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第15話 弱さという魅力

「お前、ホント足遅いのな?」


「でも、雄二君は勉強できないだろ」


 人にとって不得意なものは嫌悪するべき対象物ではない。


「この競争で負けたら、勉強教えてくれよ」


 むしろ、人の手と手をつなぐたすきのような役割を担う。


「は!それ雄二君に有利じゃな・・・」


「よーい!ドン!」


 人の不得意・・・ここでは弱さと定義しよう。その弱さとは・・・


「泳げない人は1コースに行ってください」


「ぼくは水泳が嫌いだ。だって・・・」


「泳げねえもん」


「雄二君?」


「おう、久しぶり」


「久しぶりって・・・」


ぼくたち一応小学校からの付き合いで・・・まあ、高校から話す機会なくなってからは・・・


「てか、雄二君。足速いのに水泳はできないんだ」


「うっせえ」


 人は弱さを分かち合うことができる。その弱さを持つ人間きっと、どこかにいる。


 桃。


「でも、私にはそんな弱さがない。人に同情を与える弱さが。何もない」


 つなぐたすきが。


「錦はいつも通り平均点だな」


 私は特別、何かに秀でているわけでもなく。


「おまえ、泳げないんだ」


 ただ、たすきを眺めることしかできない。


「ああ、水かき切り25ってとこ」


 無力な観測者だ。


「私を観て」


「雄二君、足すごく速いね」


「誰か私を」


「お前こそ、オレの知らないことまで何でも知ってるじゃん」


 あの時まで私は誰にも観られなかった。 


「君のギターは特別なんだ」


 でも、今の私は誰かに必要とされている。


「だったら、それでいいじゃない」


 そうよ、それなら今、私は生きていいんだ。


 小さな音。


「何か、聴こえる」


 それに。


 歓声。音の中に混ざる歓声。


「何の音?」


 音の震源地へ向かう。


「こっち、みてー」


「何で、お前がそれを・・・」


 私が目にしたのは。


「アンタが・・・」


彼女はこちらに気づくと視線を送り、すぐに視線を逸らす。


「なんで、なんで」


彼女は手元のギターに視線を落とす。


「野花様ー」


過去の記憶が蘇る。


「ああ、またこれか」


「え?野花ちゃんってリコーダー吹けないの?」


「そうなの」


「へえ」


「ほら」


 音が詰まる。


「野花ちゃんにもできないところってあるんだね」


 視線。


「私ができることなんてそんなにないよー」


「この」


「あはははは」


 彼女の口角が少し上がる。


「でね・・・」


私を観ている。


「野花様―」


 あの時と同じだ。また、私はアイツに・・・


「君の“ギター”は特別だ」


 もし、私がアイツに勝てるとしたら・・・そんなの“ギター”しかない。


「1着は3組の佐藤野花―」


あの時は何もできなかった。


「学年順位また、1位だってね」


それは“ギター”がなかったから。


「受賞おめでとう、佐藤君」


でも、今は!


「ない」


 私はこの前、彼に言ったばかりじゃないか。


「私はギターを辞めます」


 そんな私が今・・・ギターを持っているわけがない。


 私は無力だ。ギターのない私は・・・


「それでも」


「君の音は・・・」


「きゃあー野花様―」


 足を動かす。


「ちょっと、あの人誰ヨ!」


 腕を振れ。


「野花様の邪魔しないで」


 野花の隣に立ち、指を弦にかける。


 小さな目。


もちろん、今はギターを持っていない。


「ジャーン!ジャン!」


 だから、口で音を鳴らしながら“エアギター”を決める!


「ちょっと、何なの?あの人・・・」


 実物はいらない。


「お前にだけは負けん。ギターでは負けん!」


 音さえあれば。


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