第4話 下から
「おはよう」
覗き込む。
「私に話しかけないで」
「ヒヒ」
思わず笑みがこぼれる。
「あなたの笑顔が気持ち悪い」
私に敵意をむき出しにしてくれる。
「ねえ?あの告白の件、考え直してくれないかな?」
「はあ!アンタ!そんな話こんなところでするなし!」
もっと、この人のことが知りたい。
「そう?事実、私はあなたに告・・・」
周りを見る。
「ちょっと、こっちに来て!」
私の腕を掴む。
「うれしい」
どこまで連れて行ってくれるだろう。
黒い。
明かり。
「倉庫の中なんて、錦さんって意外と大胆ね」
「黙って!とりあえず」
一呼吸。
「どういうつもり!」
「何が?」
溜息。
「私はもう返事をしてそれで話は終わって・・・」
「終わらないよ」
力強い瞳。
「私の気持ちが終わるまで」
私はまた囚われるのか・・・
「私は!」
そんなの、絶対いや!
「夢があるんです!」
目を合わせる。
「その夢を叶えるためには恋愛などにうつつを抜かしている時間はありません」
指をいじる。
「それに、私は普通の・・・」
「錦さんの夢って、ギタリストでしょ?」
間。
「ええ、私の夢は国内最高の女性ギタリストになること。その夢を叶えるために」
「それでは私を観てくれない理由にはなりません」
「私はあなたのことが嫌いなの!」
躊躇する必要なんかないんだから。
「幸せ」
「なに、言っているの?」
「この痛みが」
このとき初めて理解した。
「普通じゃない」
黒百合が咲く理由を。
「そう?」
理解と同時に嫌悪感で吐き気がする。
「私は絶対にアナタを見ない!」
この決意を胸に私は。
「ギターを見続ける」
ギタリストとしての覚悟。
「私も・・・」
彼女の言葉を遮るように足を踏み出した。
「何なの!何なの!何なのよ!」
「変わったよね」
前方から耳障りなハスキー声。
「ホント、変わった」
私の進路に仁王立ちするこの女の名前は。
「最上百合」
どうして、あんたがここに。
「あなたの大好きな佐藤野花は変わってなんかいないよ」
佐藤野花は小学校の時から変わらない。
「そうではなくてよ」
同様にこの最上百合も。
「わたくし、あなたのことが嫌いですの!」
どうやら、変わらないらしい。
「安心して。私も百合ちゃんのこと嫌いだから」
「わたくしたち唯一の共通点ですわね」
「ええ」
こういう人間にはこの言葉で充分だ。
「変わられました」
野花もあなたも。
「私はともかく・・・佐藤も?」
「ええ、私は一番近くで彼女を見ていたから分かるんですの」
確かにいつも佐藤の近くにいた気がする。
「あなたが野花を変えたのです」
「私が・・・」
野花を?
「野花は誰にも心を開くことなどいたしませんでした。ましてや恋心などと」
言われてみれば、小学校の時からいろんな人に言い寄られている光景を見てきた。それでも、野花は。
「ごめんなさい」
誰の告白にも応じなかった。
「野花は特別ではなくなりましたの」
「特別?」
「ええ、野花は誰にも心を許しませんでした。そばにいた私にさえも・・・」
あんたにもね。
「それゆえ、野花は特別でいられたのです。そんな野花が普通の人間が抱く恋心など・・・」
「いや、恋心といっても同性を好きになるなんて普通じゃ・・・」
「あら、今の時代ではそうおかしなことではなくてよ」
このお嬢口調に腹が立つ。
「あ、そう。で、用件は?まさか、そんな減らず口を叩くために私に話しかけたわけ?」
「相変わらず、生意気ですこと」
舌打ち。
「まあ、いいですわ。ここからが、本題です」
どんな話をしようというのか。
「単刀直入に言います」
「どうぞ」
間。
「ギターを辞めていただけませんか?」
「は?」




