
「それがこの避難の原因だ。アイツはエンシェント・ドラゴン。しかもエルダーらしい」
「はぁ? エンシェント・ドラゴンのエルダー? それ、もう伝説級どころか、幻レベルのヤバい奴じゃないですか! そんな受付嬢が殺る仕事じゃないよ! なんかSがいっぱいつく冒険者にやらせるクエストでしょうが!」
思わず理不尽過ぎて叫ぶエーリスだが、
「大声出すと気づかれるかもな」
「むぐぐ……」
トウマの冷ややかな助言に、慌てて口を両手でおおった。
「わかったろ。本来日の下に顔を出す事すらないエンシェント・ドラゴンが、なんの予兆も無しに姿を現したんだ。しかもエルダーときた。なら、そこにはなにかの原因がなければおかしいと考えるのが普通だろ? だからそれを探る為に俺たちが選ばれたってわけだ。脳筋だけの冒険者じゃ、ただドラゴンを殺す事しか考えないからな。
出来るだけ原型を残して処理をしろ。
ってのが、今回の指令だ」
「ふごごご? ふごご、もふふもふご」
「なに言ってるのかわからんが、悪いが俺の影はあそこまで届かん。今回はお前に任せる」
エーリスは半眼でトウマに使えねーと視線を送るが、彼はどこ吹く風でドラゴンを見上げ続けている。
「あの程度、ダークネスなら楽勝だろう。なにせキュレーター最強なんだから」
エーリスを見ずに言うトウマの言葉は、『最強』という部分にトゲがあった。
まぁ、厨二病を拗らせているなら、自分が最強じゃないと納得出来ないのよくわかる。
(……私、自分が最強だとか思ってない、なんて言ったら余計に火に油だよね)
そんな事を考えながら、エーリスはもう一度ドラゴンを見上げる。
面倒くさい。心底面倒くさい。
馬鹿みたいに命を消費するのが嫌だからギルド職員になったのに。
しかもこれだけの大物なんだ。
冒険者としてクエストで受ければ大金が入ってくるのに、今の状態じゃ殺り損である。
「どうした? まさか怖じ気づいてるわけじゃないだろ?」
挑発するようなトウマの言葉に、エーリスは口を塞いでいた手を退けると、
「しょうがない。宮仕えに選択肢はないもんね」
そんなボヤキを入れて、自分の右手に噛み付いた。




