第23話 帰り道
朝日がゆっくりと天高く昇っていく中で、エーリスはボケーっと流れる雲を見ていた。
ここは街道を走る荷馬車、その荷台から出っ張るあおり部分。
そこにエーリス、カレンが座り、ゼファーは荷物と一緒に収まっていた。ちなみに、どうでもいいが、仔猫は幌の上で丸くなっている。
「もっとマシな馬車はなかったんです? 振動が直に来てお尻が痛いんですけど?」
なんてエーリスが不平を言えば、
「うるさいですわね。自分はただダラダラ寝ていただけじゃありませんか。混乱しているペンテグルネから脱出するだけでも苦労でしたのに、馬車まで手配出来たわたくしを逆に褒めるべきですわよ」
事が終わっても、ペンテグルネの街は混乱が続いていた。というよりもさらに悪化したというべきだろう。
宿屋が亜人の襲撃に遭い、一つのクランが勝手に出撃し、そのリーダーと副リーダーは死亡して、それ以外のメンバーもほぼ再起不能ともなれば、事態を把握し、収拾をつけるのは簡単にはいかない。
そこでペンテグルネのギルドは、街の出入りを禁止する措置をとったのだ。
で、エトランジュである自分たちが滞在を続けても良いことがないのは理解しているので、カレンはさっさと脱出を図るために戦闘直後から動き回って、こうして荷馬車に乗って街道を進む事が出来たわけだ。
「ふーん、でも命を助けた恩人ですよ、私」
「それこそですわね。貴女がもっと早く動いていれば、わたくしもゼファーも怪我をする事がなかったですから、逆に慰謝料を請求したいくらいですわ」
実際、カレンもゼファーも致命傷だった。それを治したのはエーリスだ。でも、確かに最初からエーリスが動いていれば良かっただけってのは……まぁ、そうなんだろう。
「えーー、だってレンレン、私の仕事は囮みたいな事を言ってたじゃないですか。だから、ざっくり斬られてあげたのに、負けるとか恥ずかしくないんですか?」
カレンはにっこり笑うと、自分の頭を強く振ってエーリスに頭突きを食らわした。
「いっったーー!」
ゴン! という音が頭蓋骨に響いて、エーリスは涙目になる。
「ふん! 口は災いの元ですわよ、エリリン」
そっぽを向くカレンだったが、さり気なく額を触るところから本人も痛かったのだろう。
「うぅぅ、頭が割れる」
エーリスはポテンとカレンの膝に倒れる。
「ちょっとなんですの?」
驚くカレンだったが、エーリスは、
「カレンの一撃で気を失ったんですよ」
とか言って、スースーと寝息を立てる。
「……このグータラ猫は」
そんな事を言いながら、カレンはエーリスの髪を撫でた。
カラカラと車輪が回り、仔猫が「ニャー」と鳴けば、ゼファーが「狭い」と愚痴を吐く。
荷馬車はそれでもゆっくりと進んでいく。




