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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第二十四話:幸福の剣、フェリチタ―ティス・a

フェリチタ―ティスの行動によってスぺイの計画は破られたかに見えたその時、スぺイは反対に勝利を確信した。逆転の秘策を前にユウはかばんを守り切れるのだろうか。

 スぺイは気が付いたのだ。

 それは自分にとっての当たり前、だからこそ気づきにくい。

 ユウは知らないのだ。スぺイやフェリチタ―ティスが自由に心の剣を手に戻せることを。

 スぺイもユウがわざわざフェリチタ―ティスに銃を捨てさせなければ気が付かなかっただろう。

 

「……助かったわ。フェリチタ―ティス。撃ちなさい」


「え?――……うん」


 スぺイが耳元で合図する。それに合わせて次の瞬間にはもうフェリチタ―ティスはユウに銃口を向けて居た。

 



 放たれた弾丸をユウは躱す術は無かった。咄嗟に手に持っていたかばんを前にやったが、もうどうしようもなかった。

 

「……くっ、どこから、(それ)を?――」」


 ユウは不思議に思いながらも、突然銃が手元に出現したことを受け入れた。

 なぜなら、それよりもよりおかしなことがあったからだ。


「――スぺイ!!」


 フェリチタ―ティスの放った銃弾に交じり、もう一つの銃弾がスぺイを打ち抜いていたのだ。


「うっ……はぁ、ダメねフェリチタ―ティス(あなた)は一つに絞れば良く見えても、その一つ以外見えないんだから」


「……あ、あ……ス、スぺイ……どう、して――」 


 スぺイは何者かから狙撃されていた。いや、本来ならば狙われていたはフェリチタ―ティスの方だ。スぺイはそれにいち早く気が付いて身を挺してフェリチタ―ティスを守ったのだ。

 もし守らなければ狙いがずれずユウを殺し、目的を果たせるとしても。


「バカ――泣くんじゃない。あなたはわたしの希望なのよ、だから泣くな――……バイバイ」


「スぺイ――逝かないで。逝かないでよ――スぺイと居ることが、私の幸せなのに」


 フェリチタ―ティスが血に濡れることなどかまわずスぺイを抱き寄せる。

 しかしその体はどんどんと力が抜け、重くなっていく。

 スぺイはもう、自身が助からないとわかっていた。

 何も見えず、何も聞こえなかった。


「さよなら、あなたの姉に成れて、ほんとに、良かった」


「私も、スぺイの、お姉ちゃんの妹でほんとに――ほんとに幸せだよ」


 スぺイの脳裏にはフェリチタ―ティスとの幸福な記憶が呼び起こされていた。

 走馬灯と言うものだろうか?或いはスぺイの能力が見せた幻影だろうか?

 どちらにしろそのおかげで、薄れた意識の中でも最後に言葉を残さことに違いなかった。

 

「お姉ちゃん……」


 フェリチタ―ティスは涙を拭った。

 もう自分に指示をしてくれるスぺイはいない。だが、今自分がすべきことを分かっていた。

 自分で考えて、自分で選んで、どうするか、どうずべきかわかっていた。


「絶対に勝って見せるから――……そこの隠れてる人、隠れても無駄だよ。私には見えてるから」


 フェリチタ―ティスが暗い倉庫の影の一点をまるでそこに隠れていることを知っているかのように見た。

 いや、見えているのだ。それこそがフェリチタ―ティスの持つ剣の能力なのだ。


「……はぁ、まさか見つかっていたとは思わなかったな――ユウ。遅れたが、一応護衛としての責務は果たしたぜ」


「フォルトゥナ!どうしてここに?」


 それはユウにとって意外な援軍だった。

 遠くに見える倉庫の影から銃を持ったフォルトゥナが二人の前に姿を現してきたのだ。


「いやー偶然だよ、偶然。ネスを探そうと思って高台で町を見てたら見つけたんだ。まあ時間はかかったが――それよりも、次は外さないからな」


 フォルトゥナがフェリチタ―ティスに銃を向ける。

 そして、間髪入れずに一発撃った。

 しかしそれに合わせて一発フェリチタ―ティスも引き金を引いた。だが、それはフォルトゥナの方でもでもユウの方でもない。ただ、手に持ったまま、地面に向けて撃っていた。

 ユウにはまるで戦意を欠いている居るようにも見えたが、しかしそれは次の瞬間にはっきりと間違いであることが分かった。

 

「……きゃっ!」


 突然、フォルトゥナの持っていた銃が吹き飛ばされた。


「これで、残り一人。さあ、そのかばんを渡して」


 何が起こったのか、ユウには見えなかった。しかし確かではないが感じていた。フォルトゥナの放った弾丸はフェリチタ―ティスの弾丸に撃ち落されたのだ。そして、撃ち落した弾丸はそのままフォルトゥナの銃を吹き飛ばしたのだ。

 フェリチタ―ティスはかばんを奪取すべくユウに渡すよう言い。銃を向けた。


「……断る」


 ユウにはとても勝てるはずは無かった。しかしそれを渡すことはできない。勝てないからと言って諦めるわけが無かった。


「くっ、撃てないと思って……(これ)は脅しじゃない。私は自分の意志で引き金を引ける」


 フェリチタ―ティスは一つただ一つだけを見ていた。その言葉に嘘は無い。


「……そんなこと、わかるさ――……だから、こうするんだ」


 ユウは手に持っていた旅行鞄を、果ての果実を捨てた。

 暗い海へと投げ捨てたのだ。


「――あっ」


 フェリチタ―ティスは海へ落ちて行く旅行鞄を立ち尽くして見ていた。

 そして、ほんの数秒経って、おぼつかない足取りで冷たい冬の海の方へと二三歩進んで、足を止めた。


「かばんが――……」


 フェリチタ―ティスはその場でへたり込んだ。

 目的が海の底へと消えて行った。

 もう、フェリチタ―ティスに戦う意思は無い。そして生きる意志も同時に失ってしまった。


「あんたは――いや、何でもない」


 どんな言葉をかけて良いかユウにはわからなかった。それだけフェリチタ―ティスは傍から見てもわかるぐらい絶望していた。


「ねえ、殺してよ?わたしを、負けたのわたしは」


 もう、生きている意味なんてないから。と、そう聞こえた気がした。

 目的は果たせず、大切に思っていた姉を失い、フェリチタ―ティスにはもうこの先生きる意味などないのかもしれない。

 

「……なあ、あんた――そのあんたの姉ちゃんの話聞かせてくれないか?」


 本当にそうなのかもしれない。

 失ったものは戻らない。一度失った生きる意味はどうしても帰っては来ないのだろう。

 

「え?」


「あんたの事もあんたの姉ちゃんの事も良く知らないんだ。だから教えてくれないか?あんたにとってなんだったんだよ」


「お姉ちゃんは、スぺイは私にとって世界のすべてだった。スぺイ以外私には何もいらなかった。何も……何も……」


「――大切に思うなら、大切に思うならなんでそんな死にたいだなんていうんだよ」


「だって……もう、最後の指示も果たせなかったじゃん」


 果ての果実は海へと沈んだ。ユウが沈めた。奪われないための行動だったとはいえそれはユウにすべての責任がある。


「最後の指示――そんなの本当にそれだけしか見えてないのか?あんたの姉ちゃんがあんたに託したのはそんなことなはずないじゃないか!」


 奪おうとしたのはスぺイたちだ。だからそれが失敗したことにユウは喜ぶべきなのかもしれない。

 だが、何故なのかユウはこの時自分でもよくわからないことを言っている。そんな感覚があった。


「あんたが大切だと思っている人なら。きっとあんたの幸せを祈ってるはずだ。死んでほしいなんて思ってるはずないだろ」

 

「でも、私に生きる意味なんてない」


「意味が無いから生きられないのか?違うだろ。意味を見つけるために生きるんじゃないか」


「よく、わからない――……スぺイ」


 フェリチタ―ティスはすでに息絶えたスぺイを見た。

 最後の最後までフェリチタ―ティスを見ていたのだろうか。心配そうに見られている。そんな気がした。


「もっと、しっかりしなくちゃ。同じところに居なくても、スぺイは見てくれてるのね」


 フェリチタ―ティスは空を見上げた。町の明かりの所為か満点の星空と言うわけには行かないが、包み込むような穏やかな暗い空と明るく照らす月が新しい未来への啓示のような気がした。

 空を見上げ、ゆっくりとフェリチタ―ティスは立ち上がる。

 しっかりと自分の足で立って、歩き出した。

 それを確認して、ユウはもう大丈夫だと思った。

 フェリチタ―ティスはユウの邪魔をすることは無いだろう。

 これでユウは()()()()()()()()()()()()()




 ユウはかばんを海に投げる際、あらかじめ糸の能力で鞄と自身をつないでいたのだ。

 そのためかばんは海に落ちたとはいえ簡単に引き上げることができる。

 そう、フェリチタ―ティスが去ればすぐにでも。


「……さよなら」


 フェリチタ―ティスがユウに一言別れを告げた。


「ああ、元気でな」


 ユウも一言だけ別れを告げた。

 これが最善だとユウは思う。争う必要も殺し合う必要もユウには無いのだ。

 一つの嘘で命を救えるのなら安いものだ。

 だが、現実はそう言うわけには行かなかった。

 立ち去るフェリチタ―ティスの背中が()()()()()と共に揺れる。


「――なっ」


 ユウは呆気に取られて、しばらく呆然としていた。

 しかしそれを放った人物は誰だかもうわかっていた。


「良かった、間に合って――ユウ。怪我は無い?ってことも無いか。まあ無事そうで良かった」


 遠くにフォルトゥナが居た。

 銃を吹き飛ばされてから、フェリチタ―ティスがユウに気を取られているうちに機会を窺っていたのだ。


「――な、なんで?」


「ん?なんでって、そいつらは敵でしょ、明らかに」


「で、でも、もう戦う気は無かった。さっきだって引こうとしていたんだ」


「あー、まあでも引いた後、仲間と合流するかもしれないでしょ?それに安全を考えればこうするのが当然だし」


「でも、何も殺さなくたって……」


「――……はぁ、わかったわかった。とりあえずこの話はまた後、とりあえず帰るわよ」 


 フォルトゥナがめんどくさそうに話を終わらせて、先々歩き出した。

 ユウもかばんを引き上げて、それに付いて行った。

 



 ユウは後々このことでフォルトゥナと話すことは無かった。

 無意識のうちそれを避けたのだ。

 それはフォルトゥナのいうことをきっぱりと否定できず。確かにそれも一理あると認めてしまいそうだったからかもしれなかった。







 ユウ達が立ち去った後、そこにはスぺイとフェリチタ―ティス、二人の遺体があった。

 いや、より厳密に言えば一人の遺体と、もう少しで遺体となる一人だった。

 フェリチタ―ティスは動かない体を必死に這って動かした。

 

{……スぺイ、待ってて……一人にはしないから}


 もう二人とも助からないと、わかってはいた。

 ただ最後の場所を選びたかった。

 

{スぺイは……本当は寂しがり屋で、心細いんだよね}

 

 もう、少し、もう少しでスぺイの体に手が届く。

 死の直前に最後の力をフェリチタ―ティスは振り絞った。

 

{よかった……これで……二人、一緒だよ}


 それはほんの少し指先が手に触れただけだった。

 けれどその手はフェリチタ―ティスには誰よりも暖かく感じた。

 



 翌日。偶然通りがかった漁師によって、倉庫街で二人の女性が、そして倉庫の中では倉庫番二人の遺体が発見される。

 いずれも銃で撃たれた形跡があるが、凶器は発見されず。銃創からそれぞれ別の事件であると推定される。

 二人の女性の身元は不明であり、時期に捜査は打ち切られた。

 遺体の引き取り手は現れなかったため、二人の遺体はメーディス第三共同墓地にて無縁仏として二人並べて埋葬された。

何とか鞄を守り切ったユウ、しかし一方他方ではまた別の戦いが行われていた。次回:凍剣、フリゴリス・a




更新がとても間が開いてしまいました。次もできるだけ早く出したいですが、どうなるかは分かりません。まあ、多分3か月も開かないとは思いますが。



エタってませんでした。

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