第13話 犬派と猫派
「ところで、ずーーっと気になっていたのですが、エリリン。その頭の仔猫ちゃんはオシャレのつもりなんですか? 流石に地雷系の格好に、猫はやり過ぎだと思うのですが?」
仕事の話になるかと思ったが、カレンはどうやらエーリスの頭に居座る仔猫が気になって仕方ないようだった。
「はぁ? クラシックロリ系のレンレンに言われたくないし、この猫は知らん。勝手について来たんですよ」
「勝手に頭にいるって、エリリン、貴女……頭大丈夫?」
本気でエーリスの頭を心配する表情をするカレン。
……確かに、自分で言っててなんだけど、それは流石にヤバい発言である。
「別に、似合ってるんだから良いんじゃないか。それに服装はどっちも同じに見えるが?」
フォローのつもりなのだろうか、ゼファーがそんな事を言うが、
「はいはい、冗談、乙です」
「人の区別がつくのに、この衣装の違いがわからないわけないですわ。つまらない冗談はよしてくださいまし」
「す、すまん」
二人の圧に、ゼファーは大きい体を小さくして謝ってしまう。
それでも納得いかないなー、みたいな感じでエーリスとカレンを何度も交互に見比べていた。
「ニャー」
そんなゼファーを慰めるように仔猫は鳴くと、ピョンと器用にドアノブを回して部屋を出ていった。
「行っちゃいましたよ?」
それを見送るカレンが言うが、エーリスは軽くなった頭を振って調子を整えていた。
「アイツは猫だから、気にするだけ無駄でしょ」
「それはいくらなんでも薄情なんじゃないだろうか……?」
ゼファーも開いたままのドアを見てそんな事を言う。
「なら、ゼファーくんが飼えばいいじゃないですか。私は犬が好きなんですよ」
「フフ、同族嫌悪ってやつね」
カレンが言って笑えば、ゼファーも納得したように頷く。
エーリスは憮然と半眼になり、仔猫が開けたドアを静かに閉めると、それに背を預けた。
「で、パンダとトカゲ。そろそろ真面目に仕事の話をしてくれません?」
「パンダ……せめて、もっともエレガントな動物にしなさいよ」
「トカゲは……ないんじゃないか?」
二人は顔を微妙な感じで見合わせるが、場の空気を変えるようにゼファーは咳払いを一つした。
「そうだな。では、情報の共有をするとしようか」
のっそりとゼファーは立ち上がると、窓のカーテンを閉じて、そのままエーリスのように窓に背を預ける。
「ところで、今日の晩飯はなんだろうな」
ゼファーが軽く口を開く。
「さぁ、昨日と同じなんじゃありません?」
「そう言えば、私、お昼食べてないんですよね。お腹減った」
カレンが生み出した小さな炎が、部屋を薄暗くだが照らす。
その炎が作る影を使って、三人は無駄口を叩きながら、ハンドサインで会話する。
『私たちのターゲットは、白銀の翼、その副リーダーですわ』
『副リーダー……なるほどね』
不思議に思うかもしれないが、組織ってのはリーダーではなく、副リーダーが実権を握っていたりする事がある。
確かに人を引き付けるカリスマがなくては、組織は生まれる事もない。が、それよりも作った後の運営、人を動かす力がなによりも重要であり、大体それを担っているのは副リーダーだ。
とは言えだ、
『白銀の翼、それ自体が純血主義って聞いてますけど?』
『それは間違っていない。あのクランに所属している大半はエトランジュやハーフを嫌っている』
『……でも、対象はクランじゃなくて、副リーダー?』
『ダークネス。貴女、白銀の翼が元は、エトランジュたちの解放を掲げていたのはご存知かしら?』
『知ってる』
『今のリーダーは二代目なんですわ。それも、前リーダーの元恋人。そして副リーダーに変わりはない。ついでに言えば、この三人は幼馴染だそうですわ』
エーリスは腕を組んで考える。
となると、クランを作ったカリスマはすでに消えているって事だ。もし、現リーダーがただの神輿であるならば、確かに副リーダーを調査するべきかもしれない。
『まぁ、対象が副リーダーなのはわかったよ。で、結局、そいつは私たちが出張るような、なにをしたの? いえ、しているの? ですか?』
そのエーリスの問いに、カレンは苦虫を噛み潰したように、ゼファーは静かに目を閉じた。
動いたのはゼファーだった。
ゆっくりと目を開け、エーリスを見つめると、おもむろに自分の腕輪を掲げた。
『まだ確証はないが、ヤツはエトランジュやハーフ、いや全ての人ならざる者と言うべきだな。その評判を下げる為に、わざわざ亜人とも手を組み、関係ない人たちを襲っている。
そして、大義名分を掲げて、エトランジュや亜人どもを殺して回っている』
『それはまた、ずいぶんなマッチポンプですね』
エーリスも自分の腕輪に視線を落とした。
たまに思う。街にいる人たちは、この腕輪があるから面と向かってくれているんだと。
別に悲観するつもりはないが。こんな程度の信頼、簡単にひっくり返る事だけはわかっている。
『つまりは、その確証を得る必要があるって事ですか。
んじゃ、最後に一つ。
言葉は悪いですけど、たかが人間の魔法程度で、私たちのスキルが敗れるとは思わないんですけどね?』
『残念ですが、その問いに答えるものを、わたくしたちはまだなにも持っていないんですの。ただ、犠牲になったエトランジュたちは、みんなまるでモンスターに襲われたように、ズタボロだったんですわ』
『もしかしたら、全てを知った上で、それでも副リーダーに手を貸している人ならざる者がいるのかもしれん』
エーリスは面倒くさいとため息一つ。
『つまり、まだなにもわかってないって事ですか。なにしてたんです? パンダとトカゲは?』
「だから! もっと高貴な動物に喩えなさいよ! このグータラ猫が!」
カレンが、出していた炎を握り潰して立ち上がる。
一瞬だけ部屋が暗くなるが、すぐに轟々と燃える炎が部屋を輝き照らした。
「誰が猫だ! 私は犬派だっていってんだろ!」
エーリスが右手に躊躇なく噛み付き、黄金の髪が白銀に変わる。
「おいおい、やるなら外でやってくれ。あと、口調が乱れてるぞ、二人とも」
「「うっさい! トカゲ!」」
綺麗にハモった怒声に、ゼファーは窓を開けて青い空を見上げた。
「あぁー、転職したい」




