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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第十五話:到達しえない旅路・2

望みはある、ただそれは多くの場合あらゆる要因で縛られている。

だがきっと、望みは鎖を引きちぎって進む力になるだろう。

この道の先の光を目指して進む力に。

 パレード前日の日の夕方。城を覆っていた煙幕はドンレミの適切な指示により、発生から僅か一時間ほどで取り払われ、天の光が城に射した。

 しかしそれが露わにしたものは都合のいいものばかりではなかった。

 この騒ぎで全体での死傷者と行方不明者の数は合計30人以上。

 そして、それらのあらゆる犠牲の上で密かに、城の住人にとって最も大きな、他に代えられない存在の消息が断たれていたのだ。

 はじめはどこかに隠れているのかとも思われた。しかしそれは王女のすぐ近くに居たディナールやネイによって否定された。

 王女が連れ去られたことが分かったのはそれからしばらく経ってからだった。

 しかし連れ去られたとわかったところでこのような場合にどのように対応すればいいのか、城の住人の誰にも分らなかった。

 そしてもし分かったとしてもそれが可能であるかは別だ。

 軍は被害が甚大で、かつ敵を追う手立ても無い。


「それで、本当に王女殿下はどこにも?」


「……はい。どうやら……私の所為です。つまらない事で、少し目を離したせいで」


「ディナールさん……やはり、あのフォルトゥナとかいう使用人はまだ姿は見えないのでしょうか?」


「はい。あの隠し通路を探させましたが。どこにも」


「なるほど、状況だけで言えば彼女が関わっている可能性は高いでしょうね。最も、外から敵が来てフォルトゥナごと王女殿下を連れ去った可能性もありますが……いや、短時間で起こったことを考えると、外の敵と結託して連れ出した可能性の方が高いか?――そうすると敵の作戦はアノミーたちが外で撹乱し、うちに潜ませたフォルトゥナか、何人かで連れ出すことか?――あるいは――」


「あの?」


「どうかしましたか?――いや、俺が考えているのは別にどうという訳じゃないですよ。趣味みたいなものですから――あなたに責任は無いですよ。まあ、多少の過失は在ったのかもしれませんが、あの場に居たとしたら殺されていただけでしょうし」


「――いえ、そうではないんです――なぜ、あなたはそこまで冷静でいられるんですか?――王女殿下が、さらわれたというのに……軍の被害も甚大だと聞きましたし、ドンレミ様も煙幕の機会を壊せと言ってから、行方が分からないそうです――私は気が気でないんです。王女殿下が心配で……」


 そう話すディナールは目に涙を浮かべていた。

 実のところは彼女もわかっているのだ。この状況でいくら心配しても仕方がない事だと、自分もヴェローナも王女を助けることはできないのだから。

 彼女はむしろ、責められたかったのだ。自分の責任とその罪の重さを感じるために。

 自分が目を離さなければ、ヴェローナが言う通りなら、敵に殺されていたかもしれない。だがむしろその方が良いと思えた。

 ディナールにとってはこのような状況になるぐらいなら死んだ方がましなのだ。


「……ディナールさん……」


「すいません。少し、外の空気を吸ってきます」




 ディナールと別れた後、ヴェローナは自室で頭を抱えていた。

 今のヴェローナにはどうしようもできないことであることは確かだった。王女を誘拐した犯人が今どこに逃げたのかもわからないのだ。

 ディナールはヴェローナに対して、どうしてそこまで冷静なのかと言っていた。実際誰から見てもヴェローナは冷静そのものだった。

 しかしそれはヴェローナの諦めによるものだった。

 確かに、可能ならば王女を守るべきだ。しかしこうなってしまえば、もはや自分にはどうしようもない事で、諦めるしかないことだ。

 ”諦め”の言葉が頭の中で響き回っている。

 その言葉はヴェローナにとってとてもなじみ深いものだった。


「……俺は、まだ諦めていないのか、俺の頭にある言葉は、諦めていないから頭に響く音なのか……」


「ヴェローナ様、良かったここに居たんですね。言われた通りにあの時裏口付近に居た通行人を探してきました……あ、あの、お邪魔でしたか?」


「なんだ、ネイか、俺は大丈夫だ。それで、通行人は何と?」


「はい。確かに馬車が出て行くのを見たと、ただそれがどこに行ったのかまではわかりませんでしたが……」


「そうかそれで十分だ。それで、もう十分だ」


 ヴェローナは目を閉じて、ふと昔の事を思い出していた。

 この城に来た時の事。異国の地での人質としての生活。自身の素性を話すことすらも許されず、外に出ることも、何も変えようがない日々。

 どれだけ自身が気高く在ろうとしたとしても、最後の得る物は()()という言葉だけ。

 そして今回も、その諦めの一つになる。

 それは簡単だった。このまま何もしなければいいのだ。責められることは無い。元々ヴェローナは王女を守る義務はない。もちろん助ける義務も無い。


「あ、ヴェローナ様。ネイ、良かった。やっと見つかった。一体何があったんですか?――あ、俺さっきまで地下に居て、さっきやっと脱出してきたところ何ですけど……」


「――ユウか、そうか地下に居たのか、俺はてっきりどこかで死んでるのかと思ってたよ――なあ、ユウ。少しお前に聞きたいんだが、お前にもし、誰か家族でも、長い付き合いというわけでもない、けれども何か、気になる、というか放ってはおけない人間が居たとしよう」


「え、いきなりですね」 


 ユウは考えた。しかし考えるまでも無く、一人の人の名前と顔が頭で浮かんだ。ニーア、今もまだ、診療所のベットの上に居る。ユウにとって最も大切な人物だ。


「その人間が今、どこかに行ってしまったんだ。どこに行ったのかはわからない。ただ普通の状況ではなく、連れ去られたような、そんな状況だったんだ。そんなとき、お前ならどうする?」


「――俺ですか。そんなの当然、地の果てまでだって探すに決まってるじゃないですか――……その、なんていうか俺もほんの少し前、そう言うのに近い状況になったことがありまして――その時の俺は最初は俺自身に言い聞かせてたんですよ、()()()って。俺自身の望みを、諦めろって鎖で縛っていたんです――でも、きっとその時諦めていたらその鎖から未だに抜け出せないまま生きていたでしょう――……その、だから、もし、ヴェローナ様も同じ状況だったのなら、探すべきだと思います。あ、まあ、後半は気にしないでください……あ、あの?」


 ユウは心配になった。ヴェローナはユウが答えるのを聞いているうちに、突っ伏してしまっていたのだ。ユウは何か不味い事でも行ったのかと思ってネイの方を見たが、ネイの方も、にやにやと笑っていて、ますます不安になった。


「……ハ、ハハハハハ。ユウ、お前、最高だな。ハハハハハハ。ハァー。お前に言われなくても、俺はそうしてやるさ、俺は王となる人間だぞ。お前のような凡人が言う前からとっくにそう考えていたに決まっているだろ。は、まったく、ハハハハハ」


「え、俺なんで、disられてるんだろう――な、なあ?ネイ、俺やっぱりなんか言っちゃったのか?」


 ヴェローナはこれでもかというぐらいに高笑いして、そしてそれにつられるようにネイも小さく笑った。そのことに困惑するユウだったが、ただ、次第に自分が笑われているのではないことは理解した。

 ヴェローナは、まるで、何かを笑いで吹き飛ばすようにしばらく笑い続けた。そして――


「諦めてなんかやるものか」


 小さく、何かユウたち二人には聞こえないほどの声で呟いた。

 ただその一声は鎖を断つには十分だった。

ヴェローナ達は道の先で光を見るか、それとも闇を見るか。

鎖は未だある。だがそれは導きの糸なのかもしれない。

次回。第十六話:光に向かい進む

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