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第11話 本心

それから。


「明日、錦さんをデートに誘え」


「デート?」


「ああ、恋人のフリなんだからそれくらいするだろ」


「でも、どんなデートをすれば・・・」


「一緒にライブ行くってのいうのも、面白そうだなー」


 目線


「って思ってたんでけど」


「すまん」


「まあ、無難に映画でも観て来いよ。


「映画・・・」


「最近だと・・・そう!」


「ドラえもん!」


「バットマン!」


「ドラえもん?」


「バットマン?」


「お前、誰がデートでバットマン観るんだよ」


「は?お前、バットマンの凄みをよく理解していないようだな。バットマンとは元々・・・」


「無難にドラえもんっしょ」


「ドラえもんは無難ではない」


「じゃあ、何が無難なんだよ」


 上を向く。


「バット・・・」


「以外」


 間。


「・・・・じゃあ」


 当日。


「きっとくる~きっとくる~」


 きゃあー!


「どうして、ホラー映画なんだよ!」


 前。


「ホラー映画の醍醐味は・・・」


「きゃあああ」


「あああああ」


「きゃあーと怖がるところをお前が」


「大丈夫!と優しく包み込む姿を見れば!」


 あいつ、完全に楽しんでやがる。


「ポップコーンはいかがですかー」


「今日はチケットのシネマズデイが・・・」


 横。


「私、ホラー映画大好きなんだよね」


「そ、そうなんだ」


 よし!まさか、錦さんがホラー好きなんて。


 笑う。


「こんな偶然あるか・・・」


「大将君?」


 まもなく、上映開始時10分前でーす。


 雄二・・・


「グッジョブ!」


 小さく笑う。


「行こ!大将くん!」


「う、うん」


 まあ、まんざらでもないし良いか・・・


上映中。


「ぎゃあああああああ!」


「ちょっと、大丈夫?大将くん」


「うん・・・へい・・・ぎゃあああ」


 終わったあ・・・


「あー面白かったー」


 無音。


「大将君、大丈夫?すごい泣いてるけど・・・」


 しまった。


「その・・・これは・・・」


「もしかして、感動したの!」


「え?」


「泣けるよねー。実はこの映画ってね・・・」


「怖かった」


 覗き込む。


「あれだけ、叫んでたもんね」


 これじゃ、オレはいいとこなし。


「あのシーンは・・・」


せめて、オレの気持ちを・・・


「ねえ」


 目を合わせる。

 

「どうして、私が偽彼氏を大将くんって言ったか分かる?」


「え?」


「それはとっさに答えただけじゃ」


「大将くんが私のことを好きだからよ」


「え、ええ」


「隠さなくてもいいよ」


 震える声。


「全部分かってるから」


「どうして」


「どうして、わかったの?」


「分かっちゃうよ」


 でも、どうして。


「ねえ、私のどういうところが好きなの?」


 首を30度曲げる。


「その理由次第で本気で大将くんと付き合ってみてもいいかなって思うんだけど」


 彼女を好きな理由?


「それは・・・」


 指を立てる。


「三分だけ時間をあげる。その時間で答えを出してみて」


 三分・・・


「ちょっと、トイレに行ってくる!」


「行ってらっしゃい」


 手を振る。


 まずい、まずい、マズイ!


「おい、聞こえるか!雄二!」


「くかー。ゴロゴロ」


雄二のやつこの非常時に昼寝こいてやがる。


「応答せよ!糸井雄二!応答せよ!」


 か細いいびき。


「佐藤野花のことが大好きな糸井雄二!」


 落ちる。


「おい!お前!それは言わないお約束だ・・・」


「お前は佐藤百合のどういうところが好きなんだ!」


 突然・・・


「どういうところも何も・・・」


「うんうん」


「まあ、美人なところ・・・っていうか・・・」


「OK―!分かった、参考にする!」


「馬鹿!お前、どうする気だ!」


「彼女に美人だから好きですと伝えるんだ」


「は?何で?」


「今、彼女から私のどこが好きか?と問われている」


「それでそれで?」


「美人だからという」


「ガクッ」


「それはお前の答えじゃないだろ」


「そうだけど・・・」


「お前が錦桃を好きになった理由は何だ!」


 オレが・・・錦さんを好きな理由?


「分からない」


 オレは一体、彼女のどこに惹かれたのだろうか?


「お前自身が答えを出さなければ意味がない」


「俺、自身の答え?」


「ああ、それなら悔いなく終われるだろ」


「付き合えない前提かよ」


「今のところはな?」


「行ってくる」


「おう」


 そして・・・


「錦さん、答えを出したよ!」


「聞くよ」


 息を整える。


「オレは錦さんの・・・」


 鼓動。


「錦さんの」


 息を吐く。


「錦さんの・・・」


 ノイズ。


「なとこが好きです!」


「ごめん、大事なとこ聞こえなかった」


「こほん、ええ。じゃあ、もう一度」


「オレは錦さんの・・・」


 鼓動。


「錦さんの・・・」


 騒音。


 どうやら、神はオレを拒むらしい。


 指を差す。


「場所、変えましょうか」


 だが、天使はオレの味方だ。


「それで、私のどこが好きなの?」


「オレは錦さんの・・・」


「ギターが好きなんだ!」


 オレはある音を追いかけている。


「君のギターは・・・」


その音は幼いころに一度だけ耳にした。


「あの音を弾く君は特別なんだ」


 かつて、その音を奏でたギタリストを・・・オレは探していた。


「錦さんだけじゃない。いろんなギタリストの音を聴いてきた」


それは、決して運命などではない。それは、まさしく偶然の産物なのだがオレにとっては必然だったように思う。根拠はない。いわゆる、肌感というやつがオレをそう言い聞かせる。


「でも、誰1人いなかった」


その音を言葉で表せないオレはすぐギターを手に・・・・・


「多分、誰にでも出せる音じゃないんだ」


取ることができなかった・・・


「ギタリストは誰しもが特別なわけじゃない」


「このギタリストは本当にいい音を奏でるなあ」


オレはその音に感動した。だが、それはオレの感情ではなかった。


「ほれ、このギタリストはお前さんと同じダイスケという名前にしたんだ」


オレの好きになったギタリストはオレよりも遥か先に親父が好きになっていた。

だから、オレが抱いたこの摩訶不思議な感情はオレだけが抱く特別なものではない。昔の親父が抱いたものと一緒なんだ。


「なんだよ、それ・・・」


オレはそれが嫌だった。オレだけが抱く感情であってほしかった。だから、オレはギターを弾かない。それも1つ。


「でも、君はその音を弾いていたんだ」


「私が?」


「その音を弾ける君は特別なんだ」


 だから、オレは・・・


「私のギターに惹かれたと?」


「うん」


「そっか」


 オレの嘘偽りのない告白。


「あなたもそうなのね・・・」


 後頭部をおさえる。


「錦さん?」


「残念だけど、私はあなたとは付き合えない」


「え・・・」


「あなたにはいくらか借りがあるのでいずれは返すけど」


「今は返せそうにないようね」


 息を必死に整える。


「ごめんね」


 こうして、オレのひと夏の恋が終わる。


「で、お前諦める気?」


「うん」


「どうして?」


「どうしても何も・・・」


「お前・・・」


「本当は錦さんのこと大して好きじゃないんじゃ」


「違う」


 拳を強く握る。


「オレは錦さんが好きなんだ」


「でも、お前言ったよな?錦さんの“ギター”が好きだと」


「それは・・・」


「お前は錦さんの“ギター”に惹かれたのであって、錦さん自身に惹かれたけじゃ・・・」


「オレは!」


 壁を叩く。


「オレは・・・」


「錦桃は・・・・」


間。


「恐らく“ギター”を愛してはいない」


「それって、どういう?」


「オレの勝手な憶測だ」


「憶測でものを言うとは」


「だが、人間はそう完璧ではない」


 そうかもしれない。


「彼女はきっと、誰も愛することができない」


「自分さえも」


 目を閉じる。


「お前はどうだ?」


「私は知りたいのです。ギターとは特別な人間をも捨てられるほど価値のあるものなのか?」


「特別な人間をも変えてしまうものなのか?」


「自分を愛すことができない人間に誰かを愛すなんて・・・」


 瞬き。


「できやしない」


 オレは彼女に何を求めている?


「オレはただ、あの音が聴きたいだけなのか?」


「それが分からない以上、今は何もできまい」


「雄二、お前はどうして分かるんだよ」


「なんで、そんなに上からものを言う」


「何で!お前は何でもよく知っている!」


「オレは・・・」


 目を逸らす。


 目線の先に捉えたのは。


「恋愛経験豊富だからな・・・」


 真ん中が黄色い。


「雄二、それって・・・」


 白い花。


「深い意味はないさ」


 百合の花だ。


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