第25話 奥義
決闘の場はギルドの前だった。
多くの挑戦者たちと、暇を持て余した観戦者たちが円を作って、決闘のリングが出来上がっていた。
まさに荒野の決闘である。
ルールは簡単、相手を気絶させるか、降参させれば勝ち。武器は危ないから素手での勝負となった。
……ただ、特例として冒険者ではないエーリスは木刀の所持が許可された。
「ありえない。てか、重い」
ずりずりと木刀を引きずってエーリスは円の中心に向かう。
業務時間に何やってるんだ? とは思うが、マル先輩がまったく注意をしないって事は完全にガス抜きとして黙認してるか、単純に関わり合いたくないかのどっちかだろう。
「大丈夫かい? エリリン。なんなら辞退しても良いんだぜ?」
対戦相手のガルシアが、気楽に言ってくる。
どう考えてもエーリスの事を見下してる感じだった。
「いや、辞退したいのは山々なんですけどね、ガルさん。それをすると明日から職場が地獄になりそうなんで、優しく倒してくださいね」
リセエンヌをかわいいとか思ってるのは別に冒険者だけじゃないのだ。マル先輩ですら、リセエンヌには甘くなる。そこで彼女の思いを無下にすれば……考えただけでも恐ろしい。
両者がいい感じの距離に立てば、なぜかレフリーをしている賞品のリセエンヌが、
「準備はいいですね? では、始めてください! 頑張れ、先輩!」
とか身内贔屓の開始の合図を出した。
「残念だな、エリリン。手加減してやりたかったが、リセエンヌちゃんの声援を得たお前は敵だ!」
ガルシアが一気に距離を詰めようとしてくる。
「最悪の泥沼じゃん。てか、ホントに重い! あ」
グイっとエーリスは頑張って木刀を振った。
が、それはスポンと手から離れて、走ってくるガルシアの股間にストライクした。
「――――!」
声にならない声をあげて、ガルシアは口からアワを吐いて倒れた。
「……フッ、流石は冒険者ランクDのガルシアさんです。私に奥義、メテオストライクを出させるとは……」
ガルシアに背を向けて、エーリスは空に片手を高く突き上げる。
「キャー、先輩、格好良い!」
黄色い声のリセエンヌは置いといて、男たちは全員が青い顔してガルシアを拝んでいた。
担架で運ばれるガルシアを横目に、エーリスはとりあえず決闘の場を後にする。
「なかなかいい戦いをするじゃない、エリリン」
そこにレディアナが声をかけてくる。
「そうですね。ガルさんには悪い事をしました。出来るなら負けたかったし」
ダルいと肩を落とすエーリスだったが、またレディアナが後ろから抱き締めて胸を頭に乗せてくる。
「で、少し聞きたいのだけど? 今もまだ近辺のモンスターの種類がおかしいままよね。ギルドはまだなにも対策を立てないの?」
次の試合を見ながら、レディアナが小さな声で聞いてきた。
「あぁ、なるほど。レディさんはおっさんのお使いで来たんですか。今、本社の方で実地調査をしてるみたいですね。うちは粛々とこの辺のモンスターに対応してろって指令が来てるみたいですよ」
「実地調査?」
「そうです。いるはずのないモンスターがいる。この現象がどこから始まっているのか? ってのを範囲を広げながら調べてるみたいですね」
「そう……」
「もっと詳しく知りたいなら、西のカレンを訪ねた方が良いですよ。エルフだから長い耳を生かした噂話を集めるのが得意ですからね」
「ふふ、そうね。後で行ってみるわ」
なんて話をしていれば、
「先輩! ほら、出番ですよ! そんなところでイチャイチャしてないで私の為に戦ってください!」
リセエンヌに呼ばれた。
「じゃ、頑張ってね、エリリン」
レディアナはそのままエーリスを離すと、輪の外に向かっていった。
そこにリセエンヌが駆けて来て、エーリスの手を引く。
「ほらほら、早く早く」
(うー、今度こそは負けよう)
そんな事を考えながら、リセエンヌに渡された木刀をまたずりずりして決闘の中央に向かう。
「さっきのようなマグレは私には通じないわよ、エリリン」
仁王立ちして待っていたのは、冒険者ランクCのセリナさんだった。
「ですよね。優しく倒してくださいね」
今度は木刀をちゃんと構えるエーリス。
「ではでは、勝負開始です! 先輩、勝ってくださいね」
にっこり微笑むリセエンヌに、エーリスの頬は引きつった。
「エリリン。覚悟!」
セリナが残像を生み出しながら、反復横跳びするように移動して近づいてくる。
「これならメテオストライクは使えないでしょ!」
「うわ、どれが本物か全然わからない。えっと、どれ……あぅ!」
エーリスはあっちこっちに視線を飛ばし、足下がお留守になった事でズッコケた。
コロンと木刀が転がったところに、セリナが丁度着地してしまう。
「なっ?!」
不安定な足場に、セリナは高速移動の慣性を消せずに顔面から地面にすっ転んだ。
それっきりセリナは動かなくなった。
えー、とエーリスは唖然とするが、すぐに我に返っていそいそと立ち上がると、
「悪いですね、セリナさん。奥義は一つじゃないんですよ。これは奥義玄武の舞です」
黄昏れるように空を仰ぐエーリス。
「キャー、キャー、先輩、二連勝ですよ!」
はしゃぐリセエンヌは置いといて、なぜか女性の冒険者たちが、自分の顔を確かめるように触りながらセリナに同情していた。
三戦目はすぐに来た。
今度の相手は冒険者ランクCのマイティ。
「まさかエリリンがここまで勝ち抜くなんてな」
「そうです。喜劇ですね。出来るなら、優しく倒してくださいね、マイティさん」
試合前の挨拶を交わして、リセエンヌがまた開始の合図をとる。
「もう、先輩の優勝でいいと思います。始め」
「前回の二人は自分から動いた事で失敗した。なら、俺はここでお前を迎え撃つ!」
マイティはそう叫んで、その場で構えをとる。
「そこまで歩くのもイヤなんですけど。流石に疲れてきたし」
それでも仕方ないとエーリスはマイティに近づいていく。
でもやっぱり躓いて転ぶエーリス。
「玄武の舞、破れたり!」
マイティが高らかに叫ぶが、木刀は地面ではなく空中をくるくると高く飛んで、マイティの脳天に落下した。
「新たな……奥義、だと?」
それがマイティの最後の言葉だった。
彼はそのまま後ろに倒れて動かなくなる。
「マジかよ~。なにこれ?」
とか言いながら、エーリスはダラダラと立ち上がる。
「奥義、朱雀急爪。これを躱せる人は未だに誰もいませんよ」
フッと髪を掻き上げるエーリス。
「キャーキャーキャー、三勝!」
アレは置いといて、周囲の人たちはざわめいていた。




