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第1話 ゆりのはな

この物語はある痛みと視線から始まった。


「最初に観て、触れてくれたのはあなたでしょ?」


「そんなの・・・」


「痛い」


「そうかも」


・・・・・


突然だけど自己紹介させて!こほん。私の名前は錦桃にしきもも!ギターを嗜むこと以外は普通の!


 目。


そう、普通の女子高生よ!そんな私こと錦桃は今!窮地に立たされている!それが・・・


「付き合ってほしいのだけど」


 人から告白を受けているのだ!人から告白されるなんて。


 小さいな笑い。


これまで一度も経験してこなかったから。こういう時、どういう返事をするのが最適か分からない・・・それに・・・


「私こう見えてナイスバディよ」


 この人は私と同じく女性なのだ。


「ええっと・・・」


どう返事をしたら・・・


瞬き。


異性に対しても上手く返事ができるか分からないって言うのに。ましてや同性からの告白なんて・・・


「自己PRするね」


 はい?


「私の名前は・・・」


 真っ黒な瞳。


「佐藤野花でしょ?」


佐藤野花。整った顔立ちと優れた知性をもつこの女性はまさに才色兼備という言葉が似合う女性である。

この女性は男女ともに人気があり、告白された数もいざ知れず。そして、何よりこの女性が靡かせる黒髪は・・・


 髪に触れる。


 黒百合の香りで満ちている。


一体、この香りでどれだけ人を誘惑してきたのか・・・ホント臭くてしょうがない。


「認知してくれていたのね。とてもうれしいわ。」


知っているよ。誰よりも。だって、私は・・・


「私は錦さんのことが前から」


前から。


「好きだったから」


 嫌いだったから。


「で、さっきの話に戻るのだけど」


 返事は・・・


「私の自己PR」


 そっち?


「まず、私は学年で一番学力が高いです」


 それは知っている。


「そして、部活の面ではテニスで県大会優勝という・・・」


 それも知っている。


「ドッジボールも強い!」


 それは・・・知らない!


「どう?私ほど優良物件、そうはいないと思うけど?」


「いや、そうじゃなくて・・・」


「ああ、言い忘れていたわね。私のスリーサイズは上から・・・」


「そうじゃなくて!」


「ん?」


「なんか、こう・・・もっと、話すべきことがあるような・・・あ!」


「うん」


「私を好きになった理由!」


 理由?


「どこなの?」


理由くらいは聞いてやろう。彼女の美貌に免じて。


「分からない」


「はい?」


「だから、付き合うことでその理由が解明できると思うの!」


理解不能だわ。相手に・・・それも同性に告白するのだから、それ相応の答えを持ち合わせているというもの。なのに・・・

分からないですって!


「あの」


 身体に触れる。


「特典として私を好き放題する券あげるけど?」


もう、どこからツッコミを入れればいいのやら・・・


「ええーとー」


困惑する私を観て首を傾げる。


「ん?」


黒百合の花。


「あのですね、佐藤さんは」


「野花でいいよ」


「ええ、の」


「うんうん」


首に手を添える。


「佐藤さんは」


「んん!」


彼女の美貌は威圧する姿さえこんなにも美しく映すのか・・・ホント・・・


「百合という関係を望むということですか?」


 大っ嫌い。


「うーん?いまいち、百合という言葉に鈍感で」


敏感じゃなくて?


「言葉で一括りされる安っぽい関係になりたいわけではないの」


「どういうこと?」


 瞳。


「私を観てほしい!」


 今にも、身体ごと吸い込まれそうだ。


「それだけ?」


「それだけです」


彼女の思考回路を辿ろうとしても無意味なようだ。ここは、素直にいいよと返事をすれば・・・


「ねえ、お願い」


 私の視界に入り込む。


「いやです」


 彼女を否定したい。


「そう・・・」


そうしなければ・・・


「幸せ」


 私は私を保てない。


「今、なんて・・・」


「この痛みが」


 合いの手。


「痛み・・・」


 嘘・・・


「だから、観てもらえるように頑張る」


 そう言って彼女は背を見せる。同時に前方に右足を踏み出し、歩き出す。彼女の背が見えなくなるまで私は一切、動くことをしなかった。


「なんで・・・」


 いや、動けなかったんだ。


「私をゆりのはなにしてくれる人は多分、あなたしか・・・」


 振り返って、彼女が何か呟いた気がした。


 だから、急いで耳を塞いだ。



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