番外編・大切な護衛騎士の話①(フィオナ姫視点)
フィオナが初めてセシリアを見たのは、十歳の頃、王宮主催の剣術大会でのことだった。
観覧席から見下ろす闘技場のその中央で、一人の少女が剣を振るっていた。
十六歳の伯爵令嬢。女性でありながらその洗練された強さは並の男では全く歯が立たないと、その噂を耳にしたことは一度や二度ではなかった。
けれど、実際にフィオナ自身がセシリアをその目で見たのはその時が初めてだった。
その姿は、思わず目が奪われてしまうほどに、完成されたものだった。
しなやかに、無駄なく動く剣。相手の動きを読み、流れるように間合いを制し、気づけば相手は地に伏している。
素早い判断で繰り出される巧みな剣捌き、そして何より、その瞳に宿る鋭さに、フィオナは思わず息を呑んだ。
(……すごい)
気がつけば、目が離せなくなっていた。
本来、王族は試合を公平に見なければならない。
そう教えられてきたし、理解もしている。
けれどそれは出来なかった。
どの試合も、どの対戦相手も関係なく、フィオナの視線は自然と彼女を追ってしまった。
決勝に進む頃には、もはや隠すことすら諦めていた。
そして、その年の優勝者はやはり、セシリアだった。
歓声が上がる中、静かに剣を収めるその姿は、凛として、息を呑むほど美しかった。
「……あの、お父様」
試合が終わった後、フィオナは思い切って口を開いた。
「セシリア・ヴァルモンドを……王宮にお呼びしてもよろしいでしょうか」
隣に座る王は、わずかに目を細める。
「ほう。気に入ったのか?」
「……はい」
短く、だがはっきりと答えた。
すると、その横から楽しげな声が割って入る。
「気に入ったどころじゃないだろ」
王太子である兄、レオナルドだった。
くすくす笑いながら、肩をすくめる。
「フィオナは試合中ずっと彼女のことばかり見ていたからなぁ」
「……っ、お兄様!」
思わず頬が熱くなる。
否定しようとしたが、事実なので出来なかった。
そんなフィオナの様子に、レオナルドは面白そうに笑い、王もまた、珍しく必死になっているフィオナの様子に、ふっと微笑んで言った。
「よかろう。呼んでみるといい」
*
その数日後、フィオナはセシリアを王宮へと招いた。
謁見の間に現れた彼女は、迷いのない足取りで進み出ると、静かに膝をつく。
「セシリア・ヴァルモンドにございます。お召しにより、参上いたしました」
その声音も所作も、完璧だった。
最敬礼の姿勢をとった時の所作の美しさに、思わず息を呑む。
(……綺麗)
それに、ただ美しいだけではない。
芯の通った揺るがない強さが、その姿にはあった。
「顔を上げなさい、セシリア」
フィオナがそう声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
その時セシリアが、ほんの一瞬だけ、どこか懐かしいものを見るような、そんな表情を浮かべた。
(……今のは)
問いかけるよりも早く、その表情は消える。
代わりに浮かんだのは、柔らかな微笑みだった。
凛とした優しいその笑みに、胸がふわりと温かくなる。
(…… この人に、そばにいてほしい)
理由なんて分からない。
けれど、その瞬間、フィオナは強くそう思った。
こうしてセシリアは、フィオナの専属護衛となったのだった。




