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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第十四話:escape・4

前回までのあらすじ。

ユウが城で働くことに成ってからしばらくたった。

町の住民が明日のパレードに浮かれていたある日の昼頃、突然城を煙幕が覆った。それはユウを城に送り込んだ謎の組織のヒエラル達の仕業であった。

僅かな時間でヒエラルたちは城を混乱に陥れ、侵入に成功した。しかしその侵入を英雄、ドンレミや今は無きヨーライック王国の元王子ヴェローナ等によって退けられた。

煙幕は消えはじめ、敵を打ち払い、城の危機は去った。だが……

 煙幕が城を覆い、緊急事態を察知したヴェローナ達によって、王女の部屋を最後の砦として、二重のバリケードを作った。しかし、それも壁を上るというアノミーの奇策によって打ち破られた。それによって王女たちは最後の逃げ場となる王女の部屋の奥、いつもは王女が絵を描くために使っている部屋まで追い詰められた。


「フォルトゥナ、ネイ。伝えていただいてありがとうございます。急いでバリケードを作りますよ。時間を稼げば、いずれ助けが来るはずです」


「ディ、ディナール。その……絵を……」


「すいません。王女殿下。絵ならまた描けます。ですから、お許しください」


「……はい」


 自身の部屋にあった物を、書いて来た絵や道具をすべてぐちゃぐちゃにするということに王女は気が進まなかった。しかしディナールは強引に王女を納得させた。

 一緒に居た使用人のネイは思った。今この状況でディナールは取り乱してもおかしくは無いはずだ。と。だがディナールは冷静だった。

 それはディナールが、今ここで自分が冷静さを失えば、それが王女にも伝わり不安にさせてしまうと、心の深いところで無意識的に考えていたからだ。


「フォルトゥナ、ネイ。手伝ってください。急いで、敵が入れないように何でもいいので壁になりそうなものを置くんです」


 ディナールは最後に残された使用人、ネイとフォルトゥナに王女を守るための指示を出した。




 しばらく、時間が経った。扉には数メートルも紙や画材が積み重ねられた。

 すると、ドンッ、と。扉が大きく叩かれた。そして、まるで斧や鉈で破壊するような音が鳴り始めた。

 その音でネイやフォルトゥナ、ディナールも手を止め、もう扉を破られるのも時間の問題だと確信させた。


「……ディ、ディナールさん、あ、あの」


 ネイがディナールに意見しようとした。ネイはユウから聞いて知っているのだ。王女のこの部屋には隠し通路があると、しかしその詳しい行き方を知らなかった。それにそれを調べた方法も、王女やディナールに伝えていない、不法侵入に近い方法だった。だから緊急事態といえど、それを使おうと言うことははばかられた。


「ネイ、わかっています――王女殿下、教えてくださいませんか?隠し通路を。この状況で、あなたを守るにはもうこの方法しかないんです」


「で、でも……わ、わかりました。な、何も、何も言わないでくださいよ」


 自分の不甲斐無さを実感したように、ディナールは唇をかんで、不安という圧迫に押しつぶされそうだった。




 

「はあ、まさかこんな仕掛けがあったなんて、俺、びっくりですよ」


「ネイ、くれぐれも言わないでくださいよ」


「あ、は、はい。もちろんですよ」


 隠し通路が開かれて、王女とフォルトゥナの二人が隠し通路に入る。


「あ、あれ、この明かりは……」


 先導していた。ネイがそこにあるはずのない明かりに驚いて、その明かりの見えた先に行ってしまった。それが王女の隠そうとしていたものに悪気無く近づくことであるとは知らずに。


「……こ、これは一体どういうことですか?王女殿下?彼は一体誰なんですか?……こ、答えてください、こんな時に言うべきことではないのはわかります。ですが」


「……ご、ごめんなさい……こ、この人は私の、この人は私の大切な人なんです」


 王女はこの緊急時にあって、最も近い友人でさえ知らない。ただ一つの守るべき秘密を打ち明けなければならなかった。




 ムクロイナ王国第一王女。カプツィナ・パーブム・ムクロイナは秘密を持てない人間だった。

 生まれた時から彼女の身長、体重、性格、成績、読んだ本から食事、果ては足の爪の長さに至るまで、本人しか知らないことは何もなかった。

 しかし彼女は秘密を望むようなことは無かった。それは当たり前の事だったからだ。尊敬する父もそうだったなら当然だと彼女は考えていたのだ。

 しかし、そんな彼女にも一人の人物との出会いがあった。

 初めて出会ったのは彼女が10歳の時、幼少期を過ごした王宮でのことだった。

 その人物は当時、宮廷絵師として王宮で働いていた。しかしそれも一時的なもので仕事が終わればすぐに城を去った。

 その人物は謎の多い人物だった。見た目は3、40代の男性。

 しかし、正確な年齢は不明。家族が居るのかも不明、決まった仕事も無く、決まった住居も無い。奇妙な、しかし王宮に召集されるほどの、腕は確かな男だった。

 幼いカプツィナはその人物にとても引かれるものがあった。恋愛感情などではない。それはいうなれば奇妙な男への興味だった。

 カプツィナは度々その男の仕事場を訪れた。しかしそれがに三度目になると、突然その男は自身の仕事場に許可なく入って来るカプツィナに、まだ子どもであり、そして王女であるにもかかわらず激高し、仕事を止めると言って出て行ってしまった。

 結局、王女は仕事をしている彼の傍に行くことを禁じられ、絵は無事に完成し、カプツィナとその男とはまともに会話することも無く、ただそれでいてカプツィナに深く印象を与えた。




 それから時は流れ、カプツィナが15歳の時、その絵師の男とカプツィナは自身と同じ名の町で再会を果たした。

 しかし、再会を果たした絵師はカプツィナの知る5年前の姿とは全く違っていた。それはまるで合わなかった時間が5年ではなく、20年か30年であったかのように感じられるほどに老け込んでいたのだ。

 幼い日の記憶が蘇る。かつて抱いていた興味と好奇心とが、再び出会えたことは運命であるとさえ思わせた。

 そしてカプツィナはその男を他の誰にも言わずに城の中に招き入れた。

 話をした。

 しかしその男は昔と変わらず、自身の事は離さなかった。どうやって生きてきたのか、家族はいるのか、なぜこの町に居るのか、謎は何時までも謎のままだった。

 だがカプツィナは諦めなかった。何とか話をさせようと様々な手を打った。自分の話をした。城の話をした、町の話をした。しかしそれでは駄目だった。

 次にカプツィナその男に再び絵を描いてもらうことにした。カプツィナの中にはその男について知っていることはそれぐらいしかなかったのだ。

 しかし、それも失敗だった。無理を言って道具を揃えさせ、場所を整えたが、男は筆を執ろうとはしなかった。

 だが、一つ収穫があった。カプツィナは男を匿っていることは誰にも伝えていない人生最大の秘密だった。

 その為揃えさせた道具も自分で使うと言って集めていたものだ。にも拘わらず使わないわけにはいかない。カプツィナは好きではなかったが絵を描き始めることにした。当然初めは全くうまくいかなかった。しかし、その男はカプツィナの絵に興味を持った。これをカプツィナは好機と見た。それからカプツィナは男に絵を教えて欲しいと頼み、男もそれを了承した。




 しばらくの間、二人の秘密の関係は続いた。

 しかし、それはその男の容態の悪化によって終わることに成った。よくよくカプツィナは考えた、男が何故自身の技術を伝えようとしたのか、それは自身の死期を悟ったからではないか。

 カプツィナにもその男にもどんな病に侵されているのかわからなかった。しかしカプツィナはそのことを誰にも話せなかった。無理を言って絵を描く道具を揃えさせ、部屋を用意させたことで、周囲の使用人は誰も彼女と関わろうとしなかった。友人のディナールに話すことも考えた。しかし、もしその男を隠していることが知られれば、病を治すどころではない。

 病の進行は止まらなかった。迫る別れの日は近づいて行った。

 そして、結局今の事態になって初めてそれが知られることに成った。


「……そんなことが、あったんですか……あ、あのディナールさん、王女殿下は別に悪気があったわけではないようですし、そのですから……」


「ですから、許せと、そう言いたいんですか、ネイ?」


 王女は目を合わさず、何も言わなかった。


「……あ、あの、す、すいません。俺は別に」


「ネイ、何でもないんです。何でも……出入り口を確認してきます。万が一敵がここに気づいたときのために対策をしておいて損は無いでしょう。それでは」


「あ、待ってください。俺も行きます」


 ディナールは言葉にはしなかったが、確実に震えていた。それは実際には王女が自身に隠し事をしていたということに対する怒りでも悲しみでもない。ただ、ほんの少しだけ王女を見直しただけだった。

 しかしネイは自身が何か不味い事を言ったのではないかと勘違いして、扉に戻ったディナールについて行った。

 



 二人が一時的にその場を離れ、その場には王女とフォルトゥナが残された。


「王女殿下、大丈夫ですか?」


「……別に、なんてことはありません。それよりここは安全なのでしょうか?本当に敵はここまで来ないのでしょうか?」


「王女殿下、安心し……いえ、確かにもう敵はすぐそこまで迫っています。ここも安全ではないかもしれません」


「……私は、怖いです。敵は私を狙っているんでしょう?私の所為でみんなが悲しむなんてこと、私は嫌なんです」


 王女は不安だった。そして怖いと言った。


「……あの、王女殿下。私に妙案があります。ここに居るよりも安全で、そして敵に決して悟られない場所があるのです」


 フォルトゥナにはその不安を、恐怖を取り除くすべがあった。 

 そしてその提案に王女は乗った。少しでも今の状況がよくなるならと、そう思ったからだ。




 

「大丈夫ですか、王女殿下?」


「はい、心配には及びません。ここは良く通りますから。それよりまさかこんな方法、思いつきませんでした。これなら上を目指す敵には絶対に気づかれませんね」


 フォルトゥナの提案に乗って、少々の不安を取り除かれて、王女はその安全な場所へと向かっていた。


「……はぁ、良かった、無事にたどり着きました。ここは確かに煙幕も無いですし、敵も居ないようですね。良かった、本当に良かった」


 王女は自分が安全圏に出たと確信し、大きく息をして安全な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。


「王女殿下、確かにここは安全です。しかし出入り口近くに居ては敵が出て来るかもしれません」


「あ、はい。そうですね、どこかに隠れていませんと」


 王女は安心しきって、辺りを見渡した。そこには城を覆っていた煙幕はかかって居なかった。

 その場所こそは絶対に敵が目指すはずのない場所だ。

 なぜなら敵は真っ先に城の中に入る。それは敵が目指すのは城の奥にある場所だからだ。だからこその盲点、場所は城の裏口、最も城の中心から遠い場所。

 隠し通路から、王女とフォルトゥナは外に出た。しかしただそこに居るだけでは逃げてきた敵に見つかる可能性がある。


「はぁー、でもディナールは大丈夫何でしょうか?私一人ここに隠れてしまって少し悪い気もします」


「王女殿下、それは大丈夫です。ディナール様もあなたを守るために行動しているのですから。さあ、手を」


 二人は裏口に止めてあった馬車の一つの中に隠れることにした。フォルトゥナは王女に手を差し伸べて馬車の中に引き入れた。


「はぁー、疲れました。でもこれでいいんですよね、私が逃げ延びればそれですべて解決――へ?あ、あの、そ、そこの人、そこに居るのはだ、誰ですか?なぜ、この馬車の中に血だらけの人がいるんですか?その人の右腕、はどうしたんですか?」


 王女はつかの間の安心から、一気に不安に押し寄せた。なぜならそこに、誰も居ないと思っていた馬車の中に人が居たのだ。それも城の使用人でも、客人でもない。右腕が無い男性だった。


「……なあ、もう準備は済んだのか?」


 隻腕の男が、尋ねる。しかしそれは王女に言ったのではなかった。


「まあ、大体は。それよりその腕どうした?」


「少し、面倒なあたりを引いてな。死にかけたよ、応急手当は澄んだ。ここまでこれたのはネスのおかげだ」


「そうか、なら、残りはアノミーだけだな」


 フォルトゥナと隻腕の男は王女を無視して、親し気に話をしている。


「ネス。準備できた。敵、いない」


 王女が居る方と逆の扉から、小さな女の子が馬車に入ってきた。


「ああ、ご苦労様。すまないな、この状態では私にはできないんだ」


 その小さな女の子は、フォルトゥナたちの間にちょこんと座った。と、言うところで王女は気づいた。その小さい女の子が城の使用人の制服を着ていることに。


「……あ、あの。そろそろ、教えていただけませんか?その男の人は誰ですか?こ、答えてください」


 王女はいまいち状況が呑み込めないまま、フォルトゥナに聞いた。

 すると――


「悪い、待ったか?」


 少年だった。それが誰なのかは王女にはわからなかったが、その少年は今いる馬車目掛けて一直線で向かってきたのだ。


「あ、やっと来たか、遅かったなアノミー」


「げ、フォルトゥナ」


「別に気にする必要はないぜ、これで計画通りだからな。もっとも、王女を誘拐するなんて自分独りで十分だ。ってお前が言ってたのは確かだからな」


「くっ、邪魔がなけりゃ……まあいい、今回は俺の引き分けにしておいてやる」


「いや、アノミー。お前の負けだろ」


「うるせぇ」


「はぁ、お前ら、騒がしいぞ。もう全員そろったんだ。とっとと撤収するぞ」


「へいへい、って。ヒエラルお前その腕どうした?しくじったのか、馬鹿っだな、やっぱお前もそろそろ引退……あ、いや。なんでもねえ」


「わかればいい」


 王女にはわからなかった。その、ヒエラルと呼ばれた男の事も、そして今自分が危機に瀕しているのではないかということも。

 あまりに状況が突飛すぎて、いまいち実感がわかなかったのだ。


「あ、あの、い、今あなた達は、ど、どこに行――」


 王女はその四人に尋ねようとした。しかし、その言葉は途中で切れた。その四人のうちの一人、フォルトゥナが強引にその口を塞いだのだ。首を息ができないほどに握るという手段で。


「……あのさ?お姫様はさ、馬鹿だとは思ってたけど今の状況が言葉で言われなきゃわからないぐらい馬鹿だったっけ?うるさいから口、閉じてろよ。次何か言った、痛い目に合わせてやろうか?」


「フォルトゥナ。余り無茶するなよ、死んだら意味がないだろ」


「わかってるって。ちゃんと加減してるから。ぎりぎり息はできるぐらいにやってんの」


「そうか、ならいい。まあ、お姫様も楽しもうじゃないか、馬車の旅を」


 そして、馬車は城を出た。未だ煙幕で混乱している城内ではそれに気づく者はいなかった。

 どんどんと城が遠くなっていく。王女は首を絞められたまま、身動き一つ許されずに、そして馬車はカプツィナの街を脱出した。

第十四話を終了。

王女が誘拐を許し、城の住人たちはどう行動するのか。

次回、第十五話:到達しえない旅路。


今年中にこの話の一区切りをつけて新章へ行きたい(意気込み)

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