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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第十三話:命に繋がる扉・2

扉の先、道が示す先でユウは何を見て、何を得るのか。

 王女の部屋の隠された扉、その先の階段は狭く、曲がりくねった道だった。

 ユウは一歩一歩進んでいくと、そこに微かに何か臭いがした。良い臭いではなかった。しかし嫌な臭いでもなく、ただ鼻に着く臭いだった。

 階段を下りる。臭いは少し強くなった気がした。するとその先に明かりを発見する。

 その明かりは階段から横に伸びた個室の扉だった。その扉はまるで監獄の扉のような趣で、上部には覗き窓が付いていた。明かりはその覗き窓の形を移すように、四角い光の輪郭を階段に作っていた。

 ユウは覗き窓に恐る恐る目を近づけて、中を見た。

 そこは扉から連想されたものと同じ、監獄のような場所で、隅には古いベットがあった。そしてその古いベットの上にまるで枯れた植物のようにひっそりと、体の大部分を包帯で巻かれた人物が力なく寝転がっている。

 ユウはその人物に恐怖を感じた。包帯で巻かれた見た目にではない。その人物がユウの存在に気づき、じっと、そしてしっかりと視線を送って来ていたからだ。

 その視線にユウは釘付けになってしまった。目を逸らせない。逃げられない。立ち去れない。気づけばユウは扉を開けて、その部屋に足を踏み入れていた。


「……あ、あの。俺、ユウって言います。その別に何かあったから来たというわけではないんですが……」


 その言葉に、包帯の人物はユウをじっと見つめて、黙ったままだった。

 すると――


「ウッ、ウグッ、グッ……ぐぁーぐぁあぁxgぅあぁぁxぐぁーーー」


 その包帯の人物が突然に苦しみだし、大きな唸り声を上げた。体をくねらせて、悶え、その包帯の撒かれた自らの腕を壁に叩きつけた。何度も何度も、苦しみ呻きながら血が出るほどに腕を叩きつけ続けた。

 しばらくするとその人物は落ち着いて、息を切らして元通りになった。しかし腕と壁は血まみれになって、包帯は解けかけていた。

 ユウはただ、どうすることもできなかった。しかし決して、驚いても恐怖していても目を逸らすことができなかった。この叫び声をユウは一度耳にしたことがあったのだ。それはディナールと共に隠し扉に入った時の事だった。恐らく壁越しに響いたのだろう。だが間違いなかった。


「本当に、一体あなたは何者なんだ?――話すのは難しいか、そもそも俺の声は聞こえているのか」


 ユウは独り言のように言った。何かが引っ掛かった。ユウには別の場所でその叫びを耳にしたことがあるような気がした。壁越しの声ではない。そもそも本人の物ではなく別人の叫び声で、しかしよく似た叫び声だった。

 カプツィナ病。俗にそう呼ばれる病は発症すれば肉体を蝕み、想像を絶する苦痛に無意識的に声を上げてしまうこともある。そして体のあらゆる器官が破壊されていく、聴覚や、味覚。心臓の鼓動さえも。そして恐ろしい事に体が蝕まれようと、その意識が失われるとは限らない。

 つまり運が悪ければ何年も、意識がはっきりしたまま死ぬまでこの治療法がわからない病と共にいなければならないのだ。

 目の前の人物にただ呆然とするユウだったが、その人物はユウに紙を1枚取り出して見せようとした。

 ユウの言葉が聞こえているかどうかさえもわからない。しかし、その眼には確かに光があった。もしかすればユウの口の動きで何を言ったのかを視覚的にとらえたのかもしれない。

 ユウはその紙を受け取った。しかし、それには何か文字が書いてあったが文字が擦れていて何が書いているのかわからなかった。


「これを俺に?と、とりあえず受け取って置きます。そうだ、俺がここに来たことはどうか王女殿下には内緒にしてください。お願いします」


 ユウは頼み込んだ。すると、その人物が小さくうなずいたように感じた。やはり会話はせずとも意思の疎通はできるようだった。

 それよりもユウはこんなことをしている場合ではない。手渡された紙を手にユウはその場を後にした。

 慎重に階段を降りる。しばらくして階段が終わり、まるで人口の洞窟のような人が一人通るのがやっとな狭い道に差し掛かった。そこは古くて汚い場所だったが。誰がが最近通った形跡はあった。




 ユウはその抜け道から一度外に出た。そこはユウ達が普段出入りする門の反対側の、濠に架かっている橋の下に隠れるように作られた出口だった。

 しかし、ユウはここから外に出てしまうと、逆に城の中に戻ることができなくなってしまうため引き返さなければいけない。

 ユウは来た道を引き返した。途中他に幾つかの小部屋はあったが道は無く、一本道だった。その為戻るならばまた王女の部屋を通らなければならない。ユウは急いだ。狭い道を抜け、階段を上り、元居た隠し扉まで来た。幸いまだ扉は開いたままだった。ユウは扉から飛び出ようとした。しかしそうしようとした瞬間。王女の部屋から声が聞こえた。


「……それで聞いてくださいよ、ディナール。ヴェローナ君、私ともっと話がしたいって言うんですよ、ですけどあの人何の話をしたと思います?金属生体魔素操作の基礎とその応用。何というかさっぱりわからない難しい話ばかりで、私飽きてしまいました」


「王女殿下、その無いようでしたら殿下もとっくに学んだはずですが……」


「……と、とにかく。それは良いんです。それにしても私より二つ年下とお父様から聞いているのですが、絶対本当はもっと年上ですよね?」


「殿下……それは殿下が幼いだけです」


「な、べ、別に幼くない――背は、少し小さいかもしれないけど」


「殿下?」


「……別に、何でもない。私は出来損ないだって、みんなそう言ってるし。実際、王様になるのだってディナールやヴェローナ君の方が向いてるもの」


「……殿下。そんなこと言わないでください。あなたの素晴らしいところを私は知っています。決して、あなたは出来損ないなんかじゃありません――今から絵を描くのでしょう?良ければまた今度見せてください、あなたの描く美しい世界を」 


「ディナール。あなただけです。私の本当の友人は。付き合いだってこの城に来てからで、短いのに」


「王女殿下――私は友人だとは思ったことはありませんよ」


「そんな」


「冗談ですよ、何時の日か言ったでしょう?ずっとずっと友人で居ましょうと。まさかお忘れですか?」


「もう、忘れるわけないでしょう」


 ユウが耳にしたのは王女と、ディナールだった。

 ユウは急いで隠し扉の中に戻った。こうしなければ王女と鉢合わせしてしまう。それだけは避けなければいけなかった。

 ユウは扉を閉めて、階段を下りた。部屋の音がある程度聞こえるように一定の距離を保って階段に座った。

 しかしユウが閉じた扉はすぐにまた開かれた。王女が入ってきたのだ。


「食事。食べてくれたでしょうか?全く、食糧庫で盗みがあった時はどうしようかと。本当に人騒がせです」


 王女は一人ぶつぶつと独り言を言いながら、階段を下った。

 ユウは後悔した。なぜなら王女がもう少し階段を下りてくればユウを見つけてしまうのだ。しかし今から階段を下りても足音で気づかれてしまう。

 どうしようもなくなってユウは息を殺し、王女の足音に耳を澄ませた。心臓の音が大きく聞こえる。

 しかし王女は途中で階段を下りるのをやめた。

 足音が途切れ、バタンと扉の開閉する音が聞こえた。 

 ユウにとってそれはまたとないチャンスだった。足音を出さないようゆっくり、かつそれでいて急ぎ足で階段を上る。王女の入った部屋の前に差し掛かる。その時ユウは覗き窓から漏れ出る光にさえ気を付けるほどに慎重に進んだ。

 この時のユウにはなぜこんなところに人が暮らしているのか、はたまたなぜ王女がここに居るのか、あらゆる何故を考える余裕が無かった。

 



 ユウは間一髪で隠し部屋から気づかれることなく脱出した。

 その後はネイに助けられて、ヴェローナと合流した。


「ご苦労だったな、ユウ。それで隠し部屋は見つかったか?」


「はい。見つかりましたよ、奥まで見てきましたよ。逆にこっちが見つかりそうにもなりましたけど」


「それは上出来だったな」


「あの、それでなんでこんなことを?地下に居た人が何かあるんですか?」


「地下に人?――いや、それより出口はどこだったんだ?」


「裏の濠に架かっている橋の下です」


「おお、そこまでわかっているのか、上出来以上だ。ユウ。これであの穴を塞げば王女殿下が抜け出すことは無くなるな」


「あ、それが理由なんですね」


「当たり前だろう、他にどんな理由があるんだ?」


「まあ、確かに」


「ディナールは友人だからか、王女殿下に甘いところがある。だから部屋を無理に調べたりできなかったのだろう。だが、勝手に街に出る方が危険だ。もし、さらわれでもしたら目も当てられない」


「……何というか、意外ですね」


 ヴェローナは王女とは元々は敵国の国の王子だ。それなのに何故、強引な手を使ってまで彼女のために行動するのだろうか。ユウはそう思って、思わず口にしてしまった。


「意外、か。確かにそうかもしれないな。滅んだといえ元々は敵国だ、それもその国の王族同士。俺が王女殿下のために何かすることは意外と言われてもおかしくはない」


「あの、すいません。別に変な意味は無いんです」


「良いさ、なあ、ユウよ。少し俺の話を聞いてくれるか?俺自身の事だ。俺たちが仲間になるなら言っておくべきことなんだ――俺は王となるために生まれてきた。何故だか分かるか?」


 何故っと言うと、果たしてそんなものがあるのか、ユウにはわからない。だが、あるとするならただ一つしか思いつかない。


「先代の王様の子として生まれたからじゃないんですか?」


「それは一般的な回答だな。だが、それは本質だろうか?結論から言うと、それだけではないと俺は考える。そもそも、王の子であったから王となるというなら、俺はすでに王様になっているな」


「確かに、それはそうですね」


「違うんだ。王の子が次の王になるのなら。例えば、逆に考えてみればいい。王の一世代前もその前も、その前もさらにその前も王は王だった。だが、その王の血族の祖とされる人物の父は王だったか?――神話ではなく、現実の話だ。俺は王ではないと考える。当然だ。王の血族の一代目の前が王であればその人物が一代目であるからだ。ではなぜ一代目の王が王であるのか――あるいはなぜ王は王として君臨するのか。なぜ民が王に平伏するのか?――平伏する理由は簡単だ。王は皆、民に強制する力があるからだ。そしてそれは、一般的に()()と呼ばれている」


「あの、話が見えないんですが?」


「そうだな、少し話が逸れたかもしれない。俺は昔から話が回りくどいとよく言われる――まあ、つまり。権威というものには二種類あるということだ。一つはユウもさっき言っていた権威、つまり、王の子として生まれたことで得る権威だ。別にこれも悪いものじゃない。俺も昔はそれを確かに持っていたしな――だが今は、俺に権威を与えていた血族は断たれて、それを失った。だが、それでも俺は王となるために生まれた」


「……だから、取り戻そうということですか?」


「違うな。俺は一度失った物に興味は無い。俺が欲しいのは受け継がれた権威ではない。俺が欲しいのは一代目の、祖の権威だ――それがどうすれば手に入るのかは俺にもわからない。ただ、そのためになると思えば、俺は何だってするさ」


「……祖の権威を手に入れるために今は王女殿下に忠を尽くしているってことですか?」


「そうだ。一代目の権威を手にするまではだがな」


 ヴェローナの言うことがユウにはやっと理解できた。

 つまり、ヴェローナは自分の存在に意味を見出したのだ。存在する理由は王となるため、そのためには王女に忠を尽くす。しかしそれは決して王女の権威にすがるものではない。それはヴェローナの求める権威ではないのだから。

前書きにある程度のあらすじを書くか迷う。後キャラクターの名前とか、わかりにくいかなって。

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