第十六話:光に向かい進む・2
光に向かいユウ達は進む、しかし未だに敵に近づいているという確証が持て無かった。
そんな中でたどり着いたのは人気のないどこか陰鬱な雰囲気のする村だった。
ユウとヴェローナはネイを残し、村に足を踏み入れる。
ユウ達三人の目的は誘拐された王女を生きて奪還すること。
町を出発してから数日、ユウ達は目的地である半砂漠地帯の差し掛かるというところで地図に無いような小さな村に入っていた。
目的はこの先のために水や食料を補給することだ。
「ヴェローナ様。こんな小さな村で大丈夫なんでしょうか?確かに他に場所は無いですけど……なんていうか不気味な感じがしますよ」
ネイは村に入ってすぐに、不安そうに言った。
確かに、ネイの言う通り、村の建物のいくつかは空き家の用で、村全体も閑散としている。
「ああ、ネイ。ここまでご苦労だったな。俺とユウで補給は探しておくから、お前はそれまで休んでおけ――ユウ、行くぞ」
ヴェローナとユウは村の外れにネイと乗ってきた馬車を置いて村の奥へと入った。
「……あの、ここ本当に大丈夫なんですかね。人はいないわけではないみたいですけど――……ヴェローナ?」
ヴェローナは村の中の一つの家の前で立ち止まった。
周辺の家と比べれば、まだ人が住んでいそうだった。
「……ユウ。今から、少し、手荒になるかもしれないが、俺に合わせてくれよ」
「……え?それはどういうことですか?」
「大丈夫だ。心配はいらない――」
ヴェローナには自分の考えが間違いじゃない確信があった。
しかし、その保証をすることはできなかった。
ユウ達がこの村に来る途中で立ち寄った場所でも、敵が通ったかどうか多少の情報収集を行ってきた。
だが、一つとして有力な情報を得ることができなかった。
ネイもユウも(もしかするとヴェローナも)そのことが不安であった。
もし敵が東の山脈を越える道を選んだなら?もし敵が北東部の川を渡っていたら?もし、そもそも国境に向かっていなかったら?
不安が拭えない。
だから、それを保証するためにヴェローナは行動するのだ。
「――ユウ。この家はこの村の権力者の家だ。立地条件から見て間違いないだろう」
「はあ……それで、どうするつもりなんですか?――あと、その手に持っているものは?」
ユウが尋ねたのはヴェローナが何故かこの村に入る前から持っていた杖の事だ。
ユウが知る限りでは、ヴェローナは特に足が悪いというわけではないはずだった。
「別に気にすることじゃない。これを使うかどうかは相手次第だ。とにかく、入るぞ」
ヴェローナが扉を叩き、すぐにそれは開かれた。
ユウ達は出発までに旅の準備をしてきていた。
馬車に、日持ちする食糧、着替えなどはすぐに準備できた。
だが、武器は簡単ではなかった。
剣や、銃火器のような大方都合のいいものは用意できなかった。一行が持ってきたのは料理用の大きめの包丁や、園芸用のハサミや鉈ぐらいのものだった。
けれど、そんな物を持ち歩くわけには行かない。
二人がその家に入るときもそうだ。二人は丸腰だった。
だからか、突然やってきたユウ達をその家の主人である髭ずらの男性は愛想よく二人を迎え入れた。
「まさか、この村にこんなお客さんが来るとは――どういったご用件で?」
その男は二人を古びた木の椅子に座るよう促し、そして自身も机を挟んだ反対側の古びた椅子に着席した。
「いえ、お構いなく。少しご挨拶をと思い尋ねさせてもらいましただけですので。私たちはカプツィナから来たんです」
「おお、カプツィナから。それはずいぶん遠いところから。こんな錆びれた村に」
「錆びれただなんて、そんな」
「いえいえ、戦時はこの村もまだ活気があったのですが――人が出て行って、今では村人も私一人です」
村長が言う通り、村には通りを見ても人は一人も居ない。
家の中だってそれは同じだ。
「……それで、あのー、ところであなた方はカプツィナからはどこへ?――……いえ、ただ少し興味がありまして、この先あるものと言えば砂漠ぐらいのものですから」
「ああ、はい。我々はヨーライックに向かっておりまして」
一瞬。空気が凍ったような緊迫感があった。しばらくの間を置いて、村長は凍った空気を溶かすように愛想笑いをして椅子から腰を上げ、二人に背を向けてどこかに行こうとした。
「どちらに?」
「……ははは、いえいえ。裏にうちの息子が居るのを思い出しまして、ご挨拶をと思いまして」
「我々はカプツィナからの例の荷物を追跡するように言われておりまして」
ヴェローナがまるで男を焦らせるように言った。その言葉に男はぴたりと足を止めた。
「カプツィナからの荷物、ですか?」
「はい。手違いがありまして。ご協力いただければ、報酬は二倍、いや三倍は払いましょう」
「……いや、何を言ってるのかわからないのですが?――その話、詳しく教えてもらってもいいですか?」
男が、ヴェローナの方向に振り返った。
その瞬間に、ヴェローナは持っていた杖の柄から仕込み刀を取り出し、男の肩に突き刺した。
当然男は驚いて、床に転び、助けを求めようと叫び声を上げようとした。だが、それをヴェローナは許さなかった。男の頭の数センチのところに仕込み刀を向けていた。
「わかっているとは思うが、死にたくなければ静かにしろ」
「ヴェローナ様?これは一体……」
ユウはヴェローナの突然の行動に、驚きを隠せなかった。
「ユウ、何故、この村が地図に無いのかわかるか?」
「……そ、それはここが小さな村だからでしょう?」
「そうだ。俺もそう思った。それは正しい――だが、こんなところに一人で住んでいるこの男はどうだ?――ここは不便な場所だ。村の外から見ても畑も見当たらないし。ラクダや羊を飼っているというふうでもない」
「い、言われてみれば確かに」
その男はほとんど無人の田舎で自給自足で生活しているというわけではない。
自給自足でないならば、必要な物資を金で買っているということになるが、それを買う金があるならこんなにも不便な場所で生活をする理由が無い。
何かここでなければいけない理由があるのだ。
「こいつは恐らくムクロイナとヨーライック間の密輸に関わっているのだろう。だからカプツィナからヨーライックに向かう荷物に反応した」
それはユウも見ていた。その男は確かに妙な反応を示していた。
「あ、ああ。ですけど、なんでこんな、いきなり」
ユウはそれを聞いたうえで疑問に思った。
それが本当なら、ヴェローナに切り付けられた男は敵の協力者ではあるが仲間というわけではない。
男は王女が連れ去られたことを知らされていない。
「俺たちには無駄に時間を掛けている暇はない。さあ、話せ、最近カプツィナから来た奴らのことを」
ユウはヴェローナの強引なやり方に少々の疑問が浮かんだが。しかしヴェローナが言う通り、時間が無いのも事実だった。
結局、その男から得られたのは村を通って半砂漠地帯の方へと向かった集団が居て、その人数が四人ということだけだった。
だが、そこまで調べれば十分だった。二人はその男を拘束し、急いでネイの待つ馬車へと戻ることにした。
「よし、ユウ急ぐぞ。敵はここからそう遠くない場所にいるはずだ――ユウ?」
「あ、いえ。別に」
ユウはふと壁にかかっていたこの村周辺の地図が気になった。
「俺は先に行く。急げよ」
ヴェローナが先に馬車へ向かった。
ユウが地図を見ていた理由はユウ達がカプツィナの村から出るときに地図を見た時に見た。あの糸が気になったからだ。ユウはその壁にかけられた地図に手を触れ、意識を集中する。すると、やはりこの前のように手から細い糸が伸びて行った。
糸は村を抜けて、更にその先の半砂漠地帯の方向へと向かって行った。が、糸は途中で止まることは無く、地図の端まで行ったところで止まった。
「確かに近づいている。のか?」
糸は不規則に動き、端まで行って止まった後、しばらくして再びユウ達の居る村まで戻ってきた。
ユウはその家を出た。
家を出てすぐ、ヴェローナが道の真ん中で立っているのが見えた。
ユウは声を掛けようとした。しかし、ヴェローナはユウを待っていたという様子ではない。
「……あ、そ、それ」
「ユウ。どうやら、敵はこの村に居る」
それは体が切り刻まれて血まみれで倒れていたネイだった。
それはユウとヴェローナが離れていた間の一瞬に起こった出来事だった。
「……し、死んでいるのか?」
「ユウ。これは敵の刺客だ。俺たちの追跡に気づいたんだ。気をつけろ」
二人は辺りを警戒する。だが、村の中にその犯人らしき人物は見当たらない。
だが、その敵はユウ達が見つけるよりも早く、自ら名乗り出てきた。
「よー、お前ら久しぶりだな。知らねえ奴だから誰かと思ったが、お前等の仲間だったのか。言っておけよ頭上に気をつけろってな」
敵はユウ達が出てきた村長の家の屋根の上で、二人を見下ろしている。
「アノミー、よりによってお前か――……ユウ。残念だが今はこいつにかまっている暇はない。俺が隙を作る。その隙に先を急ぐぞ」
「ヴェローナ、何を言ってるんだ」
「ユウ。言いたいことはわかる。だが奴がここに居るということは王女殿下が居る場所も近いはずだ」
二人はネイの事を悲しむ時間さえも無かった。悲しむよりも、より優先すべきことがあるからだ。
「何だお前ら相談事か?俺もなめられたもんだな」
アノミーは屋根から飛び降りる。二人からの距離は約十五メートル。あたりに人影は無く、開けた場所で、逃げ場は無い。
アノミーが走る。しかし、それに合わせてヴェローナは何かの機械を作動させた。それは一瞬にして、周囲を煙で見えなくしてしまった。
「今だ、ユウ」
二人は煙に紛れて退避した。
ヴェローナはここに来る準備をしていたが、城の中に居ては簡単に武器や兵器の類を用意することはできなかった。
しかしそれと違った物を手に入れる機会がヴェローナには僅かにあった。ヴェローナが投げたのはヒエラルたちが城に潜入する際に使った煙幕の一つだった。偶然にも不発だったものを持ってきていたのだ。
アノミーも煙幕で視界を塞がれ、二人を見つけることができなかった。
「クソッ、見えねえじゃねえか――どうする、追うか?どっちに?――あぁーめんどくせえ、俺はこういうので頭を使うのが一番嫌なんだ」
アノミーは頭を抱えた。頭痛がするような気になった。もう考えるのを止めたかった。だが、それでは良くないと自身を鼓舞し、そして一つの策を考え付いた。
アノミーはすぐに村長の家に戻った。手から杭を生やして、それを引っかけて屋根へと登った。
「こうすればいいんだ。屋根の上嘉新ならどっちに逃げたって、見つけられる」
煙幕の上から見れば、逃げた二人を見つけることができる。そして逃げていなかったとしても、自身は安全で、二人が逃げなくても煙幕が切れれば有利になれる。
そのはずだった――
「やはり、来たな」
屋根の上に登ろうとしたアノミーが昇り切ろうとした時、ヴェローナとユウはすでに屋根の上に先回りしていた。そして油断していたアノミーは簡単に屋根の上から地面に落とされた。
「よし、やったか?」
「いや、ユウ。まだだ。この隙に逃げるぞ……ユウ?」
地上の煙が払われる。アノミーはうめき声を上げながらも時期にまた動き出すだろう。ヴェローナはすでに先を急ごうとしていた。しかし、ユウはただ倒れているアノミーを見ていた。
「ヴェローナ。先に行っていてください――奴は、俺が倒します」
「ユウ……ここは引くべきだ。今は分が悪い」
ヴェローナは反対した。
今の状況ではアノミーは勝てる相手ではない。そう思っていたのだ。
もちろん、いつかは戦うこととなるかもしれないが、それは最後の手段だ。
しかし、ユウはそれに従わなかった。
「――ここで奴を倒したら、村長の情報通りなら敵は残り三人、しかも敵の内一人、ヒエラルは怪我をしている――ここが、正念場だ。だから、ヴェローナ。俺に行くなと言わないでくれ」
「……ユウ――……行きたければ好きにしろ。それに俺たちは仲間だ。仲間の決定を尊重する――だが、忘れるな。俺はお前まで失いたくはない――勝てよ」
この場には二人。屋根の上に居るユウと、それに見下ろされる形でアノミーがいた。
勝機はあるのか?そんなことは関係ない。ただ、このまま何もせず引き下がることはできなかった。
ネイは今も村の道端で横たわって、ピクリとも動いていない。
ユウはネイに同情しているのではない。憐れんでいるのでもない。ここまで来たのは彼自身の判断だからだ。
そんな言葉ではない。より深い何かが、心の深い何か感情とも言えない、原始的な、根源的な何かがユウを突き動かしたのだ。
アノミーが大勢を立て直す。ゆっくりと身を起こし、辺りを見渡す。
それが戦いの合図だった。
意見の対立。しかし仲間だからこそ相手を尊重することができた。
次回、戦いを決めたユウの判断は吉と出るか凶と出るか。




