第17話 色
「終わった」
百合は呆然と立ち尽くすことしかできない。悪人の百合は何もしない。悪事を働くことが悪人の勤めのはずなのに。そんな矛盾を抱えても動くことができない。
「一人じゃ、何もできないのですから」
体を丸めその場に座り込む。ダンゴムシ。
「やっぱり、アイツまだ」
声がする方向を向いてみせる。
「よ」
やけに軽口だった。
「雄二くん」
糸井雄二がいた。
「どうして、あなたがここに」
顔を手のひらで覆い隠す。
「大将、アイツほんと何やってんだか」
大将。アイツー。
「大将!大将くんなら私がギターを」
「やっぱりそうか」
「ん?」
「アイツ、今、色んなもんと戦ってんだよ」
「色んなもん?」
「アイツ、あの音ってやつが忘れらんなくて、いつまでも」
「あの音って」
「そうあの音」
「アイツと同じ名を持つ男。いや、正確にはアイツが同じ名前をつけられたんだが。とにかく、アイツはあの音を鳴らす"大将"を追い求めて」
「お父さん」
「え?」
「その"大将"は私の父です」
「そうなんだ」
「だから、それを理由に私にギターを教えろ!」
一息つく。
「教えろ!ではなく教えてくださいませんか?とお聞きしたのですが」
悪巧み。
「そうだね。アイツはそれも必要だろうな」
「それもと言いますと?」
「言ったろ?アイツは色んなもんと戦ってる。アイツはあの音とも父親とも錦桃とそれと」
「自分ですわね」
「そういうこと。ただ、あの音を弾ければ解決ってもんじゃない。むしろ、そっからだな」
「なるほど」
軽く会釈する。
「どうするつもりだ?」
「彼が何をしたいのか分かりました」
雄二は目を見開いた。少し考えてから。
「そっか」
手を振った。
「アイツをよろしく!」
百合は首を横に振る。
「それは困ります」
「アイツがバカのくせに色々考えちゃうから」
「それはそうですわね」
雄二は少し視線を落とした。
「あの!」
雄二の視線が上がる。
「ぜひ聴きに来てください!」
また、会釈してみせた。 そして雄二もまた手を振った。
「絶対に」
両手を胸に近づける。
光が変わっていく。スッポトライト。私を照らして。そう願って両手を空へ掲げる。空はどんどん色が変わっていく。青から赤へ。そして、真っ黒。
「野花」
私もあなたもきっと。
「大丈夫。私は平気」
お母様。
「百合、これだけは忘れないで」
私は一人じゃない。
「あなたは私の子」
それだけ。落ち着いて息を吐く。
「ゆりのはなだけは」
頬を強く叩いた。
「大将」
返事はしない。
「大将!」
「何だよ!」
少し笑う。




