第二十二話 晩餐会の夜に②
そうして、フィオナとセシリアは連れ立って会場へと向かった。
懇親会の会場は、すでに多くの人で賑わっていた。
華やかなドレスに身を包んだ貴族たち。
色とりどりの装いの中で、自分の姿が、ひどく目立っているのが分かる。
(……視線が痛い……)
ひそひそと交わされる声。
「あれ、セシリア様よね……?」
「いつもの騎士服じゃないわ……」
いつもの自分を知る者ほど、驚いている。
騎士服の時に周りから向けられる視線とはまるで違った、好奇や興味の視線に戸惑う。
それらが、じわじわと居心地の悪さを生んでいく。
(……落ち着かないわ)
思わず目線を伏せかけた、その時。
「大丈夫よ、セシリア」
フィオナが、そっと微笑んだ。
「とても似合ってるわ」
優しい声音に、はっとした。
そして、背筋を伸ばし顔を上げる。
(しっかりしなければ)
そう思った、その時だった。
「やあ、フィオナ、セシリア」
聞き慣れた、穏やかな声がしてそちらを振り返ると、そこにはレオナルド殿下と、その隣に立つエドガーの姿があった。
その姿を認めた瞬間、セシリアはドレスの裾を摘み、深く腰を折って最上の礼を取った。
レオナルドはそんなセシリアの姿を見て、軽く目を細める。
「前にも思ったが、セシリアはドレスだと雰囲気が随分と変わるな」
楽しげな声音でそう言った。
「……なるほど、これは確かに……」
意味深に笑い、そして、ちらりと隣を見る。
「お前がここまで分かりやすくするとは……。本当に面白いな」
「……何のことでしょうか」
エドガーが淡々と返すと、それに対し、レオナルドは楽しそうに笑った。
「とぼけるなよ、エドガー。まさかお前が、ドレスの色でまで、周りを牽制するとはな」
「それが何か?セシリアに変な虫を付ける訳にはいきませんから」
さも当然といった風に返すエドガーに、レオナルドは面白そうな顔をして、肩をすくめた。
「いや……しかし本当に珍しいものを見せてもらっている」
ちらりとセシリアを見る。
「普段はあれだけ隙のない男がな。ここまで露骨だと、いっそ清々しい」
「殿下」
エドガーがわずかに、怒ったような低い声でレオナルドを静止した。
けれどレオナルドは気にした様子もなく続ける。
「いいじゃないか。これでも応援してやってるんだ」
にやり、と悪戯っぽく笑った。
「……なあ、セシリア。こいつ、なかなか面白いだろう?」
「……はあ」
そう言われてもセシリアは返答に困ってしまい、曖昧に相槌を打って誤魔化した。
そして、ちらりとその隣へ視線を移す。
次の瞬間、熱を帯びた深い紫の瞳とまっすぐにかち合い、胸が、どくりと大きく鳴った。
その時、エドガーがふわりと微笑み、ゆっくりとセシリアとの距離を詰めた。
「……綺麗だ」
低く、落ち着いた声で囁かれる。
熱を帯びた瞳で、うっとりとしたように見つめられ、セシリアの頬が一気に熱を持った。
(……なに、これ)
そしてその時セシリアは、ふと、自分がこの状況を、全く嫌だと感じていない事に、気づいてしまった。
(どうして……)
戸惑いながらも、胸の奥が静かに揺れる。
そんな彼女に向かって、エドガーは、そっと手を差し出した。
「セシリア、私と踊っていただけませんか」




