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第12話 ドッペルゲンガー

錦桃。


「佐藤野花はきっと、あなたのギターに惹かれた」


私にはギターしかないのか?


「君のギターに惹かれたんだ」


そんな、私で良いのか?


「私の夢は国内最高の女性ギタリストになること!」


いいや、私はそれを望んだはずだ。


「私は・・・」


 弦に触れる。


「ギタリストだ!」


 音。


「この音だけかき鳴らしてればいい!」


「君はあの音を弾くことができる」


 手が止まる。


「私の音は・・・」


「君の音はかつて、テレビで・・・」


「私だけのものじゃない・・・」


 私は特別なんかじゃなかった。分かっていたはずなのに・・・分かっていなかった。


 天井。


「あれ?お姉、どうしたんだろ?」


 いつもは聴こえるギターの音が・・・・


「私なんていなくてもいいじゃない」


今日は聴こえない・・・


「桃、朝ごはんできたわよ」


そうだ、世界に私の代わりはいる。


「お姉ちゃん」


 ギターさえあればって・・・


「お姉!」


「かすみ・・・」


「お姉ちゃん!一緒にご飯!」


 息を吐く。


「いただきます」


「でさ、うちのクラスの山田ってやつがさあ」


視線。


「行ってきます」


「いってらっしゃい」


 私は・・・


「お姉、今日一緒に学校行こ」


「アンタ、珍しいわね」


「妹はいつも私と一緒に学校へ行こうとするけど。アンタは私と時間被るの嫌だからって・・・」


「何かあった?」


 真っ直ぐ私を見つめる弟。


「別に・・・」


「そう・・・」


 いつもは私の顔もろくに見ないくせに・・・


「お姉は・・・」


 振り返る。


「お姉ちゃん!今日、一緒に学校行こ!」


「アンタ!通学路違うでしょ」


「いいの!」


 首を大きく振る。


「私は・・・」


「じゃあ、オレ先に行ってる」


「あ、うん」


「お兄はさっさと学校行って」


 弟は私に何を言おうとしていた・・・


「お姉は・・・」


きっと、慰めの言葉に違いない。私を憐れむ。


「お兄、私は嫌―い」


「あんた、よくケンカしてるもんね」


「だって、アイツひ弱なくせにあれこれ口出ししてくんだもん」


 弟は決して、口数の多い人間ではない。でも、気に入らないことがあれば、容赦なく口を出してくる。恐らく彼の美学に反することは家族でも嫌なのだろう。


「アイツは強い人間だよ」


「お姉ちゃん?」


 全く。


「何でもない」


 余計なお世話。


 鐘。


「桃さん、今日ギターは持ってきてないんだね」


「うん」


 美学とはその人の信念である。


「もう、いいんだ」


 もう、私に信念など存在しない。


「私が私であるためには・・・ギターに頼ってはいけなかった」


「錦さん、オレ・・・」


「私はギターを辞める決意ができました」


「え?」


「なので、もうあなたは私のことが好きではありません」


「だって・・・」


 沈黙。


「ギターを弾かない私にアナタは惹かれないでしょ?」


 言葉が出ない。


「それとも、ギターを弾かない私でも好きでいてくれるのかしら?」


 間。


「そうよね・・・」


「あなたが好きになった・・・」


 瞳。


「ドッペルゲンガーはもう死にました」


 これで、佐藤野花も私から身を引くことだろう。


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