第8話 シャッター
錦桃。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえり、お姉」
「おかえり~お姉ちゃん!」
目を逸らす。
「はいはい、ただいま」
階段を上がる。
外で音。
今日はとても天気が悪い。今にでも、窓がピカピカ光りそうだ。だから、外出するのは困難だろう。
掛けてあるギターをみつめる。
「モモ~家でギター弾いちゃダメだからね」
息を吐く。
「分かってるー!」
もうー!
外出できない今、私は選択せねばならない。ギターを弾くのか、弾かないのか。
私は“毎日ギター”を胸に掲げている。夢が夢なので、それくらいのノルマは達成しなければならない。だが、この状況でギターを弾けば「アンタ!ご近所さんに迷惑でしょ!」と怒鳴られるに違いない。では、ギターを持って外出することは可能なのか?否!それはできない。なぜなら、私の胸に掲げる理想はなにも一つだけではないからだ。今、ギターを持って外出すれば私の理念が損なわれるだろう。いざ!選択の時きたり!
「答えは一つ」
右手に持ったピックを上に掲げた。
「私はギタリストよ」
同時に。
無音で開くドア。
「ちょ、ちょっと!部屋に入るならノック・・・」
「えーん」
部屋に入ってきたのは明日で13歳の誕生日を迎える妹だった。
「どうしたの?」
「雷が怖いの!」
「雷?」
カーテンは開けていたが、光は確認していない。音も。だが、外は大雨だ。その音にかき消されたのかもしれない。
「雨の音もうるさいの」
今年1番の大雨になると今朝、そんなことを言ってたなーって・・・そうじゃなくて!
「お姉ちゃーん」
今日は一度もギターに触れていないのよ!毎日やらないと意味が・・・
「怖いよー」
でも・・・
「今日はお姉ちゃんの部屋で寝ようか?」
「うん!」
もう一つあるんだ。私の心には・・・
「お姉ちゃん!」
理念が形を成している。
シャッター。
音。
光が射す。
「ぴよぴよ」という鳥の囀りが私の目を起こす。
「眠い」
目を円状にかく。
「ぴよぴよ」
やけにうるさいわね。
「ぴよぴよ」
「いや!アンタかい!」
妹の夢はどうやら鳥らしい。
妹を起こさぬように慎重にベッドから抜け出す。まるで、忍者のような足さばきで外へ脱出する。
「朝ご飯できてるわよー」
「はーい」
「行ってきまーす」
どうやら、妹を起こさずに家を出れたらしい。
「お姉ちゃん!」
目。
「いってらっしゃい」
間。
「行ってきます!」
私はいつものようにパンをくわえ、学校へ向かう。
「パクパク」
正直、これは遅刻したときにやる秘技なんだけど。
手を握る。
「いたしかたないわ」
私には出会いが必要なのだ。きっと、私が誰かと付き合うことになれば、あの女は・・・佐藤野花は私から興味をなくすに違いない。そうすれば、晴れて私は自由の身。ギターに専念できるってわけ。誰かと付き合えさえすれば・・・
「錦さん」
振り返る。
「こんなところで会うなんて」
息を吸う。
「やっぱり、私たち運命だわ!」
目を細める。




