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第14話 特別

「君はオレに何を求める?」


「答えを欲しているのか!」


 手を合わせる。


「答え・・・・そうね」


 手を離す。


「そうかも」


「何だっていうんだ」


 他人に答えを求めるなんて・・・


「誰でもそうよ」


「誰でも?」


「それは特別な感情じゃない」


 特別・・・


「特別って・・・なんなの」


「知らない」


「だから、知りたい」


「それで、オレに何を求める?」


「答え以外で」


「それは」


 指を立てる。


「ギター」


「ギター?」


「ギターは特別な人の視線を奪った。だから、逆に普通の人がギターをやったらどうなるかしら?」


「普通の人が・・・」


「ギターは人を特別に変える」


 ギターが人を特別に変える。


 かつて、あの音に出会ったとき確かに感じた。その・・・答え?


「私は知るためにギターを弾きたい」


「知るため・・・」


「父を・・・お母様を・・・そして・・・野花を・・・特別を」


 呼吸。


「知るために」


「それが、ギターを弾く理由」


「うん」


「分かった」


「では」


「最上さんがどうして、ギターをやりたいのかは分かった」


 息を吐く。


「でも、オレはギターを弾いたことがないの」


「ご冗談を。小学校の時にあれほど、ギターがどうとかをバカでかい声でしゃべっていたではありませんか」


 覚えてたんかい。


「ギターは好きだけど俺、自身では弾かない」


「どうして?」


「弾くことが全てじゃないから」


「でも、あなた私に言いましたよね?」


「弾いた者にしか分からないと」


「それは・・・とにかく、オレは」


「でも、お詳しいのでしょう?」


「詳しいね」


「これは、命令ですわ」


「君の指図は受けない」


「大将」


「この名前に聴き覚えはありまして?」


「あなたと同じ名を持つ男」


 目が離れる。


「私の父がそうでした」


「それって、どういう・・・」


「どうですか?私になら弾けると思いません?“あの音を”」


 “あの音”


 かつてその男は名もなきギタリストでした。


「いいよ。君にギターを教えよう」


「よい判断ですわ」


「ただし!」


 会釈。


「1週間」


「以内に“あの音”を弾けなければ」


「おわり」


 目くばせ。


「そういうこと」


「じゃあ、少なくとも1週間はみっちり私にギターを教えてくれるってことですわね」


「まあ、そういうことか」


「よしですわ。これで・・・」


「君に聞きたいことがある」


「何ですの?」


「君はどうして、普段お嬢様口調で物事を喋るのか?」


 笑み。


「いや、君の家庭事情を聞くにあまり裕福ではないようだし」


 間。


「やっぱり、今の聞かなかったことに・・・」


「私はお母様のようになりたいと思っていましたわ」


 小さな目。


「心が綺麗でどこまでも上品で・・・」


「だからこそ、私も上品でありたいと思いましたの。心が汚い分、表面だけでも着飾りたい」


「そうか」


「そう思って、この口調にしたんですの。お母様はそんなことをしなくても上品な人であったからお母様のウケよりというわけではなく、自ら私が考案して実践いたしました」


 顎を親指で触る。


「それも私の醜さを紛らわそうとしていただけなのかもしれません。けれど!」


 胸に手を当てる。


「今はこんな私も悪くないんじゃないかって。そう思えるようになったんですの」


 百合の香り。


「私の武器は醜さと純粋さであると気づいた」


「そう・・・」


 君はそう思うのか・・・


「お話が長くてなってごめんなさいね」


「別に」


 彼女は外をみる。


「じゃあ、レッスンは明日からで」


「いいですわ」


 吐息。


「それでは、ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう」


 自分の醜さを受け入れるというのか・・・


「そんなのが」


オレの醜さは・・・ただ、他人を不幸にするだけだ。


「父さん、オレ・・・」


「お父さんは今日も帰り、遅いわよー」


「そう・・・」


 不幸にするだけさ。


 錦桃。


「“あの音”を弾く君は特別なんだ」


 今まで、私になど興味を抱くことすらなかったくせに。

ギターを弾くようになって、私は変わった。でも、同時に何かを失ったような気がする。ギターと引き換えに得たこの姿が果たして本当の私なのか?錦桃はギターがなければ存在してはいけないのか?


「そもそも、私は本当にギターを・・・愛しているのか?」


「お姉、今日も元気ないね」


「お兄なんかに言われなくても、分かってるし!余計なこと言うんじゃないわよ!お姉ちゃんには私から言っとくから!」


「はいはい」


 不規則なノック。


「お姉、私とゲームしよ」


「いきなり、どうしたの?カスミ」


「いいから。早押し問題。私はお姉ちゃんのことがー?」


「なに?」


「私はお姉ちゃんのことがー?」


「んー」


「す・・・」


「す?」


「うんうん」


「うーん」


「き」


「き?」


「1+1はー?」


「にー」


 大げさに笑う。


「私はお姉ちゃんの笑う姿が好きー」


「カスミ・・・」


「多分、いや、アイツも!お姉ちゃんの笑顔が好きだと・・・そう思うから・・・」


 そんなことは。


「分かっているよ。カスミ・・・ありがと」


「うん!じゃあ、お姉ちゃん!おやすみなさーい」


「うん、カスミもね」


 私の心は救われる。


「イヒヒ」


だが、この救いが私を苦しめるのだ。


 ギターを見つめる。


「私にギターを取ったら、何も残らない」


「あなたのギターに惹かれた」


「君のギターは“あの音”をかき鳴らす」


 私は・・・


「行ってきます」


「いってらっしゃい」」


 私の中では、答えが出せない。自分にはギターしかないから。だって、ギターなら私は特別になれるから。


「どうしたら」


ギターを弾いてこなかった時期の私は私ではないのか?

あの時、私を見つけてくれる者など誰1人いなかった。ギターという存在があの時の私を否定する。


「おはよう」


「おはよう」


「だから、誰にも観られず干渉されないことの方がつらいんじゃないかって」


 いじめられた方が幾分かマシ。


「肯定も否定もされない。必要とされない。そっちの方がよっぽど苦しい」


「でも、少なくとも今は」


「私を観てほしい」


 佐藤野花。


「そうか。私はただ、ギターが好きな人になりたかった。だってそれだけで、特別だもの」


「私にはギターしかない」


でも、私はなれなかった。ギターに縋る愚か者。


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