16、鶏小屋の少女
十年過ごした隙間だらけの家とは今夜でお別れだ。
求婚された相手が三十歳だと聞いて、私は絶句した。だって私の二倍も生きてるのだ。想像ができない。でも家柄や人柄、容姿がわかって、みんなに称賛されて、叔父が承諾した。
「……何とかなるわよ」
そう言ってみた。
人生の岐路とやらに立って思い出すのは亡き母でも、世話焼きの叔母でも、手先の器用な叔父でも、クソッタレな親父でもなく、ある少年のことだ。
叔父の世話をしながらギターを習い、叔母にあれはいい男になるね、と言われた少年。
確かに彼は小さな紳士だった。
月夜の晩、玄関の前の小さな階段ですら、私に手を差し出すのだ。そのとき、はじめて恋文をもらった。地面に書かれていたから、すぐに消えてしまったけれど、糞親父を許すママの気持ちが少しはわかった。
よく仕事を手伝い、遠慮がちに食べ、私の歌を飽きることなく聞き、下手くそなギターを合わそうとしてくれた。夜中、こっそり練習するから、私も歌って、さすがに叔母さんに怒られた。
最後の日、小さくて硬い手を握って、そこにキスを落とした。それは本当に自然に。行かないでと言わないために。
——僕を待ってて。
はじめて聞く彼の声はとても可愛いらしくて、それがたまらなく愛しくて、笑ってしまった。蜂に刺されて腫れた顔が赤くなって、すぐに走り去ってしまって……。あの背に頷いた顎は、明日砕かれても仕方ない。
来るなら、もう今夜しかないわよ。
そう夢物語を終焉して、瞼を閉じる。
しかしすぐに窓板がガタガタと鳴った。




