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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第二十一話:港町にて・a

最愛の人の命を救うため港町、メーディスにやってきたユウ達。

しかし町に着いた当日、ユウの護衛の一人として町に来たネスが突然行方不明になる。


 ヒエラルはフォルトゥナ達の居る宿を出て、メーディスのある通りに来ていた。

 その通りは俗に、職人通りとも呼ばれ、200年前にある有名な職人が物流の盛んなこの町に工場を開いたことに始まる。

 ヒエラルが目指したのはそんな職人通りにある最も古い工場の一つだ。

 一月以上前、ヒエラルは右腕を失った。

 今回作らせたのはそれに代わる義手。それもより特別な物。


「……それで、準備はできたのか?」


 ヒエラルは工場の主人である若い男に言う。

 一度ヒエラルは昼の間に取りに来ていたが、その時はまだ完成していないからと断られていたのだ。


「いや、それが……まだ少し。満足できる出来では……」


「昼間の内は日が暮れるまでにと言っていた。それに手紙では今日には完成するという話だった」


「……あ、ああ、まあ、そうだったかも……」


「それに昼に来た時の説明ではもう完成していると言っていた。だが、もう少し質を高めたいから待って欲しいという話だったと思う。とりあえず、それを受け取ってもいいだろうか?」


「い、いや、それは駄目だ」


「……俺は完成しているならそれでいい」


「い、いやでも……」


「でもじゃない。怯えたような声を出すな――……ここは職人通りでも由緒ある工場だと聞いていたがずいぶん落ちぶれた用だな」


「……お、落ちぶれたってそりゃそうでしょ、落ちぶれて無きゃあんたら見たいな得体の知れない奴らの仕事なんか受けやしない。それにうちは先代や先々代、ずっと前から続けてきた伝統があるんだ。だから完璧じゃないものを渡すことなんてできない」


 ヒエラルの言葉に怒りを覚えたのか、工場の若い主人は声を荒げて言い返す。


「……はぁ、それが期限までに言えていればお前たちは落ちぶれずに済んだんだろうな」


 ヒエラルは呆れて、もう話をする気さえ起きなかった。

 

「……あ、ちょ、ちょっと、それは」


 ヒエラルが主人の制止も聞かず、()()を手にする。


「……ふぅん。まあ良いじゃないか。十分だ。良くやった。これに免じてお前のさっきの発言はボスには伝えないで置いてやろう」


「……ま、まさか制御装置をつけていないのに……」


 ヒエラルは作るよう命じた義手を装着した。

 それもただの義手ではない。それはヒエラルが過去に使っていた武器と同じ液体金属でできた銀色の義手だったのだ。

 

「ただ、このままでは目立つな。手袋をしなければな……どうかしたか?」


「……い、いや、まさかそれをそんなにも簡単に使いこなせる人間が居るとは」


 男はひどく驚いた。

 ヒエラルが今いともたやすく形を成した義手は本来なら訓練を受けようと、そう簡単に使える物ではない。

 それはいかに過去に同じ材質の武器を使ったとしても同様だ。まず手の形を保つことすら難しい。

 

「……あ、あれ?」


 男は驚いて目を丸くしていた。その所為かヒエラルがすでに去った後であるということに気が付かなかった。




  ムクロイナ王国西部有数の港町、メーディス。

 そこは古くから南北の海路の中継地であり、鉄道が引かれ始めた今もその役割は大きい。

 様々な場所から人や物が行きかい。中には首都でさえも目にかかれないほどの珍品もある。

 ユウ達が取りに来たのもそんな珍品の一つだ。

 ムクロイナ王国の北部に雄々しくそびえる大山脈のその先、世界の果てとも呼ばれる地の果ての立ち入りさえ禁じられたその地にのみ存在するというどんな病でも治せるという万病薬。

 一般には全く知られていないが、それは噂ではこう呼ばれている。()()()()()と。

 

「お嬢ちゃん、迷子かい?」


 白装束をまとった聖職者レニタティスは日が落ち始めたメーディスの町で一人で歩いている10歳程度の女の子を心配して声を掛けた。


「……迷子?……」


 一方それを聞かれた方はまるで自分の事を言われていることに理解もしていないかのように首をかしげている。


「えーっと。君、名前は?そろそろ暗くなってくるから危ないよ」


「……名前……ネスの名前はネス……」


 少し間を置いてゆっくりとネスは自分の名前を言った。

 

「ははは、そうか。私はレニタティス。そこの教会の聖職者だよ。どうだろう、今この町はお祭りで教会でお菓子を配っているんだ。それを食べて、君の親御さんを探そうか?」


「……親御さん?……わからない、けどお菓子、食べる……」


 昼からネスはこんなに日が暮れるまで何も食べていなかった。ネスはお腹が空いていたのだ。

 ネスはレニタティスの誘導に従って、教会へと入って行った。


「ブドウ味のクッキーとブドウ味の飴ならどっちがいい?」


「……飴……」


 レニタティスはネスに綺麗に包まれた細長い飴を手渡した。


「ははは、そうだ何故ブドウ味なのかと言うとね、この町を開いた人が好きだったからだそうです。当時はここにもブドウ畑があったのでしょうね」


「……うん……」


 レニタティスの話をネスは半分も聞いていなかった。

 飴を舐めながら考えていることはヒエラルにフォルトゥナにアノミー、仲間たちの事だけだ。


「いまでは紫の物を送ったりする方が一般的ですが、私はこっちの方が性に合うんです」


 レニタティスは静かさを嫌うようにネスに話し続ける。しかし、それに返答するより先にネスの意識が朦朧とし始める。


「……眠ってしまいましたか」


 ネスが眠っているのを確認すると、レニタティスは手際よくネスをひょいと持ちあげる。

 そのまま教会の奥の部屋のそのまた奥の部屋へと運びこんで、低い机に横たえた。


「どれぐらいで起きるのでしょうか?――いや、まあいいでしょう。一人は生かしておけばいい。この町に来たのはこの子と、ヒエラル、あとアノミー、後は……二人。そいつらは他の奴らに任せておけば私は戦う必要すらない」

 

 レニタティスは荒れる鼓動を鎮めるように、言葉を並べる。

  

「そうだ、人質にしておいてもいい。果ての果実さえ手にいれれば私たちの勝ちなんだから」


 レニタティスはとても小心者だ。ほんのちょっとしたことでも鼓動が跳ね、息が荒れ、動揺してしまう。

 だが本人はそれを欠点だとは感じていない。


「私は考えに柔軟さがある。だから何時だった隠し通せる。これまでもそうだった」

 

 レニタティスは思い起こす。成功体験と言う、隠し通された罪と隠ぺいの記憶を。

 すると、その時だった。

 教会の扉が開かれる音が聞こえた。


「……誰か来たか――いや、問題ない。鍵を開けておいたのは私だ。その方が自然だ。それに表に証拠は残していない――私自身にも、大丈夫。良し」

 

 レニタティスは注意深く、ネスを隠したことが見つからないか確認する。

 そして、出来る限り早く応対に出た。


「――はい。どうかしましたか?」


「……ああ、すまない。人を探していてね。見ていないだろうか?――あの?」


「――……あ、ああ、どうでしょうか」 


 レニタティスはそれが誰でも動じないつもりでいた。実際、ほんの少しも顔には出ていないし、言葉にも出ていない。

 だがまさか、まさかネスを捕まえてこんなにも早くやって来るとは思わなかった。


{ヒエラル、どうしてここに……まさか見られたのか?、い、いやそんなはずはない。偶然だ、偶然}


 レニタティスは予期していなかった。だが、対応を考えるのは早かった。


「知らないのであれば、良い。悪かったな」

 

「あ、ちょっと。待ってください。探しているのはどんな人ですか」


 立ち去ろうとするヒエラルをレニタティスは引き留めた。


「……ああ、子どもだよ。10歳ぐらいの女の子」


「お子さんですか?」


「……まあ、そんなところだ」


「服装とかは?」


「服装か、黒っぽい感じだ。あと、なんていうか城の使用人が着る服見たいな……」 


「ああ、メイド服、見たいな感じですね――そうですねー、子どもはよく来ましたが、心当たりはありませんね――あ、でも中央の広場かもしれませんね、あそこは人が多いので」


「……そうか、感謝する」


 ヒエラルが教会を去っていく、それをレニタティスは十数秒間黙って時間を置いて確認した。


「よし、これで良い。完璧だ。ふふふ」


 レニタティスはすぐにまたネスの元に戻った。

 



 レニタティスはネスが目覚めるまでの間。準備を整えた。

 ネスの手足を縄で机に大の字になる様に貼り付けにした。


「よし、これで身動きは取れないはずだ。あとは――」


「ん、んん……」


 眠っていたネスが小さくうめき声をあげた。

 その音にレニタティスは驚いて、座っていた椅子を倒しそうになった。

 あとは待っていればいいとそう思っていた。しかし、こうも早く起きてしまうなら、ただ待つだけは怠慢だった。


「やあ、起きたかな?悪いが、拘束させてもらったよ」


「……おはよう……」


「早速で悪いが、君たちがこの町に取りに来たものは今どこにあるか、教えてくれないかい?」


「……取りに来た、物?」


「そうだ。それが今どこにあるのかを言えばいいんだ」


「……知らない」


「ははは、そう言うと思ったよ。どうやら、私たちに嘘をつくとどうなるか、教えて欲しいみたいだね」


 レニタティスがネスの腹部に手を当て、撫でる。


「……大丈夫。痛みは少しだ――ただし耐えられはしないがね」


 レニタティスはネスの腹部に当てていた手を力いっぱいに()()()()()()

 それはまるで、体がゴムのように柔らかくなってしまったように。皮膚を内臓を骨をぐりゃりと曲げて手を深く沈ませた。


「さあ、どうだい?――一応言っておくが、何もありえないことだからと言ってこれが幻覚や手品ではないんだよ」


「……何だか、ムズムズする……苦しい」


「……そうだろう。だが、それだけでは済まない。痛みは無いが、血管を塞げば手足を腐らせることぐらいはできる。早く話せ、あの薬は、果ての果実はどこにある?」


「……知らない」


「そうか、なら待つとしよう――このナイフは重しとして君に預けておくよ」


 レニタティスは胸元からナイフを一本取り出して、ネスの腹の上に乗せた。と同時に手でやったのと同じようにネスの体にナイフが沈み込んで、停止した。

 それは痛みは無い。血が出るわけでも骨が折れるわけでもない。だが、息苦しさと、不快感がネスの体にじわじわと負荷をかけた。


「予告しよう。1時間だ。1時間もすれば話す気になる。これはどんな拷問よりも効果が高い」

 

 レニタティスは待つ間ここに居る必要は無かった。

 体を縛り、そのナイフが載っている限りネスの自由は利かない。目を離そうと何の問題も無かった。

 ネスの居る部屋の扉を固く閉ざして、教会の方へと戻った。

 完全な勝利。

 ネスはもう、動けない。

 ネスの仲間のヒエラルも追い払った。

 あとは隠し通すだけ。だが、それこそはレニタティスの最も得意なことと自負していることだ。


「ふふふ、ははは、これで良し、これで……」


「何かおかしい事でもあったのか?聖職者さん」


 少々浮かれていたと、レニタティスは自分を恥じた。

 そして、まさかまたしてもこの男に驚かされることに成るとは思わなかった。


「またあなたでしたか、広場の方に言ったのではなかったのですか?」


「居なかったよ、行ったけどね――それに人が多い場所は苦手でね、しばらくここで休ませて欲しい」


「ああ、そうでしたか」


{嘘だ。そんなはずはない。ここから広場まで徒歩で40分はかかる、戻ってくるのが早すぎる――まさか、こいつ、やはり……気づいている}

 

 疑念は確信に変わる。

 レニタティスの小心者の心臓が早く刻む。

 

「……ここには来なかったかい?」


「い、いえ、来てないですね。ここには」


{何時だ?どのタイミングで仕掛けてくる?}


 ヒエラルの一挙手一投足に意識を集中する。

 そのとき、レニタティスは気付く。ヒエラルが不自然なほどにコートを羽織って右腕を隠していることに。

 

{まさか、情報には無いが、いや試してみる価値はある}


 レニタティスは何時仕掛けてくるのかわからない状況を打破するある策を思いつく。

 

「そうだ。これ、お菓子なんですけど、お一つどうぞ――」


 あくまで自然に、無理のない範囲でレニタティスはヒエラルに向かって小さい袋に入ったお菓子をゆっくりと投げて渡した。

 しかし、ヒエラルは本来なら簡単に掴めるはずのお菓子を気づいていたにもかかわらず手を出さなかった。


「あ、ああすいません。ついうっかり。本当にすいませんね」


「いや、気にすることは無い。ただ私は人から渡された食べ物を食べないようにしているだけだ――」


 ヒエラルは未だとぼけた様子で、仕掛けてくる気配が無い。

 レニタティスはこれによって、右腕の様子を知ることはできなかったがそれでも問題はなかった。


{さあ、どうする?それは踏み絵だ。そのとぼけた態度を続けてそのお菓子を拾い隙を晒すか、それとも拾わずに仕掛けてくるか。どちらでもいい、来い}


 レニタティスに緊張が走る。出来るなら拾って隙を晒す方が良いが、そうでなくても来るならそれにこたえるだけだ。


「――ただ、好意を無下にするわけにも行かないからな、そこにあるのを貰うよ」


 ヒエラルはそのどちらでもない。敢えて言えばその中間、まったく態度を変えずに近づいて来る。

 レニタティスと、その背後の台に乗せたお菓子の箱の方へと。

 

{まずい、来る。近づいて、一見すると隙だらけにも見えるが、間違いなく二つ目の選択。覚悟を決めるんだ私}


 もうレニタティスにはヒエラルの意図などうでもいい。完全に戦う決意を固めた。

 しかし、3メートル、2メートル、そして1メートル。ヒエラルはまだ仕掛けてこない。

 そして超至近距離、ヒエラルは隠していた右腕を上げた。

 それがレニタティスにとっての戦いの合図だった。

 すぐさま、レニタティスは()()()()()()()()で、ヒエラルの攻撃をガードしようとする

 しかし――

 

「馬鹿な、攻撃していない」


 完全にレニタティスの防御は無意味に終わり、ヒエラルも驚いて再び距離を取ってしまった。

 

「お前、これは――まさか、敵の刺客か」


 レニタティスの想定は初めから間違っていたのだ。それはレニタティスだけが知っている、ネスを捕まえていて、ヒエラル達を攻撃しているという情報を想定に加えてしまっていたことによることだ。

 つまり、ヒエラルを警戒しすぎたことが招いた、大きな、取り返しのつかない失態。

 

「……まさか、私がこんなへまをしてしまうとは……いや、それでいい。私には特別な、選ばれし者だけが与えられるこの力がある。負けはしない」 


「力?……そうかさっきのナイフ」


「そう、私たちは選ばれた人間だ。この剣こそがその証」


 レニタティスのはヒエラルが近づいたとき、その一瞬前までは手に持っていなかったナイフを手に持っていた。

 それはヒエラルも見たことがある。託された力。

ヒエラルは無事に仲間を助け出せるのか。そしてレニタティスの使うナイフは一体。

次回:柔の剣、レニタティス・a





それではお元気で~


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