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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第十三話:命に繋がる扉・3

ユウは迷い、そして地下へと降りる。

そこで待つのは天使か、悪魔か。

 今日はパレードが前日。前日と言ってもユウ達は特にこれまでと変わることなく普段通りの空気が流れていた。

 ユウとネイは物置に来ていた。

 すると、突然ユウがネイを引き留めた。


「どうしたんだ。ユウ?目的の物は見つかったんだし、早く行こうぜ?」


「いや、ちょっと待ってくれ」


「何かあったのか?」


「少し話しをしないか?」 


「話し?まあ別にいいけど。ただ、なんで明かりを消そうとしてるんだ?」


「まあ、気にしないでくれ。なんていうか儀式みたいなものだから」


 ユウは明かりのレバーに手を掛け、それを下げた。そして――


「……なんで一度消した明かりをまたつけたんだ?」 


 ネイが驚くのもおかしくは無い。明かりを消してつけることに何の意味があるのかわからなかったのだ。ただ、ユウにはこうすることに明確な意味があった。

 物置の中には小さな使用人が住み着いている。その名はネスという。彼女が普段物置の中で何をしているのかユウは知らなかったが、物置の中で明かりが消えた時に決まって現れていた。

 ただ、今回だけはネスがその場に現れることは無かった。


「……ネス、今日はいないのかな」


「だから一体どうしたんだよユウ?見たところ何もないみたいだけど」


「まあ、気にしないでくれ。一応他に誰かいないか確認しておきたくてさ。この感じだと他に誰も居ないみたいだ」


「そうだな。で、そんなに人に聞かれたくない話ってことは、ヴェローナ様の事か?」


「話が早くて助かる。ネイは本当にあの人の策がうまくいくと思うか?……その、つまり本当にあの人の仲間になるのか?本当に」


「何だよいきなり。まあ、別に悪くは無い話しだろう。金はともかくノーブムの暗殺を指示した奴の弱みは握れるだろうから、あの人はきっとそれをうまく活かせるはずだ。それに……」


「それに?」


俺たちの国(ヨーライック)にはまだ王族を支持する人間が居る。ヴェローナ様は別に昔みたいな王様にはなるつもりはないと思うけれど、その支持だってうまく利用するはずだ――それに。俺だって、誰に仕えるのか選べるなら選びたい」


 ネイはヴェローナを信じていた。そして信じたかった。それはネイが昔、代々仕えてきた一族が無くなった事で家族がバラバラになった経験が反映されての事だった。

 そして、そのことでネイは相当な苦労をしてきたはずだ。遠い異国の地で、間接的に自身の家族をばらばらにした国で働いているのだから。そこに疑問もあったはずだ。辛かったはずだ。だがそんなときにヴェローナが居れば、ヨーライックの王子が居れば、王女に着くより、ヴェローナを選ぶことは当然だった。


「そうか、ネイにはそんな理由があるんだな。俺にはネイほどの理由は無いんだ。ただ、自分とその大切な一人の人を守るためには金と権限が居るからというだけで。だから、その、俺は本当は迷っていたんだ。いや、今も迷っている。もしヴェローナ様が失敗したらと思うと不安で」


「なるほど、だから俺に聞いたわけか。安心しろよ、あの人は自分では立場が弱いと言っているが、きっと大成する。少なくとも王女よりかはその素質がある。まあ、仮にもしうまくいかなかったとしても俺は最後まであの人に着くけどな、そんなことは無いだろうがな――あと、お前は金のためにヴェローナ様に仕えることに負い目を感じているだろう?」


「それは……少し」


「気にするなよ。俺は別に気にしていない。俺は俺の意思でやっているんだ。それにお前はおかしな奴だが、悪い奴じゃない。っと俺は勝手に思っているんだが違うか?」


「……ありがとう。ネイ」


 ユウは感謝したかった。未だにユウはヒエラル達を裏切ってまで、完全にヴェローナに付くか決めかねていたのだ。ユウはまだ自身とヒエラルとの繋がりについて何も話していないのだ。

 だが、今。ネイと話して分かった。ヴェローナに付こう。知っていることを全て話して仲間に成ろう。そして仲間に隠し事はしてはいけない。


「話は終わりか?ユウ」


「あ、いや。そういう訳じゃない。実は、俺にはネイやヴェローナ様に言っていなかったことがあるんだ。俺は実は――」


 ユウは話そうとした。しかしその時物置の外から何か、ドンッ、っと破裂したような轟音が響いた。

 ユウの声は遮られ、二人の関心もその音のした外へと向いた。


「……なあ、ユウ。その話後でもいいか?外で何かあったのかもしれない。ちょっと見て来る」


「あ、ああ。俺も行くよ」


「気にするな。少し、外を見て来るだけだから。ここで待ってろ。どうせさっき話そうとしたことも誰かに聞かれたら不味い話なんだろ?」


「……わかった。待つよ」


 ユウはネイを見送った。物置の奥にネイの背中が消えていく。




 ネイが外の様子を見に行ってから、どれほど時間が経っただろう。5分か10分か。どの道ただ見に行くだけにしてはもう時間が掛かりすぎていた。


「ネイ。遅いな。何かあったのか」


 ユウは物置の床に座り込んで、壁をぼーっと眺めていた。壁には明かりを点けるレバーと棚と、隠された扉があった。その扉はこの前ユウがネスに連れられて一度入ったことがある扉だ。

 そんなユウの背後で、何かさっきとは違う大きな物音がした。それは強引に扉が破られるような音で、そしてそれに続けて、誰かが物置に入ってきたようだった。ユウは無意識的に危険な気配を感じ、棚の陰に隠れるように様子を伺った。


「……一体誰が?……」


 ユウはそこで見たものに言葉を失った。そこには頭を落とされた胴体だけの遺体が床に転がっていた。そして近くにはその人物のものらしい頭もあった。それも、さっきまで確実に生きていたような微かに生気を残した表情だった。


「……ネイではない。が使用人だ。いったい何が……いや、そんなこと言っている場合じゃない。この人を殺した奴は外に出て行ったのか?それとも……とにかくここにとどまるのは危ない」


 この名も無き遺体はユウにこの場に居てはならないと告げているようだった。

 ユウはその場を離れた。高鳴る心臓を押さえながら冷静に、慎重に。


「これも軍の仕業なのか?ノーブムと同じように、それとも別の……」


 ユウは考えている暇は無かった。この場に留まることはできない。しかしかといって物置から堂々と出て行けば殺人犯と鉢合わせになる可能性もあると考えれば正面の扉は選べなかった。

 だが、ユウにはまだ残された道があった。それは地下へと繋がる隠し扉だった。

 ユウは今、こうして命に繋がる扉を超えて、地下へと再び足を踏み込んだ。




 どれほど歩いたか、ユウにはわからなかった。だがこの前と違い確実に出口に近づいている。その確信があった。


「それにしても、いったい何があったんだ?あの遺体の切り口、ノーブムの時と同じ、いやそんなことどうでもいい。とにかく外に出て、このことは見なかったことにしよう。いや、それともヴェローナ様には言うべきなのか?」


 ユウは自分に言い聞かせる様に言った。ユウの見た光景がこの前のノーブムの事と同じようなことで、今回はそれに偶然居合わせただけだと。思いたかったのだ。 

 荒唐無稽なただ自分に都合の悪いだけの考えがユウの中で思い出された。王の紋章。ユウも何度かこの城に来てから見たことがある。その紋章の刺青をした人間がこの城には居る。

 ユウがこの城に入る間にヒエラルがその人物に気をつけろと言っていた。その人物の事を今の今まで頭の隅で認識していた。あるいは隅に追いやっていたのだ。都合の良いように。

 しかし今の決して良いとは言えない状況下で追いやった認識がまた中心に戻ってきた。


「そんなのは関係ない。そうだ――けど、なら何故ヒエラルは俺にそんなことを言ったんだ。冗談や無意味なことを言ったのだとは思えない」 


 自分で自分の不安を煽るような言葉をユウは口にした。それが今考えるのに適していることではないし、考えるべきではないとさえ言えることだった。


「とにかく、そろそろ外に出られるはずだ。こんなことはまたいつか時間があるときに考えればいいんだ」 


「へー。こんなことって、どんなこと?ユウ」


 ユウはその一瞬、角を曲がる死角となる場所に人が居ることに気が付かなかった。しかしそれよりもそこに居た人物が何故ここに居るのか。そのことが問題だった。


「エリーさん。どうしてこんなところに?」


「……そんなに驚くな。お前も外の騒ぎから逃げてきたんだろ?」


「外の騒ぎ?」


「何だ、違うのか?さっきからよくわからない音と、煙みたいなのが上がってたぞ。気づかなかったのか?」


「気づきませんでした」


「とにかく外は大騒ぎで、私も騒ぎに乗じて逃げてきたんだ。まさか、宿舎に隠し通路があるとは思わなかったが……今は緊急事態だ。しばらくは一時休戦でここに隠れていようぜ?」  


「……はい。あ、いやいやそれよりネイが外に出て行って、外がそんな騒ぎなら心配です」


「心配?まあいいや、戻っても外に出られないから、あたしも一応出口が知りたかったし。知ってるだろ?出口」


「はい、知ってますけど、どうしてそれを?」


「直感だ」


 ユウはエリーと共に出口を探した。しかしどこかで道を間違えたのか、ユウの知る出口にはたどり着けなかった。今更だが、ユウは自分が方向音痴なのかもしれないと、そう思い始めた。


「……おい、ユウ。お前さっきもここ通らなかったか?」


「……そ、そんなことありませんよ。もう少しです、この先何です」


「お前、ふざけてんのか?出口を知ってるって、お前言っただろう?」


 エリーはどこか苛立った様子で、ユウの背を今にも殴り掛かりそうなほどに睨みつける。

 ユウも背後からの視線に危険を感じ、少し早歩きになって距離を取った。

 今いる場所がユウにはわからなかった。しかしここが地下である可能性が高いと思った。なぜなら今ユウ達がいる道は天井から水が染み出ていて、足元に水たまりを作っていたのだ。


「おい、無視かよ。お前、あたしをこんな暗くて汚い場所に連れて来てどういうつもりだ?」


「……すいません、道に迷いました」


「やっぱりか――」


 以外にもエリーは怒らずに呆れたようにため息をついた。と、ユウは思っていた。


「よし、殺そう。そうしよう、ここなら誰にも見つからないだろうし」


 エリーが小さくそう言ったのを合図に、ユウはさらに大きく距離を取った。

 距離を取ろうとしたユウに、エリーは水たまりを蹴散らしながらユウを追いかけた。ユウもエリーが走り出すと同時に走る。こうして、地下でいきなりの二人鬼ごっこが始まった。が、始まったというところでエリーは足元の何かにつまずいて水たまりに頭から倒れてしまった。

 水が跳ねる音と、エリーが地面にぶつかる音にユウは足を止めて、振り返った。エリーは水たまりに浸かったまま、うつ伏せになっていた。


「……あの、大丈夫ですか?――あ、ここ、木の根が見えますよ。ここは多分大きな樹の下なんですかね。仕方ないですよ、俺も気づきませんでしたし――あ、あの本当に大丈夫ですか?」


 ユウはエリーが立ち上がらないのを見て、いじけているのだろうかと思って、エリーに気を使って、話しかけた。

 だが、それに対して何も言わずにエリーは立ち上がった。


「……昔庭に生えてた古い木だよ。この辺は水はけが良いから、地面に深く広く根を張るんだ」

 

 エリーは服についた泥を払うような動作をしながら、これまでユウが見たことも無い落ち着いた口調で話し始めた。


「へーそうなんですね。く、詳しいですね」


「別に、毒があるかどうかだけ気になって調べたんだよ。毒が無ければ食える。だからだ」


「はあ、はい」


「……頭が冷えた。はぁ、あたし何やってんだろな、こんなことやってる場合じゃないのにな」


「あ、あの」


 エリーは頭でも打ったのか、今ユウの目の前にいる人物をユウは知らなかった。と、思えるほどどこか違った雰囲気があった。


「なんだか急に馬鹿らしくなってきた。地上に戻ろう、そろそろ騒ぎも収まっているだろう」


「あの、エリーさん?」


「はあ、まさか死んだ木が残した根に足元をすくわれるとはな、なんていうか皮肉な感じだな」


「あのー」


「……なんだよ、さっきから?お前の事はもう水に流してやるから別に気にするなよ」


「いえ、そうじゃなくて。その――服が」


「服?」


 エリーはユウに指摘されて自分の今の服装を見た。もともと使用人の制服をがっつりと改造して、至る所に穴が開いていたりする、布面積が少ない服装だったが。今はさっき転んだせいで水をかぶってしまって。水に濡れた服が体にぴっちりと張り付いて、スケスケになっていた。ユウに指摘されてそれに気づいたエリーは頬を赤らめて。頭から煙が出そうなほどだった。


「――ひっ、み、見たな?や、やっぱり、ここで殺す」


 エリーは屈みこんで、濡れた服を見えないようにした、


「理不尽――」


 その時、ユウはエリーに理不尽だ。っと言おうとした。しかし、その一瞬ユウはあることに気が付いて、言葉を失ってしまった。


「どうかしたのか。ユウ?殺される準備ができたのか?」


「い、いや。何でもありませんよ。そ、それに俺には心に決めた人が居るので。別に何とも思いませんしね。ハハハハハ」


 ユウは誤魔化して、何とかその場を切り抜けようとする。それは服が透けてしまったエリーを見たからではない。ユウはその時に見えてしまったのだ。エリーの胸元に刺青がしてあった。それもユウがこの城に来てから見たことのある紋章の刺青だった。

 王の紋章。その刺青をした人間。ヒエラルから聞かされた注意すべき人間とユウは今相対していたのだ。

扉は道の始まり、異なる空間と場所を区切る物。

ユウは、今、から扉を開いて命に繋がる道を見つけるだろうか。

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