第二十一話 晩餐会の夜に①
はるか以前より、ルミナリア王国では、属国の王族や有力貴族が一堂に会する宮廷晩餐会が行われている。
華やかな装飾に彩られた大広間で、各国の王族や使節が集い、政治と社交が交錯するこの場は、国の威信を示す場でもある。
前世、カトリーナだった頃、死の数日前に一度だけ王妃として参加したことのある晩餐会。
そして今年、初めてこの晩餐会に臨むフィオナ王女の護衛として控えるべく、セシリアは騎士服に身を包んでいた。
これまで、国の催しやお茶会では常に彼女の護衛として、その少し後ろに控えてきている。
本来であれば、今回もまた、いつもと同じように仕える……、はずだった。
*
支度を終え王城に着いたセシリアは、普段通りに王女の部屋を訪れ、扉を叩いた。
「失礼いたします、フィオナ様」
中へ入ると、優雅に紅茶を口にしていたフィオナが、にっこりと微笑んだ。
その優雅な微笑みに、何やら悪寒が走った。
(……嫌な予感がする)
「セシリア、突然だけど、今日は私の護衛はしなくていいわ。それよりも優先することがあるのよ」
「……は?」
あまりにも唐突な言葉に、間の抜けた声が漏れる。
セシリアの理解が追いつく前に、
「セシリア様、失礼いたします」
「え、は!?ちょっ……!」
控えていたメイドたちが一斉に動いた。
左右から腕を取られ、そのまま半ば強引に引きずられていく。
「フィオナ様!なぜですか!?」
「いいからいいから」
ひらひらと手を振る王女の姿が、どんどん遠ざかっていく。
(……またこれ!?)
抗議の声も虚しく、セシリアはそのまま衣装部屋へと連行された。
以前のお茶会の時と、全く同じ流れだ。
そして、前回と同じく、……いや、以前にも増して手際がいい。
フィオナ付きのメイドたちは、ただの侍女ではない。
動きに無駄がなく、連携も完璧だ。
セシリアが本気で振り払おうと思えば不可能ではないとは思うが、それにしたって、どう考えても並の実力者では無い。
(この人達、絶対、相当な手練れよね……)
内心で妙な感心をしている間にも、作業は進んでいく。
騎士服を手際よく脱がされ、柔らかな布地のドレスが身体に沿う。肌に触れる感触は軽く、仕立ての良さが一瞬で分かる。
鏡の前に座らされ、髪を丁寧に編み込まれ、指先が流れるように動き、瞬く間に整えられていく。
化粧も施され、耳飾り、首飾りといった装飾品が次々と付けられていく。
その一連の流れは、もはや芸術だった。
(……もう、何も言う気すら起きないわ)
抵抗する気力すら削がれ、ただ流されるままに任せるしかなかった。
「……完成でございます」
その一言で、鏡の前に立たされる。
「……は」
そこに映る自分の姿を見て、セシリアは言葉を失った。
薄紫を基調とした、ふわりと裾の広がる愛らしいドレス。
軽やかに重ねられた生地がやわらかな空気をまとい、どこか澄んだ印象を与える色合いが、しなやかに引き締まった身体の線と金の髪を美しく引き立てている。
そして、靴や首飾り、耳飾り、髪飾りに至るまで、深い紫の宝石で統一され、淡いドレスとは対照的に、凛とした気品を添えていた。
淡さと深さ、その異なる紫が重なり合い、全身を美しく彩っている。
そう、それはまるで。
(……あの人の、瞳の色)
思わず、脳裏に浮かんだ顔に、思わずため息が漏れた。
そして外に出ると、待っていたフィオナがその姿を見て、目を大きく見開いた。
「とても似合っているけど、……凄い執着も感じるわね……」
半ば呆れたように笑う。
「もう分かってると思うけど、そのドレス、エドガーからあなたへの贈り物だから」
「……やはり、そうでしたか」
大方予想は着いていた。
けれど予想していたとは言え、はっきり言われると、どうにも複雑な気持ちになる。
あの紫の瞳を思い出し、セシリアは思わず遠い目になった。
そんな様子を見て、フィオナがくすりと笑う。
「あなたに直接贈るより、こっちの方が確実だと思ったんでしょうね」
そして、とても楽しそうに続けた。
「それじゃ、行くわよ」




