表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/23

第19話 あの音

「錦さんだよね」


「あ、ごめん。うるさかったかな?」


「いや、うるさかったんじゃなくて」


 息を飲む。


「その、次の授業音楽室だから」


 言葉が出ない。言葉がのどに突っかかる。


「錦さんはどうして・・・」


「音は何でも伝わる。何にでもなれるから」


 そうオレはあの時から縛られたまま。そして、今。


「最上百合」


「私が“あの音”の主。大将の娘である。あなたが代わりに殴ってくれた彼の音」


「そうか、あの時の男が」


 大将は瞬きをした。


「それで、お前なら“あの音”弾けると?」


「ええ」


「確かにそうかもな」


 大将は笑う。


「あれはギターが好きではない者が」


 きっと、その親父は。


「お前たちが怖かったんだろうな」


「善人が怖かった」


 だから、ギターに縋った。


「それでこそ、弾ける音」


 錦さんも。


「音楽なんてなくなればいい」


「そうですか?」


「音楽さえなければ」


 “あの音”さえなければ。


「音は何でも伝わる。何にでもなれる」


「そんなの詭弁だ」


「そうかもしれませんわね」


 目を見開く。


「けれど、その詭弁こそ音楽の本質ですわ」


 目を閉じる。


「よくあるでしょ?聴くとむずかゆくなるくらい小恥ずかしいラブソングとか」


「誰かを想って書いた歌詞とか」


「届いて!私の気持ち!なんて。本当にくだらなくて」


 息を吸う音。


「愛おしいものはないんですのよ」


 音に意味は必要。


「けれど」


 責任はない。


「あなたには届けたい人がいて、あなたはそれを音に変えられる。なら、アナタはもう」


 音。


「ギタリストですわ」


「オレがギタリスト?」


「ええ、そうですわ」


 でも。


「私が代わりに弾いてあげますわ」


 代わりだって?


「弾けないというのならば」


 髪をむしり取る。荒れた呼吸を落ち着かせる。


「伝えたい人がいる。話はそれからだ」


 桜が散る。


「今更、なによ」


 錦桃。


「錦さんはもう、ギターをやってはいけないの」


 佐藤野花。


「あなたが観るべきなのはギターではなくわた・・・」


 微量な音。


「私たちからCHERRYを送ります」


「この声は」


 野花は表情を曇らせて息を荒くした。


 二人は構わず弦を弾いた。


 音を伝えたい。その音に意味を乗せて。


 けれど、そこに。


「責任はない」


「あれ?」


「どうかされまして?」


 音は止まない。


「君が伝えたい人ってお父さん?」


「おーい、大将―!」


 無駄にうるさい男。


「お構いなく」


 頬が赤くなる。


 後の沈黙を破る。


「ああ」


「確かに」


「そう音とは誰か一人に向けるのもいい。けれど、色んな人に向けて込められた音も素敵だと思うから」


 揺れる瞳。


「私たちはこれまで色んな人に支えられて今、こうして音に触れられる。音を伝えられる」


「そうかもしれない。オレも」


 目を閉じる。


「色んな人に伝えたいことがたくさんある」


 目を開ける。


「多分、このCHERRYも私だけじゃない。お母さん、いろんな人への思いがこもった曲なんだ」


 想いを紡いだ音の集合体。


「それを私たちはギターによって想いたちを解き放つことができる」


 どんな想いであっても。


 野花。


「百合・・・あなたが私を特別であってほしいと願う理由。それは・・・」


 視線。


 笑みがこぼれる。


 邪魔。


「ただ、私は」


「あなたの視線を取り戻すまで」


 観る。


「あと少しだから」


 それ以外は何も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ