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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第二十三話:希望の剣、スぺイ・b

突然海へと身を投げたユウ。それを遠くで見ている人物が居た。彼女の名はフェリチタ―ティス、盲目で盲目的な狙撃手。

果ての果実をめぐる一夜の争奪戦が今始まる。

 可笑しい。

 メーディスの町で一人の狙撃手、フェリチタ―ティスは広場を見渡す狭い部屋で言葉を漏らした。

 広場に隠れていた敵が突然居なくなったのだ。

 少し前までは広場に居た。しかしそれは急に飛び出したと思うと、海に落ちて行ったのだ。打ち抜いたからではない。対象は自ら進んで飛び降りたのだ。

 一撃は当たった。敵は負傷している。いや、もし負傷していなくても冷たい海に飛び込めば最悪死にかねない。

 

「……一先ず、確認しないと。でも、ここで見張ってろって……」


 フェニチタ―ティスは迷った。

 敵は死んだのか?

 どちらかと言えば死んだと思っていた。しかし確認しなければ確かとは言えない。

 確認しに行きたい。もしスぺイや仲間たちに聞かれた際、答えられなくなってしまう。

 けれど仲間にはここに居ろと言われていた。ここで敵を狙撃しろと。

 どうしようか迷う。だがその迷いを認識した時、真っ先にすべきことが彼女にはあった。

 

「――スぺイ。待ってて、すぐ行くから」


 彼女には最も信頼する姉であり友である人が居た。彼女に聞こう、そうすれば間違いないはずだ。

 これまでもそうだった。平穏に暮らす道が在ったにも関わらず、戦う決意をしたことも、銃を取り誰かの命を奪うことも、何だって。スぺイは正しさと安心のすべての規範だった。




 スぺイはメーディスの町の船着き場に来ていた。ここのどこかに果ての果実がある。スぺイの能力によって、それは確かだった。

 スぺイの持つ心の剣、剣と言ってもその形は水晶玉のような半透明の球体で、その能力は水晶玉を通して人の言葉から情報を抜き出す能力だ。

 抜き出す情報に対象の本人が知っているかどうかは問わない。しかしその代わりに狙った情報を得るには回数を重ねる必要がある。


「さて、この中か……」 


 船着き場の傍にある品物を一時的に置いておくための倉庫を見つけた。

 カギがかかっているが、窓を割って中に入った。

 十分に注意して辺りを見渡す。見張りはいないようだった。中もただの倉庫と変わらない、木箱がたくさん並んでいる。


「……ここだ、ここだ。さっき物音が……」


「本当かー、こんな夜遅くに」

 

 突然にスぺイの居る倉庫の扉が開かれた。

 侵入した際の物音を聞きつけたのだろうか。スぺイは咄嗟に木箱の影に身を隠した。

 スぺイの能力そのものは殺傷能力は皆無と言ってもいい。本人もどちらかと言うと華奢で戦闘能力は無いのだ。

 そのため敵と遭遇しないよう注意が必要だった。


{……不味いな、確認したつもりだったのに}


「誰だ!」


 隠れていたがやり過ごすことはできそうになかった。諦めてスぺイは隠れるのは止めて、木箱の影から姿を現した。

 若い男が二人、魔素ライトの明かりを持って立っていた。


「すいませんね、すぐ出て行きますよ」


 スぺイは何食わぬ顔で倉庫から抜け出そうとする。こういう場合言い逃れは無意味だ。そしてもちろん抵抗も無意味だ。

 しかし、二人の男はそれを許すことは無かった。出入り口に二人並んで、スぺイを通さんと立ちふさがった。


「――何か?」


「何か?……じゃないだろう?こんな夜遅くに勝手に倉庫に入って」


 二人の内の一人が上ずった声でそんなことを言う。

 その様子を見てスぺイには何が言いたいのかということはあらかた分かった。

 暗い倉庫には三人以外誰も居ない。そして何よりスぺイには不法に立ち入ったという弱みもある。


「はぁ、ああ、そうだ。まず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「そうですか……ならどうぞ」


「何甘えたこと言ってやがんだ。自分で、す、するんだよ。脱げよ、全部」


 二人の男が怒鳴るような声で、スぺイに促す。

 スぺイには特別な力があっても抵抗する力は無い。言われる通りするしかない。

 

「ヒュー、良いね――ん?」


 スぺイがゆっくりと服を脱ぐ。二人の男は前のめりになりながら、それに見入っている。

 だが、その服の下に隠された肢体は想像されたどんな姿よりも痛ましく、目をそむけたくなるものだった。

 スぺイの体には夥しい数の傷跡が刻まれている。


「――お、おい。お前イケるか?」


「無理に決まってんだろ、あれは」


「だよな気持ち悪い――……あー、えっと。お前もう良いから。さっさと服着て帰ったら」


 二人が下世話な話をしている。

 もうこのことは忘れようというのが二人の暗黙の了解だった。

 こんなこと見なかったことにしよう。そういう意識が二人の注意力を落としていたのだ。

 だから、当然その背後からの攻撃を避けることも、気が付くことさえもできなかった。

 閑静な倉庫街に二発の銃声が響く。それと共に死体が二つ転がる。


「スぺイ。この人たち撃っても良かったよね?」


 一瞬で二人の男の頭に風穴を開け、狭い倉庫に血だまりを作りながらその上で小さな狙撃手はそこに居た。


「――……ああ、問題ない。それよりなぜ、ここに来たんだ?」


 脱ぎ捨てた服を着なおしながら。スぺイは気丈に振舞って見せた。

 

「あ、えっと、それあは。海へ、広場から、あ、あー飛び込んで。撃った奴が……」


「落ち着いて。大丈夫、言いたいことはわかったから。良くやったわね、偉い」


 フェリチタ―ティスがすべてを言わずともスぺイはその能力によって状況を理解した。

 広場に居たユウは海に飛び込んだ。その情報だけでもう追跡は無いと確信した。

 ただそれはスぺイがそう思うというだけでなく、フェリチタ―ティスを安心させる意味もあった。わからないというままではフェリチタ―ティスは不安で仕方ないのだ。それをスぺイは良く知っている。

 

「……良かった。もう大丈夫なんだね?」 


「ああ、この倉庫にある果ての果実を手に入れればそれで終わりだ。見つけられるか?」


 倉庫の中は多くの木箱が並べられていたが、当然目的の物はそのすべてと言うわけではない。

 果ての果実(最も価値のある物)はこの中の一つだけだ。もしかすると果ての果実(最も価値のある物)を隠すために無関係な様々な品物が保管されているのかもしれない。

 その為場所はわかっても、スぺイだけではこの中から探すのには時間が掛かりそうだった。

 しかしフェリチタ―ティスの能力があればそれもすぐに終わりそうだった。

 フェリチタ―ティスの心の剣(能力)

 それは生まれた時からほとんど目の見えないフェリチタ―ティスに与えられた神からの贈り物。

 目は開く力。しかしそれはフェリチタ―ティスにこの世界のすべてを映すものではない。むしろその逆だ。

 フェリチタ―ティス()()()()()()見ることはできない。

 ただしその一つは言うならば人間の第六感のようにどれだけ遠くても見ることができる。

 それによって無造作に並べられた貨物の中からそれを探し出すこともできる。


「……あった。これ、だと思う」


 それは一つの木箱だった。フェリチタ―ティスは銃剣型の心の剣を手に取りだし、それを強引にぶち破った。


「これ、なのかな?」


 木箱の中には厳重に梱包された旅行鞄が一つ入っていた。

 フェリチタ―ティスは木箱を破壊しようと、銃剣を大きく振りかぶった。


「まった。フェリチタ―ティス、それ以上は必要ない。こんな木箱に入れて大事に運んでいるんならこれで間違いないはずだわ」

 

 スぺイは旅行鞄を拾い上げた。それは華奢なスぺイにはやや大きかったが、重くは無かった。

 

「……ふうん、まあこれはこれで持ち運びやすくていいかもね――行くわよ」


 思うより軽かったので多少不思議に思ったが、スぺイはフェリチタ―ティスを連れて倉庫を後にすることにした。

 慎重に倉庫の外を見て、安全を確認した。どうやら倉庫の外にも誰も居ないようだった。

 それもそのはずだ倉庫街はこの時間は元々人通りは多くない。見張りが数人いるぐらいだろう。その見張りもさっきフェリチタ―ティスが撃ってしまっていた。

 寒い空に白い息を吐いてスぺイは吸い込まれそうな暗い海を見た。目的は達した。あとは持ち帰るだけ。


「スぺイ。笑ってるの?」


 思わず、スぺイは少し笑っていたかもしれない。言われるまで気が付かなかった。


「べ、別に。それより油断しちゃだめだからね」


「うん、気を付ける」


 スぺイは注意をした。フェリチタ―ティスだけでなく自分にも。

 しかし確かに気が緩んでいるのかもしれない。

 気を付けなければ、姉として手本となるよう行動しなければいけないと自分に言い聞かせた。

 丁度その時だった。

 見晴らしのいい海沿いを歩いていたスぺイに何者かが突然、海側から奇襲を仕掛けてきたのだ。


「ぐっ、……不味い、これを」


 スぺイは咄嗟に手に持っていた旅行鞄をフェリチタ―ティスに投げた。

  

「どうやら、それがお前らの言う、果ての果実のようだな」


「お前は……何故、生きて?」


 それは海に身を投げて()()()()()のユウだった。

 いや、それは間違いだ。死んでいなかったのだ。最初から。

 スぺイの能力によって人の言葉を通して得た情報は事実でしかない。言い換えればその意味を知ることはできない。

 スぺイが知っていたのはユウが海に身を投げたということだけ。それがどのような意図か、どうするためかは知らないのだ。


「……さあな、そんなことどうでもいい。それより果ての果実(それ)を返してもらうぜ」


 ユウは海に飛び込んだ時、咄嗟に糸を欄干に巻き付けて張り付いていたのだ。

 そして狙撃手から隠れ広場を脱出。スぺイを着けていたのだ。

 もっともそれをスぺイたちは知る由もない事だが。


「……ス、スぺイ。どうすれば?」


 ユウはナイフを手にスぺイを人質に取っているが、それでも現状は果ての果実の入っている旅行鞄を確保しているフェリチタ―ティスの方が優位だ。


「そのかばんを返してくれ。そうすれば俺は何もしない。約束する――とりあえず、応じるならその手に持った銃を遠くに捨ててくれ」


 ユウも自分が不利な交渉だということはわかっている。だからこそ急がなければいけない。相手に考える時間を与えないように。


「――ふっ、ユウ。あなた見誤ったわね――フェリチタ―ティス!さっさと果ての果実(それ)を持って行きなさい!」


 スぺイは能力を使わずとも、ユウの考えはわかっていた。もし、ここで果ての果実を持ちされれたとしてもユウはスぺイに危害を加えることはできない。

 だからこその指示だった。そしてフェリチタ―ティスがスぺイの意見に依存するように、反対にスぺイもフェリチタ―ティスがその指示を聞くということに依存していたのだ。

 だからこそフェリチタ―ティスのその行動にスぺイは心の底から驚かされた。


「――よし、そうだ。銃を捨てたな。あとはその鞄をこっちに」


「あんた、なんで……早く行きなさいよ」


 フェリチタ―ティスは銃を遠くの地面に捨てた。銃が地面を転がり、そのまま暗い海へと落ちて行く。それは紛れも無くユウの交渉が成功したということを示していた。

 フェリチタ―ティスはこれまでスぺイの指示に明確に従わなかったことは無かった。これが初めての抵抗だった。


「ダメ、ダメだよ、スぺイ。スぺイが居なくなっちゃったら、わたし、何もなくなっちゃうよ――……こ、このかばん、ここに置けば良いの?」


「……あ、ああ、置いて、すぐに離れろ」


 泣き出しそうになりながら、フェリチタ―ティスはユウのすぐ近くにかばんを置いた。


「これで、良いんでしょ?早く、スぺイを返してよ」


「……わかった。そのかばんを取ったら開放する」


 ユウはスぺイを人質にしたままかばん取りに向かった。

 スぺイはフェリチタ―ティスの行動に呆然としていた。そしてユウに連れられ、ユウが果ての果実が入ったかばんを取るのをただ見ているだけしかできない自分の無力さを悔やんだ。

 しかし、ユウがまさにかばんを手にした時だった。偶然にもスぺイはあることに気が付いた。


ユウ(こいつ)まさか?……ふ、ふふふ。フェリチタ―ティス、偶然だろうけどよくやった。そう言ってやりたい。あなたのおかげで私たちの勝利は確定した――}


 ユウは旅行鞄を手にとり、スぺイを解放した。 

 スぺイが泣き崩れそうなフェリチタ―ティスの元へと駆け寄る。

 慰めるように頭を撫でて、抱きしめて、そしてこう言う。


「――よくやったわ。勝ちよ、私たちの」

海へと飛び込んだと見せかけ、ユウはスぺイたちの隙をついた。

しかし、それだけで済むことは無かった。致命的な見逃しをユウは気が付いていなかったのだ。

次回:第二十四話:幸福の剣、フェリチタ―ティス・a






本当に忙しかったんだ。多分。だから時間が掛かるのも仕方がない。

まあ、出来る範囲で頑張ろう。

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