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第5話 理由

「なぜ、ギターを辞める必要が?」


「野花があなたに惹かれた理由をご存じなくて?」


「それは・・・」


 佐藤野花が私に惹かれた理由。


「恐らく野花はあなたのギターに惹かれたのでしょう」


「私のギターに?」


「ええ、あなたは元々、何も持たぬ人間でした」


 確かに私はギターに出会うまで、何もなかった。


「勉強ができるでもなく、かといって全くできないわけでもなく。すべてにおいて特徴のないあなたがギターという武器を手に

入れた」


 それは・・・


「あなたが弾いたギターの音が彼女を惹いたのでしょう」


 私の音が・・・


「私には分かりませんが」


 私のギターが彼女に届いたというのか?


「私はただ・・・」


 息を吸う。


「ギターが好きなだけ」


 あるいはそうありたいだけなのかもしれない。


「彼女がどんなコンタクトを取ろうとも私はただギターを見つめるだけだ」


 彼女に視線を向けることなど絶対にしない。


「彼女の告白を断る。それで、いいでしょう?」


 彼女の恋を実らせるわけにはいかない。


 首を横に振る。


「あなたがギターを弾く限り、彼女の想いが消えることはない」


 私がギターを愛する限り、彼女は私を愛すというのか・・・


「あなたのギターがあの子をあんな風にした」


 そんなの関係ない。


「だったら、私はギターを弾き続ける」


 誰かのためじゃない。


「そうですか」


 困りましたわ。思ったより、彼女の決意は強固なもののようだわ。


 沈黙。


「ねえ」


「何?」


「あなたもギターを弾いてみてはどう?」


 ギター?


「彼女がギターに惹かれたというのならば、アナタもギターを弾けばいい。そうすればきっと・・・」


「それだけはできません」


「どうして?」


 お父さん・・・


「私がギターなる低俗なものを弾くなんて・・・」


「てっきり、佐藤のことが好きなのかと思ってた」


「何です?」


「いや、そのためならギターを弾いて私から奪ってやるっていう」


 目を逸らす。


「そういう意気込みくらいあると思ってたんだけど」


「私は彼女に対して、そのような感情はありません。ただ、私は彼女が特別であってほしい。それだけです」


「でも、ギターはやらないんだ?」


「ええ」


「彼女を特別に戻したいのならもう、ギターしかないんじゃない?」


「それは・・・」


「できないんだ」


だって、私はギターをやってはいけないから・・・


「とにかく、忠告はしておきます。彼女の手から逃れるためにはギターを辞めるしかない」


「じゃあ、私からも忠告。ギターに対して何か言うなら、同じくギターで。音に乗せてね」


 ギターはギターでしか。


「余計なお世話ですわ」


「そっちこそ」


 見合わせる。


「では、私は用がありますので」


「ええ、私もギターの練習があるので」


 何よ、あの女!


 家。


「ただいま」


「おかえり」


 溜息。


「桃~お風呂沸いてるわよ」


「は~い」


 階段をふらふら上がる。


「もーう」


シャツのボタンに手をかける。


「はあ~今日も疲れた~」


 目を閉じる。


「一体、何なのよ!いきなり私を観ろだの!ギターを辞めろだの!」


佐藤野花が私のギターに惹かれた?なら、どうして私に観ろなんて・・・


「まあ、私には関係ない。私はただ、ギターを好きでいればいい」


布団に潜り込む。


「桃―お風呂―」


 夢の中。


「やっぱり、野花ちゃんって何でもできるよね~」


「そんなことないよ~」


 視線。


「うわあ!」


 息が荒い。


「違う」


彼女と目が合ったような気がした。


 でも、まだ夢でよかった。


「これだと、寝れなーい」


最近、嫌な夢ばかり見る。この死活問題にはあいにく対策しようがないので・・・


 ピックを取る。


 弦を指に乗せる。


「私にはギターが」


 腕を振り下ろす。


 この瞬間が・・・


「お姉ちゃん!家でギター弾かないで!」


 静止。


 数秒。


「どうやら」


地獄と綱渡りしなければならないらしい。


「スピー」


 鳥のさえずり。


「んん~」


 視線。


「はあ~」


 階段を降りる。


 膝が痛い。


「おはよう、お姉ちゃん」


「お姉」


「おはよう、カスミ。アンタも」


「うん」


「お兄は黙ってて」


「はいはい」


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 今日は朝早くに家を出た。あいつと出会わぬように。この時間なら・・・


「あ!」


 背後から視線が。


「も・・・錦さん・・・」


 よかった。


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