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冗談で作ったVキャラで異世界転移したけど、命のやり取りとかあり得ないのでギルドの受付嬢をやってます  作者: 水無月/成瀬


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第19話 人間

 エーリスはボーッと天井を見上げていた。


 上でも下でも、ものすごーくうるさい音が響いてる。


「……さて、どうしよっかな?」


 カレンとゼファーが戦っているのは知ってる。なんだったら最初から起きてもいた。


 それでもこうして寝てるのは、単に面倒くさいから……ではなく、エーリスにもエーリスのやる事があるからだ。


 下が静かになった。上はなんか余計にうるさくなったけど。


 エーリスはゴロゴロとベッドを転がって床に立つと、もう窓の形跡すらない空いた場所から下を覗く。


「やっぱり来たね」


 その目が捉えたのは、武装してる冒険者たち。


 情報では、白銀の翼は使っている亜人も大義名分を持って普通に処分するらしい。なら、ここまで街に被害が出れば、御大層な名分を持って必ず動くはずである。


 ゼファーと白銀の翼の面々が接敵する。


 どうやらゼファーの姿に戸惑いが生まれているらしいのが、遠くからでも見て取れた。


「まぁ、ギルドよりも冒険者たちの方に噂は広まってるだろうし、トウマくんがすでに挨拶を済ませてるからね」


 ポフンと頭が重くなる。


「ホントにどこから湧いてくるんだか?」


「ミャー」


「ミャーじゃないから。でも、来たのなら役に立ってよね」


 言ってエーリスは仔猫をギュッと抱き締めて、頬ずりして、外にポイした。 


 仔猫はめちゃくちゃドン引きの目を向けながら、くるくると落下して、ゼファーの頭に着地した。


「あの猫は! あの女の!」


 ここまで響く男の悲鳴に、エーリスは、


「はて? なんか聞いた事がある声だな?」


 なんて思いながら、部屋を出た。


 今さらながら、宿屋は逃げる人たちでごった返していた。


 その波に飲まれるように身を委ねて、エーリスは宿屋を後にする。


 雪崩のように宿泊客は外に出て、そしてゼファーたちと対面する事で足を止めてしまう。


 出口はギュウギュウに人混みで溢れてしまう。


「……なんだろう。小さくて良かったと思いたくないんだけど。複雑だ」


 ホンの小さな人の隙間を縫って、エーリスは歩みを止める事なく外に出る。


 ゼファーをチラ見して、逃げるように反対方向に走り出す。


「うぅ、ダルい。スタミナなんてないんだよ」


 愚痴りながら、街の中を疾走……もとい早足程度で駆け抜けていく。


 宿屋も酷かったが、街はカレンたちの戦闘によってざわめき立っていた。


 誰もエーリスなんて気にせず、崩壊している街の風景に呆然とするか、遠くに逃げようとしている。


 息が上がる。


 膝が震える。


 もう、寝たい。


 それでもエーリスは頑張って、足を動かし続けた。


 ここで止まったら、絶対にカレンに怒られる。それはヤだ。


「百メートルの世界、新記録更新だね、これは」


 肩で息をしながら、エーリスはエヘヘと変な妄想で現実逃避をしていれば、


 烈風が横を駆け抜けていく。


 髪が斬られ空を舞う。


 仕方なく、エーリスは足を止める。


「うぇぇ、吐く……」


 途端に跪いてえずきだす。


「なんとも不様な姿を晒す亜人だな。人を呼んでおいて、その体たらくは馬鹿にしているのか?」


「別に、貴方を呼んだつもりないんですけど?」


 口を拭いながら、エーリスは声の主に振り返る。

 そこにいたのは、白銀の鎧を纏った、中々に顔立ちが良い男。


「嘘をつくな。わざとらしく視線を送り、降ってきた猫の匂いを纏わりつかせているのは、俺を誘う行動だろ?」


「へー、ぺらぺらとよく当たってるかも分からない推理を披露出来ますね。なんですか、探偵の方で?」


「チッ、口だけの雑魚か。よもやそんな奴に釣られるとはな」


 男は苛立ちを隠さずに顔を歪める。


 そこに近づく足音と、


「おい! アルク! 急に走ってどうしたんだよ? 噂の処刑人が出てきたんだぞ! ここは皆で……誰だ? ソイツも処刑人なのか?」


 これまた良い男が、白銀の鎧を着た男に――どうやらアルクってな名前らしいが――駆け寄り、対峙してるエーリスを訝しんで見る。


「ナイルズか。いや、腕輪をしてる奴が走っていくのが見えたんでな。もしかして、街の人を襲うのかと考えてな。だが、杞憂だった。どう見ても雑魚のちんちくりんだった」


「そうか。お前にはいつも、心労をかけるな。リーダーの俺が不甲斐ないばっかりに……」


「言うな。お前は彼女の志の為にただひたすら前を見ていればいいんだ」


 ……急に二人っきりの世界に入られて、エーリスは完全に蚊帳の外だった。


「ありがとう。僕は必ずやり遂げるよ。誰もが笑っていられる世界を。その為に、亜人どもを根絶やしにして、心優しいエトランジュだけにするんだ」


 そのナイルズとかいう男の言葉に、エーリスは引っ掛かる。


 白銀の翼はエトランジュだろうが、亜人だろうが関係なく、皆殺しするクランだと聞いてる。なのに、今の発言は……。


「だからこそ戻ろう、アルク。噂の処刑人、アイツらこそ諸悪の根源なんだろ。自分たちの思うがままにスキルを使う無法者。あいつらが後ろにいるから、亜人どもが傲慢に振る舞えるんだからな」


「いや、その前にこのちんちくりんを始末しよう」


 やっとアルクだかなんだかが、こっちを見た。流れでナイル川だかなんだかもこっちを見る。


「こいつをか? だが銀の腕輪をしてるって事はエトランジュだろ?」


「あぁ、だが報告を受けてなかったか。ナイルズ。金髪のチビに襲われた街の人がいるって」


 ナイル川……じゃなくてナイルズが驚いてエーリスを見つめる。


「そんな事が出来るような娘に見えないが……」


 エーリスは立ってるのが辛くて、ペタンと地面に座っていた。まぁ、傍から見ても無害そうである。


「だから怖いんだ。こんな無能に見えて、エトランジュはスキルを持っているんだから。惑わされるなナイルズ。真の悪人は、無邪気な顔をした仮面をつけているモノだからな。

 思い出せ、今まで殺してきた亜人どもだって、最後は自分が善人だと言って罪から逃れようとしてただろう」


 アルクの言葉に、ナイルズはハッとする。


「そ、そうだったな。それを信じて、彼女は死んだのに……すまない。僕はまた、同じ間違いをするところだったよ」


 意を決したナイルズが剣を抜く。


「あ? 話は終わりました? いやー、すっごく長く話しているから、飽きちゃいましたよ」


 んしょ、と立ち上がるエーリス。


 あまりにも目の前の状況を理解していない言動に、ナイルズは困惑するが、


「だから惑わされるなと言ってるだろ、ナイルズ」


 横にいたアルクが喝を入れた。


 アルクも剣を抜く。


 その行動に、エーリスは薄笑った。


「へー、それで剣を抜くんですね」


「なにがおかしい?」


 アルクが剣呑な視線を浴びせてくるが、エーリスはどこ吹く風にスカートの汚れを払う。


「いえ、良いエトランジュ、悪い亜人の定義は誰が決めてるのかな? って思いまして。しかも人を襲った亜人が金髪のチビだからって、それが私だって確証はどこにあるんですか? この世界に金髪のチビは私だけなんですかね?

 あと、チビじゃないですから。ちょっと成長期が反抗期なだけですから」


「それは……」


 ナイルズは言い淀み、助けを求めるようにアルクを見る。


「それは人間が決めるんだよ。初めからこの世界にいた人間がな」


 真っ直ぐに言い切るアルクに、エーリスは思わず拍手をしてしまう。


「おぉ、凄いですね。それを人間じゃない貴方が胸を張って言うなんて、尊敬に値しますよ」


「なにを言ってる? 俺は人間だ」


「嘘は亜人の始まりですよ。貴方、魔法が使えませんよね? 最初の牽制、呪文もなにも聞こえませんでしたけど? どうやって」


 エーリスは地面を抉っている跡を足でなぞる。


 これは烈風が通った跡だ。


「こんな事が出来るんですか? 魔法を使うのに、声は絶対に外せない要素ですよね?」


 アルクの視線に、強い殺気が籠もった。


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