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今世では恋を諦めた伯爵令嬢ですが、前世の夫が今世で執着してきます  作者: 陽ノ下 咲


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第二十七話 デートに誘われて③

 そして二人で歩き、少し進んだ先に、小さな東屋があった。


 白い柱に支えられた簡素な造りのそれは、周囲の花々に溶け込むように佇んでいる。

 中には、あらかじめ用意されていた茶器一式が整えられていた。


(……準備してくれていたのね。ほんとに用意周到な人)


 セシリアは内心で小さく苦笑しながら、そっと卓上に目を落とした。

 そこに置かれていた茶葉を見て、ふと息を呑む。


「これ……」


 指先で、そっと触れる。

 それは、以前王宮の庭園を歩いた時、セシリアが好みだと話したことのある、ルミナリア王国特有の茶葉だった。

 ほんのりと渋みがありながら、後味はすっきりとした、香り高いお茶だ。

 

 優しい心遣いに、胸の奥がじんわりと温かくなった。


「ありがとうございます。覚えていてくださったのですね」


 心からの感謝の言葉に、エドガーがわずかに目を細めた。


「ああ。あなたのことだからな」


 当然のように返されたその言葉に、胸が静かに揺れた。

 エドガーは茶器に手を伸ばし、その動きがふと止まる。

 珍しく、迷うような仕草だった。


「どうかなさいましたか?」


 問いかけると、彼は少しだけ気まずそうに視線を逸らし、それから小さく息を吐いた。


「……すまない」

「え?」

「恥ずかしい話だが……、これまで、自分で茶を淹れたことがなくてな」


 わずかに頬を染めながら、そう続ける。


「淹れ方が、分からない」


 その姿に、思わずセシリアはくすりと笑った。

 なんでも器用にこなす彼のその意外な姿が可愛くて、愛おしく感じた。


「お任せください」


 柔らかく微笑みながら、そう言う。


「実はこれでも、お茶を淹れるのは得意なんです」


 そうして、手際よく準備を始める。

 湯を注ぎ、茶葉を蒸らし、香りを確かめる。

 その一つ一つの動作は、自然と身体に馴染んでいた。

 かつてカトリーナだった頃淹れた様に、丁寧にお茶を淹れる。

 やがて、二つのカップに琥珀色の液体が満たされ、ふわりと優しい香りが香った。


「どうぞ」


 差し出すと、エドガーはそれを受け取り、そっと口をつけた。

 わずかな沈黙の後、


「……美味いな」


 静かに、そう呟いた。


 その一言に、胸の奥で、何かが弾けた。

 音も、景色も、すべてが遠のいていく中で、ただその声音だけが、鮮明に耳に残った。


 どこか柔らかく、優しく包み込むような響き。

 それは、胸の中に居るあの人と、まったく同じもので。

 

 同じようにお茶を口にして、微かに目を細め、美味いと言ってくれたあの時と、寸分違わず重なった。


 その時、セシリアは全てを理解した。

 これまで彼を見て感じてきた違和感の訳も、彼がどうしてあれほどまでに自分を求め続けていたのかも、全て。


 そして、それが分かった途端、胸の奥が、ぎゅうっと強く締め付けられた。

 苦しくて、でも、どうしようもなく嬉しくて、気がつけば、涙が一筋、頬を伝っていた。


「……セシリア?」


 エドガーの戸惑う声が聞こえる。

 それでも、もう止められなかった。

 とめどなく溢れてくるこの感情を押さえることなど、出来るはずもなかった。


「あなたは」


 震える声で、言った。


「……アレクサンダー様……なのですね」




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