第2話 観測
自宅。
今日は一段と疲労が蓄積していたので早々に寝てしまった。
「野花ちゃんってホント!何でもできるよね~」
「そんなことないよ~だって、私リコーダー上手く吹けないもん」
「ええ~野花ちゃんが?」
笑い声。
まただ。嫌な夢。いや、夢というより過去の記憶を追体験しているような感覚か。
アラーム。
「はあ」
私はいつも、アラームより先に起きる。嫌な夢を見るせいで早く起きてしまうのだ。そんな朝早くに目を覚ました私が初めに
取る行動とは!
「スピー」
二度寝である・・・
外が寒いのもあるが、何より悪い夢を見てから学校に行くのが嫌だから。
どうせ学校に行くのなら良い夢を見てから行きたいというものだ。それで、遅れるのならば本望である。とにかく、私は悪い夢を上書きする。いい夢を見るまで・・・
「観てもらえるように頑張る」
「うわあー」
二度寝たところで良い夢を見るとは限らない。悪い夢は持続する。私にとって睡眠とは拷問と同義だ。いつも同じ夢を見る私にとっては・・・そんな私はついに・・・
「スピー」
人はいつも繰り返す。それが後々、自分を苦しめることになると分かっていながら・・・
「モモ~入るわよー」」
人は愚かさゆえに。
「モモ!アンタ、早く学校に行きなさい!って・・・」
「スピー」
とても、愛おしい。
「モモ・・・」
「ふにゅ~」
ようやく目が覚めたか。
大きなあくび。
夢は観なかったようだ。人は良い睡眠ができたとき夢を観ないというが。
「ん?机に・・・うわあ!さくらんぼ!お母さんが朝ごはんの代わりに置いといてくれたんだ」
間。
「あれ?横に紙が?」
母より。
「どれどれ」
「お母さん心配です。桃が未だ恋人一人、連れてこないことに」
「はあ!」
「お母さん心配です。この年でお腹いっぱいになるまでさくらんぼを貪りつくす桃へ」
それはお母さんがいつも、いっぱい買ってくるからでしょ!
「ああ、さくらんぼが大好きな我が愛しの娘よ。このままでは、あなたは生涯“CHERRY GIRL”のままです」
追記。
「あなたの花は咲くことを知らずに」
「いやー」
強く握りしめる。
「お母さん!何よ、あれ!」
「何って。アンタ、さくらんぼ好きでしょ?」
「好きだけど!」
「それより、桃。時間!」
あ!
「行ってきます!」
「気をつけなさいよ」
もう!もっと、早くに起こしてよ!
紙。
「それに、親よ、親!親があんなデリケートな話題に触れるなんて!」
玄関。
「あの子、どうしたのかしら?」
通学路。
「遅刻しちゃう~」
私はいつも遅刻するかしないかという瀬戸際で家を出発する。
「もうー」
理由は前の通りよ。
笑う。
「でも、本当にそれだけの理由で遅刻するわけじゃないわ!」
ポケットに手を入れる。
「これよ」
あるものを口にくわえる。
「遅刻遅刻―」
こういうときのため。パンをあらかじめ常備しているのだ。なぜ、そんなことするかって?
「いやーん」
理由はたった、一つ。
「イケメン男子とぶつかるため!」
私は漫画でよくあるあの出会いに憧れているのだ。
「ムシャムシャ」
これまで、通算60回とパンをくわえてきたが、未だその出会いはない。それでも、私は諦めない。私は普通の恋愛がしたい
のだ。
「私を観てほしいの」
私は絶対、普通の恋愛をして見せるわ!
「おいしい」
そして。
「運命はこうしてつかみ取るのよ!」
くわえていた食パンをフランスパンに切り替える。食パンよりもリーチが長い分、運命の距離を近づける!私の記念すべき61回目のパン登校!
目の前。
「あの曲がり角を曲がれば!」
あ!
妙に柔らかい感触。
「いたたた」
ついに運命をわがものに!
「あの、大丈夫?」
妙に聞き馴染みのある声だった。
「なんで、アンタがここにいるわけ!」
真っ黒な瞳。
「なにって、私も今から学校に向かうところなんだけど」
髪。
「優等生のアンタが何でこんな遅刻ギリギリの時間に・・・それも私の家の近くにいるわけ!」
匂い。
「いや、私の家こっちの方だから」
何?コイツ。そんな近くに住んでいたわけ?
「とにかく、私は学校へ急ぐわ」
「一緒に行かないの?」
「なんで、アンタと一緒に行かないといけないのよ!」
「いけないとは言ってないよ」
「もう!」
腕時計に目をやる。
「もう一時間目、始まりそうじゃん!」
「錦さん?」
覗き込む。
「とにかく・・・私は急ぐので!」
そう言って、その場を立ち去った。




