三十三話 終焉の先に②
エドガーの唇が、セシリアの涙を拭う様に、目尻に優しく触れた。
くすぐるような軽い口づけが、頬へ、そして鼻先へと、ゆっくりと移っていく。
くすぐったさに、セシリアはわずかに顔を揺らした。
そのまま視線を上げると、すぐ近くで蕩けるように熱を帯びた瞳と、真っ直ぐにぶつかる。
息が、かすかに絡む。
次の瞬間、そっと唇が重ねられた。
最初は触れるだけの、確かめるような優しい口づけ。
互いの存在を確かめ合うように、何度も、何度も唇を重ねる。
最初は触れ合うだけだったその熱は、次第に深く、濃いものへと変わっていく。
唇が触れ合うたびに、胸の奥がじわりと満たされていく。
やがて、名残を惜しむようにゆっくりと唇が離れた時、二人の間には、甘く静かな余韻が漂っていた。
その全てが愛おしくて、セシリアはやっと、心から微笑むことが出来た。
そんなセシリアを幸せそうに見つめながら、エドガーが静かに問いかける。
「……これで、お前の成すべきことは、全て終わったのか?」
その問いに、セシリアは小さく頷いた。
「はい……全て、終わりました」
長い長い時間をかけて、背負ってきたもの。
その全てに、ようやく終止符を打ったのだ。
するとエドガーは、和いだ表情で静かに呟いた。
「……そうか」
そして、コホン、とひとつ咳払いをした。
「……では、成すべきことが全てなくなったのなら」
少しだけ言葉を区切り、言う。
「お前はこの先、どうするんだ?」
問われたセシリアは、一瞬きょとんとしたように、目を瞬かせた。
文字通り、決死の覚悟でただこの時の為だけに生きてきた為、終えた後にどうするかは、全く何も考えていなかったのだ。
「どうしましょう……?もうやるべきことは終わりましたし」
セシリアがそう言うと、エドガーは少し寂しげに眉尻を落とした。
そして、考えるそぶりをした後、セシリアの方にしっかりと向き直り、真面目な顔で言った。
「では、これからは、私の成すべき事に付き合ってくれないか?」
セシリアもまた、真面目な顔で問い返す。
「……それは、なんですか?」
彼の成そうとしていることならば、例えどんなに困難なことであったとしても、力になりたいと思った。
エドガーはそんなセシリアの目をしっかりと見据えて、迷いなく答えた。
「お前と結婚して、共に一生を幸せに生きることだ」
そう言った後、エドガーは懇願する様な声で続ける。
「なあ、セシリア。いい加減、お前の人生に私を入れてくれないか。……もう私は、お前を守ることすら許されず、ただ見ているだけなんて、耐えられないんだ」
その言葉に、セシリアは一瞬、時間が止まったように感じた。
胸の奥からじんわりと温かさが広がっていく。
それはこれまで感じたどんな感情よりも、穏やかで満たされたものだった。
セシリアは、ふわりと微笑んだ。
「それは……これからの、私の望みでもありますね……」
そして、ゆっくりと頷いた。
「喜んで。エドガー様。……ですが、私だって守られるだけはごめんです。私にも、守らせてくださいね」
その言葉に、エドガーの表情が、これ以上ないほど柔らかくほどけた。
「我が妻は、本当に頼もしいな」
エドガーが誇らしげにそう言った後、再び、二人の唇が重なった。
*
すべてが終わり、そして、すべてがここから始まる。
長い因縁も、憎しみも、後悔も、その全てを越えて、ようやく辿り着いた、たった一つの答え。
共に、幸せに生きる。
その約束だけが、これからの未来を照らしていた。
絡めた指先の温もりが、確かにそこにある。
もう二度と離さないと、そう誓う。
新しい門出を祝福するかのように、静かな風が優しく吹き抜ける。
二人は、その中でそっと寄り添いながら新しい未来へと、歩き出した。
見つけてくださり、お読みいただき、誠にありがとうございます!
本編は、これにて完結です。ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました!
ここまで書けたのは、読んでくださる皆様のおかげです。本当に励みになっております。ありがとうございます!
次のエピソードからは、番外編を投稿していきます。
引き続きお楽しみいただけますと、嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。
陽ノ下 咲




