第十五話:到達しえない旅路・1
ここが何処か、それすらもわからない。
ただ一つ言えることは自分が無力で、可能性の札を配られることも無いということだけ。
ヒエラル達の作成通り、王女の誘拐は成功した。そして今はもうそれさえ遠くに行ってしまって。ただ積み上がった過去が残されただけ。
王女の誘拐の実行犯。ヒエラルとフォルトゥナ、ネスは所属する隠れ家の一つで集まって談笑している。
「なあ、この仕事終わったらさ――」
「まだ終わってない」
「まだ言ってない。いや、確かにまだ終わってないよ、確かに。だけどなもう、あとは引き渡すだけだろ?ヒエラル」
「はぁ――で、この仕事が終わったら何だというんだ?フォルトゥナ」
「お、乗り気だな」
「話を聞くだけだ」
「この仕事終わったらさみんなで旅行にでも行かない?」
「は?意味が分からない」
「そりゃあ、長く潜入して疲れたからどこかに遊びに行きたいんだよ、きっと楽しい――はずだ」
「ああ、それは良かった。だが俺は忙しいんだ。付き合えない」
「え~。付き合い悪いな」
「行きたければ一人で行けばいいだろ」
「そんなこと言うなよ。それにネスも行く気だぞ」
「それは珍しいな。本当か、ネス?」
「……ネスは、ヒエラルが行くなら、行く」
「な?言った通りだろ。みんな賛成だ。あとはお前だけだぞ」
「とてもそうは思えない。――が、話だけは聞いておこう」
「やった。後は行き先だけだ。私は海が良いな、あと景色が良いところなら言うことなしだ」
「お前、話聞いてたか?誰も行くとは言ってないだろ」
「良いだろ別に、こんな大仕事を終えたんだから少し休んでも。なぁーネス?」
「……うん。海、行きたい。ネス行ったことない、から」
「よし、決定。というわけでヒエラル。詳しい場所やその他は任せる。良い場所調べといてよ」
「いや、待て……はぁ、わかったわかった。気は進まないが、ネスも行きたいと言っているなら、付き合おう」
もはや行かないとヒエラルも言えなかった。ネスはまだ見ぬ海の光景に目を輝かせていたのだ。
「……それはそうと、そろそろ王女の様子を見に行くぞ?」
「わかった」
ヒエラルは今自分が気を抜いている気がした。確かにあとすこしで計画は成功する。だが――
「はぁ、このままうまくいけばいいが……」
ため息をついて、ヒエラルは階段を下りる。
自分は今どこにいるのか、詳しい場所はわからない。
ただ、今いる場所が地下室の、檻の中に居ることは確かだった。
檻には鍵がかけられている。外に出ることはできない。
ただしこの狭い檻の外に出たところで、建物から脱出することは困難で、そこから更に安全な場所まで行くのはより困難だろう。
早々に、王女は檻からは出られないことを理解し、脱出しようなどとは考えられなかった。
今王女は檻の中にあった一つの木の椅子に座っている。王女には少し大きかったが、地べたに座るよりはましだった。
「おーい、お姫様。大人しくしてるか?」
部屋にある唯一の階段から人が二人降りてきた。
その内の一人は隻腕の男で、王女には面識が無かった。しかしもう一人は城で働いていた使用人で、名はフォルトゥナといったはずだ。
だがその裏切り者の事などもはやどうでもいいことだ。
二人は下りてきて王女に話しかけたが、しかし決して王女は返事をすることは無かった。
このような状況であっても相手の思い通りにすることは無いのだ。
ヒエラルも言っていたことだが、人質として誘拐したのであればその価値があるうちは危害を加えられることは無いだろう。
ヒエラルたちの目的が金か、人か、物か、どの道王国は交渉に応じるはずだ。少なくとも見捨てるはずはない、王女にはその確信がある。この国の王は自分の父親なのだから見捨てるはずはない。
そのため、多少の不安はあっても、身に危険があるほどではない。
「……無視か?まあ、知らない奴に話しかけられたら誰だって警戒するか。それも自分を誘拐した人間相手なら当然か」
その男は返事をしない王女に呆れるでも、怒るでもなく、ただ少し困った様子だった。
「ヒエラル。話しかけても無駄なんじゃない?それに準備ができたらどの道すぐにお別れだし」
「まあ、それはそうだな。だが最低でもまだ一日もあるんだ。いい関係を築きたい。だろ?」
「はぁ、まあそれはそうだな、暴れられても困るしな。で、良い関係を築くためにはどうするんだ?私にはさっぱりわからないんだけど」
「ああ、大丈夫だ。私に任せてくれ。ところでフォルトゥナ。確か、お前はトランプを持ってたよな?それを借りて良いか?」
「持ってるけど……あ、そう言うことね」
「そう言うことだ。年齢も身分も違うとしても、共にゲームをすることはできる」
「なるほど、それでゲームは何をするんだ?ポーカー?」
「そうだな。それで行こう――お姫様?どうだ。我々とゲームをしないか?――別に勝とうが負けようが、何もないがね。我々も待つだけでは暇なんだ。君もそうだろう?」
「……わかりました。やりましょう」
「おー、良かった、良かった。やっぱり、ゲームはみんな好きだものね。流石ヒエラル」
王女がそのゲームに乗ったことで、檻の中に和やかな雰囲気が生まれた。
そのことで王女も誘いに乗って良かったと思った。そしてさらには、自分が思うほど目の前の二人が悪人ではないのかもと思い始めた。
だが勝負は勝負だ。これで勝てば二人に精神的優位に立てる。そう考えれば、やる気も出てきた。
「それで、ルールはわかるか?」
「大丈夫です」
「よかった。チップは……お、丁度良いところに釘入れがあった。これを使おう」
「親はどうする?」
「お前からでいい。さぁ、始めよう。カードを配れ」
フォルトゥナはカードを切り、それぞれに5枚のカードを交互に配った。
だが、それには王女におかしなものであった――
「レイズ、二枚……ってこの場合なら二本か。ヒエラル。あんたはどうする?」
「コールだ。二枚交換」
「わかった。こっちは交換は無し」
「よし、なら勝負だ。私は10のペアだ」
「――残念。7のスリーカード。あたしの勝ち」
ゲームはフォルトゥナが勝利し、賭けた釘が移動する。そのことは問題ではない。問題ですらない。
一番の問題はこのゲームにプレーヤーといての王女が組み込まれていないことだ。
「……あの……私のカードは?」
この状況に不安が募る。わからない。なぜこんなことをするのか――
「――三本だ。元賭け一つと二つ賭けた。合計三つ――」
フォルトゥナは三本の釘を手に取った。そしてもう片方の手には金槌を持っている。
ゆっくりと、王女の座る椅子へと向かって来る。
「――……近づかないでください。一体、それで何をするつもりなんですか?」
王女の制止も聞かず、フォルトゥナは王女の白く小さな手を取った。
逃げたい。この場から逃げようと王女は椅子から立とうとする――しかし、だめだ。まるで金縛りのように椅子の上から体が動かなかった。
「うぐぅぅ」
釘の一本が、手に突き刺さる。
その瞬間、時が止まったような感覚とともに、痛みが手から体を駆け抜ける。
「や、止めてください。どうして、こんなことを――」
――ガンッ。と、二本目が突き刺さる。
泣き叫ぶほどの痛み。しかし、なぜだか体は動かせない。
そして三本目――
結局、ゲームはそのままフォルトゥナの勝利で終わった。
手に穴をあけた二人はいつの間にかいなくなっていた。階段を上って帰って行ってしまったようだ。
王女の手にはいくつもの穴が開いた。痛み以外の感覚はもう何もない。
しかし王女をより絶望させたことはその痛みではない。
王国が、父王が交渉に応じる限りは自身の身は安全であるはずだった。
「……うっ、うぅ――どうして、お父様は――私を、見捨てたのですか……」
それは逆に、今のこの状況で交渉が行われていないことを示していた。
果たして、残された者たちは何を思うのか?それはまた次回。
もし叶うのなら、この旅路が到達しうる旅路であらんことを……
年末年始って忙しいよね。




