第10話 おかしなクエスト
クエストの内容と言われて、エーリスはリセエンヌを見た。
リセエンヌはエーリスに抱きついたまま、彼女が持つ紙袋から串焼きを取り出して噛みつこうとするところだった。
「ふぇ? なんで私を見るんですか? 先輩」
「いや、だって私、一つもクエスト受理してないから、内容知らないし」
「…………」
リセエンヌは可愛く肉を咀嚼して、暫くエーリスを見つめ、今度は恐る恐るギルガルドを見る。
「わ、私が話すんですか~?」
で、ギュとエーリスに抱きつき直した。
「他に誰がいるのよ」
「でもでも、先輩だってさっき事務処理で見てたじゃないですか?」
「でも少しだし、ちゃんと答えられるのはリセエンヌでしょ。別に答える義理もないんだけどね」
リセエンヌが希望を得たみたいな顔をする。
「そ、そうなんですか?」
「まぁね、ギルドは情報を扱ってるし、別に冒険者の為の組織じゃないもの。たとえ大手のクランだろうが、ギルドからしたら一冒険者よ」
「な、なら、喋りません」
何故かリセエンヌはギルガルドに向かって舌を出す。
「べーだ、もう帰ってください。ギルドの受付は終了してますよーーだ」
「ホントになにしたの? オッサン」
よくまあ短い時間で嫌われたもんだと、変なところで感心しながらエーリスはギルガルドを見る。
「そりゃ、俺が知りたいよ。ホントに最近のガキはよくわからん」
言って酒瓶を呷るギルガルド。
「こら、一口って言ったでしょ!」
堪らず怒るエーリスに、ギルガルドが苦笑いしながら酒瓶を放り返す。
「おぉぉ、半分なくなってるし」
軽くなった酒瓶にドン引きしながら、口をつけようとすれば、
「駄目! 間接キスですよ、先輩!」
「別に今さらだし、気にしない」
騒ぐリセエンヌを横に、エーリスは酒を喉に流した。
あぁー、とか叫ぶリセエンヌに、エーリスは酒瓶を渡す。
「ほら、リセエンヌも飲む?」
「…………」
暫く酒瓶を見つめたリセエンヌは、勢いよく酒瓶を呷った。
ゴクゴクと喉を鳴らし、酒瓶は一気に空になる。
「おいおい、良いのか?」
ギルガルドもエーリスが酒豪なのは知っている。だからこそ、その行動にびっくりして聞いてくる。
「別に、また買えば良いだけだし。それに、酒が入った方が口も軽くなるでしょ」
リセエンヌを見ればいい感じに頬が赤く染まっている。
「ところでギルガルド。私、色んなところにツケが溜まってるんだよね~」
チラッとエーリスはギルガルドを見る。
彼は仕方ないな、みたいな感じで頭を掻いていた。
「わかったよ。それで手を打つ」
「フフ、でもリセエンヌの分も払って貰わないとね。ついでにさっきの串焼きと酒代も」
「流石にそれはがめつ過ぎるだろ?」
「なら帰れば?」
エーリスは紙袋から串焼きを取り出し齧る。
「クソ、わかったよ」
ギルガルドが懐から革袋を取り出して、エーリスに放り投げた。
空中でそれをキャッチして中を確かめれば、ぎっしりと金貨が詰まっていた。
「流石、大手クランのリーダーさまだね。ちょっと足りないけど、貸しにしとく」
「……もう、それでいいわ」
疲れた感じを出してギルガルドは項垂れるが、気分を一転させるように顔を引き締めた。
「で、そろそろ本題に入らせてもらうがな。どうにも最近のクエストで、この辺にいるはずのないモンスターの討伐が増えてるって話だ。俺はギルドでクエストを受けないからな、その辺は又聞きなんだが、それを確かめに来たのと、もしそれが本当ならギルドはどう考えてるかを知りたい」
「なるほど。異世界あるあるの一つね」
「まぁ、簡単に言えばそうかもな。だが、実際に経験すれば笑えるような内容じゃないがな」
ギルガルドが顔を顰める。
「ここは王都だ。だからモンスターの討伐には、どこよりも力が入っている。お陰である程度の知能があるモンスターは寄り付かないし、残るのは雑魚ばっかりだ」
「それでもモンスターが現れるなら、王都にいる冒険者や騎士よりも、怖い存在が現れた。か、イカれたか。の、どちらかね」
「はたまた、ただ強くなったのか」
エーリスたちは互いに顔を見合わせる。
「……確かに~、討伐クエストは増えてはいますよ~」
そこにリセエンヌが口を挟む。
「それもここではあまり見ない~、オーガとか、アラウネとか、コカトリスとか~。でも~、クエスト受ける人たちは実力者の人たちばっかりだから~、今のところは~、全然問題ないですよ~」
(うわー、ここまで弱かったの……)
いい感じに酔っ払ってるリセエンヌに、エーリスはちょっとだけ後悔したりする。
「……だってよ」
「なるほどな。だが問題は、対処出来るじゃなく、偶発性のエンカウントがあるって事だ」
顎に手を当ててギルガルドが唸っている。
まぁ、大手ともなれば、初心者冒険者たちも多くなるのだろう。
命をかける職業のなにが良いのかはわからないけど。
黙ってギルガルドが視線を向ける。
それは『ギルドはどう考えているのか?』ってのを聞いてるのだろう。
言葉に出さないのは、隣にリセエンヌがいるから。
つまりは、キュレーターとしてって事だろう。
『知らない』
さり気なくハンドサインを使えば、ギルガルドも返してくる。
『調査してないのか?』
『してるかもだけど、私は基本遊撃担当だしね』
『そうか……』
『でも、この前エンシェント・ドラゴンを殺った。しかもいるはずのない場所で』
『噂は聞いていた。白銀の翼をボコったんだってな』
『白銀? なんの』
「先輩~、なにしてるんですか~? お手々、ふりふりして、握手したいんですか~、ふふ、仕方ないですね~」
ギュッと手をリセエンヌに握られて、ハンドサインは中断された。
自分が招いた結果なので、エーリスは仕方なく握手をしたまま、されるがままだ。
「……悪いね。力になれなくてさ」
「いいさ。答えてくれただけで十分だよ。懐は寒くなったが。まぁ、ギルドが動こうが動かまいが、どの道俺は動くしかないんだからな。好きにやらせてもらうぜ?」
ギルガルドが立ち上がり、用は済んだと扉に向かう。
「それこそ好きにしなよ。私は私の領分でしか動かないしね」
ギルガルドが出ていけば、隣からスースーと寝息が聞こえる。
いつの間にかリセエンヌは眠ってしまったらしい。
さり気なくカウンターの向こう、リセエンヌの机を見れば、まぁ書類は片付いていなかった。
「……あれ、私がやらなきゃだよね。最悪ー」
今の状態じゃ、非力過ぎてリセエンヌを運ぶ事も出来ないので、エーリスはジッと考えるように右手を見た。




